ババロア、子桜ドラゴンを狩る
「子供を苛めてうっかり親に逆襲されれば目も当てられんからな」
「あっしは料理と後片付けで手一杯でやすが、トリュフなら桜ドラゴンの生態にも詳しいはずです。あっしから言っときますんで、魔王様はあのお坊っちゃんたちを何とか」
「うむ」
俺はパエリアの肩を叩き、食堂を後にしようとした。
「おっさんは人がいいなあ…。ほっときゃいいんだ、あんな奴ら。叩くまで敵の力量がわからない奴は叩かせてみりゃいい…。そうすれば身の程をわきまえる」
「カプチーノか…。まあ、お前の言うこともわからないでもないが…。一応招いた客人であるしな。そうもいかん。ーーそれに…。たとえ嫌いな輩であってもティラミスがそれを許さない。そういうやつだ」
「へえ…」
カプチーノは冷ややかな表情で奥でマルガリータたちと談笑しているティラミスを見た。
「ティラミス!」
カプチーノがティラミスを呼ぶ。おい、カプチーノ…。人の娘を呼び捨てにするとはいい度胸だ。しかも俺の前で。
俺はむかついたが、大人として冷静かつ紳士的な態度を崩さなかった。
「何?カプチーノ」
ティラミスが近寄ってくる
「ババロアのバカ息子が桜ドラゴンを狩るみたいだぜ。面白いから、見学にいくけどお前はどうだ」
まるでカプチーノはティラミスをけしかけているようだ。ティラミスがそれを聞いてどうするかカプチーノはわかっているはずだ。
「本当ですか、パパ上様!」
ティラミスの顔色が変わる。
「ああ…」
カプチーノめ。余計なことをティラミスに言いやがって。内密で処理する予定が狂う。
「パパ上様、ババロアたちを止めてまいります!」
「ふふふ」
思い通りに事が運んだことにご満悦なのか、ひねた笑いをカプチーノは浮かべる。
切れ長の目と色白の顔色は狼のような風貌だ。
普段は無口なカプチーノだが、事件となるといつもこのような形で絡んでくる。若さゆえなのか、どこか思春期特有のひねた毒を持っていて掴みづらい。根はいいやつなのだが…。
俺はゆっくりと移動するカプチーノを尻目にティラミスの後を追った。
ババロアたちより先に桜ドラゴンを見つけ、追い返してしまおうと考えたからだ。
俺は珍しく走った。でもこの歳で全力疾走は気恥ずかしい。
チートな能力のおかげで息切れや動悸、目眩はないもののいかにも必死こいてますという態度がどうも性に合わないのだ。
できれば悠然と歩いていきたい。
大した距離じゃないし…。
俺は小走りを止め、歩き出した。多少早歩きで…。
「やめなさーい!」
不意に森の中からティラミスのよく通る叫び声が聞こえた。
反響は数秒間木々を揺らし、空気さえも震わせる。
カラスとサーペントが一斉に飛び立つ。
歩いている場合ではない。俺はすぐさまティラミスのいる場所へ駆けつけた。
俺がティラミスの元に到着した時にはババロアたちの目の前に大きな桜色の物体が横たわっていた。
時折、うめき声をあげながら体を震わせ、起き上がろうともがいている。
身体中傷だらけ。体のなりは大きいがまだ子供。大人のドラゴンはこの倍はあるが、ババロアたちは満足げだ。
「やっほー!ーー何だ、魔娘。お前も狩りたかったのか?一足遅かったな。もうこれは俺様たちの手柄だ。今更お前が口出ししてきたって無駄だぜ」
ババロアは剣先をティラミスの鼻先に向けた。
「何てことをなさるのですか…。桜ドラゴンは無害な竜です。いじめてはなりません」
「いじめるな?勇者がドラゴン狩って何が悪い。大体だなー、お前生意気だぞ、たかが魔王の娘の分際で…」
眉間にシワを寄せたババロアはティラミスの鼻先にある剣先を上下に軽く揺さぶって挑発する。
ティラミスは無言で睨み返す。
「ババロア・プリンス様。こいつまだ、息してます」
ババロアの手下がぐったりしている桜ドラゴンを指差す。
「何?俺様としたことが…。よおし…。一思いに俺様がトドメをさしてやろう」
ババロアが剣を振りかぶる。意を察した桜ドラゴンが首を振りながら「ピー」と甲高い声で一声鳴いた。




