桜ドラゴン
「しっかりしろ、モナカ」
カプチーノは介抱しているモナカを揺り動かす。
「こ、これは魔王様。とんだ醜態を晒しまして本当にありがとうござい…。じゃなかった。本当に申し訳ございませんでした」
「相変わらず、律儀だな…、モナカ。奥の食堂にショコラが案内するから、そこで休ませてやれ」
カプチーノは軽く頭を下げると、城の中へ進んでいった。
他の者もようやく落ち着いたのか、城の中へ移動する。
「ヒール!ヒール!ヒール…。おかしいなぁ…。じぇんじぇん気分がすぐれない…」
最後に入っていくティラミスの背中にはマルガリータがいた。自分を回復しようと必死にヒールの呪文を唱えている。
が、全く効果がなく、首を捻っている。
「マ、マルガリータちゃん。私はHP全快だから…。自分を回復して差し上げて…」
ティラミスがマルガリータの過ちをおずおずと指摘する。
「ふにゃー!また、やっちゃったー。ど、どうしよう」
マルガリータはティラミスの背中であわてふためく。ティラミスが宥めるが、止まらない。
回復だから、別にそこまで取り乱すことねえだろう、マルガリータ。
ティラミスは右に左に揺られながら城の中へ消えていった。俺もそのあとへ続いた。
城の内部や昔あった仕掛けなどをショコラが一行に説明しながら、隈無く歩いていく。
もの珍しげに一行は説明に耳を傾けながら、見学をしていく。
モナカは熱心にメモを取り、カプチーノは詰まらなそうに腕を頭のところで組み、ババロアはホラの自慢話を垂れ流し、マルガリータは相変わらず、迷子やズッコケを適当にかましていた。
一通り、見学が終わると、一同は食堂に案内された。人数も多いので立食 パーティと相成った。
この方が皆、テーブルを行き来しながらワイワイ楽しめるだろう。
城の者たちとも結構話が盛り上がって俺もその様子を満足げに眺めていた。
「大盛況で…。お嬢もうまく学院生活を送っていらっしゃるようでなによりでやす」
パエリアが俺にオードブルの皿を差し出しながら呟いた。
「ああ…。安心した」
俺はそう答えた後、オードブルの皿から自家製サラミとチーズをつまんで口に運んだ。
ふと横を見ると、食堂の出入り口付近で怪しい動きが…。
ババロアとその手下をする貴族のガキどもが何やらコソコソ話している。
俺はさりげなく近寄り、耳をそばたてる。
「この森の入り口付近にピンク色したドラゴンがいたんだ。馬車でくる途中で見たから間違いない」
「面白い。親父への手土産にいっちょ狩って帰ろうじゃないか…。初めてのドラゴン。親父喜ぶぞ…。間違いなく小遣いアップだ」
ババロアは上を見上げて、白い歯を見せた。
「そ、そしたら僕たちにもお裾分けしてもらえるのかな」
「あったりまえじゃないか…。君たちはこれから王国を背負って立つ、若きプリンス、ババロア様の参謀候補生なのだから…。しっかり忠誠を尽くせば礼も地位も…」
ババロアは人指し指と親指で円を作り、手下どもに見せる。
手下どもはニタニタとやらしい笑いを浮かべる。
「よーし!善はいそげだ。暗くなる前に一狩りして戻ろう。ぐずぐずしていると鼻のいい誰かさんに手柄をかっさらわれるからな…。いくぞ!」
ババロアは近くの壁際に一人背中を預けるカプチーノを一瞥すると、手下を従えて食堂を出ていった。
弱小と罵りながら、ババロアはカプチーノに何かを感じているようだ。
まあ、自分になびかないのが気に入らないのかも知れないが…。
それにしても困ったことになった。
「魔王様…」
頭に空の皿を幾重にも重ねたパエリアが俺に話しかける。どうやらパエリアもババロアたちの話を聞いていたらしい。
「うむ…」
「ピンク色といいやしたら、桜ドラゴンに違いありやせん。恐らく、岩山を越えたところにある海岸の対岸にあるチェリー諸島から流れてきやしたんでしょう…。群れからはぐれたのが時々、春先にひょっこり顔をだしやすんで」
桜ドラゴンは大人しい性格だが、家族思い。うっかり子供でも叩こうものなら親が出てきて袋叩きにあう。
一度興奮すると見境がなくなり、一苦労だ。ちなみにドラゴンだが炎や氷は吐いてこない。
吐くのは世にも珍しい桜吹雪だ。
綺麗だなどとうつつを抜かしているとたちまち埋もれて窒息してしまうので注意だ。




