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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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パーティで候(ソロ)

「ちっ!ゲス野郎…。ーーおっさん、いいのかよ、こんなやつの代わりにアイツやられちまうなんて…。助けに…」


カプチーノはけしかけた張本人のくせにティラミスを本気で心配しているようだ。


それが証拠に前のめりになり既に呪文をいつでも繰り出せるようにスタンバイしている。


それもギガスパーク・マキシマムと呼ばれる光属性の攻撃呪文。範囲内の敵に大ダメージを与える大技をである。


「まあ、慌てるな。ドラゴン程度にやられるほど柔には育てた覚えはない」


「随分な自信だな…」


カプチーノはせっかくの好意を踏みにじられたことと奇妙な対抗心からかひねた顔つきで俺を見上げる。


「モナカ、マルガリータちゃん。すまないがこの伸びきったスルメイカのようなどこぞの城のお坊ちゃんを俺の城へ運んで手当てしておいてくれ。このお坊ちゃんの親御さんから猛抗議されたらたまらんのでな」


「ティラちゃんは?私はティラミスちゃんの方が断然心配なのです」


「マルガリータ。ありがとう…。心配してくれて。だが俺とトリュフがついている。大丈夫だ」


「で、でも」


「期待しておるぞ。若き勇者たちの卵」


モナカとマルガリータは二人顔を見合わせる。


マルガリータは嬉しそうに顔を輝かせた。モナカは律儀に襟を糺すと背筋を伸ばしこう言った。


「ま、魔王様。あ、ありがたき屈辱!ーーじゃなかった…。ありがたき幸せ!」


二人はこうして協力してババロアを運んで城へと戻っていった。


その間もティラミスは抵抗することなく、傷ついた子供の桜ドラゴンを看病し続けていた。


トリュフは細い竹の先にポンポンのような房をつけ、ドラゴンの気を引こうとしていたが、怒っているドラゴンには何の効果もない。


「おっさん。やっぱ、ダメだ。俺がアイツらを始末する」


痺れを切らしたカプチーノが飛び出した。


「ダメ!」


ティラミスが叫んだ。

「ダメって何だよ?ほっときゃ、やられちまうだろう」


「でもダメなものはダメなんです!」


「コイツらに言葉なんて通じねえよ。このままじゃお前がやられちまうんだよう。ババロアみたいな奴の代わりに」


「通じるか通じないかはやってみなければわかりません」


「通じてないから突っつかれたり、殴られたりしてんだろう?お前バカか」


「笑いたければ笑えばいいのです。私は諦めません。言葉で伝えられる気持ちなんて私たちの中にあるたくさんの気持ちの中でごくわずかでしかありません…。助けたいと思う気持ちは助けるという言葉を越えるんです」


「そんなわけあるわけないだろ!戦いたくないならそれでもいい。とにかくソイツから離れて逃げろ」


カプチーノは左手で払うようなしぐさをしてティラミスに逃げるよう指示する。しかし、ティラミスは頑としてその場を動かない。


それどころか、傷ついた子供ドラゴンの傍に腰をおろし、優しく介抱を始めた。


「ごめんなさいね…。話が長くなってしまって…。ーー大丈夫。怖くはないです。私はあなたの敵ではないから。傷を治すからじっとしていて」


ティラミスはヒールの呪文と共に優しくドラゴンの背中と腹を擦る。


抵抗していたドラゴンも気持ちいいのか成されるがままになっていく。


その子供の様子に親ドラゴンたちが戸惑い始める。


「よし、いまだ!」


トリュフはポンポンを投げ出すと親父ドラゴンに飛び掛かり、背中にしっかりとしがみつく。


ゆっくりと背中を撫で落ち着かせると首元に回り、今度は喉を撫で回す。

親父ドラゴンの興奮した鼻息は徐々に鎮まり、湯船にでもつかっているかのようなとろーんとした顔つきになっていく。


「さあ、カプチーノ少年。君もぼさっと突っ立っていないで他のドラゴンも落ち着かせるんだ!」


「えっ?あ、ああ…」


気乗りしないものの促されるままカプチーノも近くのドラゴンの気を鎮めにかかる。

「よおし、いい子だ。もう少しで治療も終わるからな。邪魔しないでおとなしく見ているんだぞ」


トリュフは諭しながら、喉元を撫でる。ドラゴンはゴロゴロと喉を鳴らしながら目を細めていく。

「さあ、治療は終わりました。父上様と母上様それに家族みんながご心配してますよ。みんなのもとへお帰り」


ティラミスが子供ドラゴンにそう話しかけると、身を震わせてドラゴンは立ち上がった。


しっくりこないのか、たどたどしい足取りでゆっくりと親元へ戻っていく。


それを見届けると、トリュフは目配せし、カプチーノと共に地面に降り立つ。


子供ドラゴンが手の届く範囲までくると母親ドラゴンが真っ先に駆け寄り、顔を一舐めした。


家族総出で頭を擦り付けひとしきりじゃれあう。


家族愛の儀式が一段落すると親を先頭にドラゴンたちは森の奥へと帰っていった。


ティラミスは満足げにその様子を見送る。日は落ち始め、夕焼けが空一杯に広がっていた。


俺はティラミスに近づき、労いの意味で肩に手を置こうとした。


「ティラミス、肩は大丈夫か?」


俺は赤く染まったティラミスの肩に気づき、手を引っ込めた。かなり手酷く攻撃されたようだ。


そりゃそうだ。子供を守ろうと相手も必死なのだから…。


「大丈夫…。ですが、大丈夫ではないです」


「の割りには笑顔だが…」


「いいえ。ティラミスはきっと重傷で大変なことになるでしょう。早くお城に帰って手当てしてもらわないと…。私の足では間に合わないかもしれません。パパ上様に背負って走っていただけないときっと私はダメになってしまう」


ティラミスは悪戯に目を輝かせる。


「困ったやつだ。ーーお友達のいる前で…」


俺はティラミスを背中に背負った。


「へへ…」


ティラミスはカプチーノを見る。


「な、なんだよ…。こっちみんなよ。っつうかお前ガキだな」


「羨ましいのですか?」


「んなわけあるか!」


カプチーノがムキになる。


「妙につっかかるなあ…。カプチーノ、お前がこんなにしゃべるとは思わなかった。どういう風の吹き回しだ?」


俺が少しカプチーノをからかう。


「何だよ、魔王まで…。娘と仲良しで、本当によく似た親子だぜ」


カプチーノが顔を背ける。


「時にカプチーノ。お前の親は?」


「関係ねえよ…。あんな弱虫野郎。どうでもいいだろ、俺のことなんか」


そう言ったカプチーノの顔はどこか寂しそうに見えた。


「さあ、城に帰って手当てだ」


俺が歩き出すと、カプチーノもトリュフも続いた。


「トリュフ…」


ティラミスが眠そうな目でトリュフを呼び止める。


「何でございますか?ティラミス様」


「あなたの作った超速攻一気に回復薬…。あれを頂戴したいのです」


「ええ、構いませんが…。ティラミス様、あなた様の作りおきがあるのでは?」


「こういう時にはあなたの作った薬が一番効くの…。お願いね。それと薬草も」


ティラミスは眠りに落ちそうだ。

「はい」


トリュフは静かだが嬉しそうに返事する。


「ーーそれと、もう一つ…」


「?」


「トリュフ…。あなたのその手に持っている素敵なポンポン…。それを私にくださいな。傷が癒えたらパシェリとあそんでやるのです。きっとパシェリは喜ぶでしょうから…」


ティラミスはそう言うと微かな寝息をたてはじめた。


「ああ、ティラミスの奴。寝ちゃったよ…」


呆れ顔でカプチーノはティラミスの横顔を見ていた。


俺は何とも心地よい背中の温もりと寝息に起こさぬようゆっくりと城へと戻っていった。







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