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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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あれほど注意したんだけど

ただ、それより上の世代になるとアレルギーがあるようだ。


元来、モンスターを敵や悪と見なして育ってきたのだから当然だ。


偏見もまだまだ多い。


早く心からわかりあえるようなワールドを築きたいものだ。


俺はティラミスたちの様子を目を細めながらそんなことを考えていた。


「魔王様、何をそんなにやらしい目付きで眺めていらっしゃるんで?」


厨房から食堂に料理を運び入れようと廊下に出てきたパエリアが俺に声をかける。


「べ、別に。俺はティラミスと子供たちの様子を微笑ましく眺めていただけだ」


俺は顔を引き締めた。本当にそんな顔をしていたのだろうか?もし本当なら俺はただの変態ではないか。


「なーるほど。お嬢がご一緒で…。それじゃあ、仕方ありやせんな」


パエリアは寸胴の大きな鍋を抱えて、歩きだす。どうやら含み笑いをしているところを見ると、パエリアを俺をからかったらしい。


「あ、いい匂い…。パエリア、今日の朝食は何?」


ティラミスは目を瞑り、鍋から漂う香りを堪能する。


「かぼちゃをとろっとろにとろけるまで煮込んだポタージュと黄金豚のカリカリベーコン、菜の花サラダと自家製小麦で焼き上げたベーグルでございやす」


「こうしてはいられません。さあ、食堂にいそぎましょう」


ティラミスは子供たちの背中を優しく叩いて、促した。子供たちをそれを合図に愉しげな声をあげ、食堂に走っていく。


「さあ、私たちも参りましょう」


子供たちが食堂に入るのを優しく見守ると、今度は俺たちを促した。


ティラミスはパエリアの手からひょいと鍋を掴んだ。


50人前はあるが、涼しい顔をしている。


「お嬢、あっしが運びますのに」


「いいじゃないの。たまには手伝わせなさい。パエリアに任せっきりじゃ、罰があたるもの」


「お嬢、本当に立派になられて…。あっしは…あっしは…」


パエリアはポケットからハンカチを取り出し、目頭を拭う。


「大袈裟ね」


ティラミスは困ったようにため息をつくと、パエリアの背中を優しく叩いて、食堂に入っていった。


俺もゆっくり歩いていく。


食堂は既に満員御礼。相変わらず、ワイワイと楽しそうにお喋りをしている。


俺はいつもの席につく。ティラミスはショコラの隣に座り、二人で笑いながら談笑していた。


「あら、魔王さまあ」


ショコラが俺に気づき、手を振る。俺も一応朝の恒例行事として手を振り返す。


「愉しそうだな…。何の話を二人でしているんだ?」


「ティラミスちゃんの修道服姿、ご覧になって?すっごく可愛いんだもん」


「ああ…今朝な。もう一年経つのか」


「早いわね…。去年の今頃は簡素な支給用の布の服を着せられていたのに」

「仕方ないわよ。魔道学院は一年生は布の服。二年は修道服。来年から自由になるのだから…。今年一年の我慢だわ」


ティラミスは両袖を不満そうに引っ張る。去年から同じ年頃の友達を作るべく、学校に通わせている。


「あら、嫌なの?とってもお似合いなのに…。私、見ているだけで浄化されちゃいそうだもの」


まあ、ショコラよ、確かにお前は悪魔だが。間違っても灰になってくれるなよ。


「うん…。私、武闘着がいいの。動きやすいし、格好いいし…」


「ティラミスちゃんは勇者だから鎧とか盾とか兜が好きなのかと思っていたわ」


「あれ、明らかに動きにくい。重くて疲れます」


「なるほど」

ショコラは感心したように深く頷く。


二人とも防御力はどうする?まあ、強化値を上げれば大した問題ではないのだが…。


「あ、もう一つ大事な事を忘れておりました。パパ上様、学校から帰ったら、今日は城にみんなを招待したいのですが」


「魔道学院のか?」


「はい。みな興味津々で…。特にレベル1の下級生たちなんか興奮してしまって…」


そうだろうな…。雲の上の場所だからな。


「わかった、では準備をしておこう。ズッキーニ、ショコラ。二人を中心に飾りつけやら、道案内を。トリュフたちは城の外の警備を。食事はーー」


「あっしにお任せを…」


パエリアが左手のひらを胸にあて、頭を下げる。


「ーーなるほど…。それで今日は学院が休みなのにそんな格好をしていたのか…」


「ええ。学院前に集合ですので午後から迎えにいって参ります」


「そうか、何人くらいくるのだ?準備もあるからある程度数がわかると皆もやりやすい」


俺はカップのコーヒーをたしなんだ。


「そうですねえ…。50くらいでしょうか」


「大所帯だな。まあ、その位なら間に合うだろう。どんな者たちが来るんだ?」


「マルガリータちゃん…」

ピッツァ・マルガリータ。ブロンドカーリーの髪にカーチューシャをした瞳の大きな娘だ。


オラクルという補助や回復を専門とする家柄の生まれなのだが、本人はガンガン魔法攻撃を撃ち込むウィザードになりたいらしい。


転職の道を選べば回復出来て、火力も強い強力なマジシャンになるが、マルガリータはとんでもないドジッ娘だ。


回復する仲間を鈍足したり、毒に冒したり、出血させたりするばかりか敵を全快したり、攻撃力・守備力をあげたりしてしまう困ったちゃんだ。


ティラミスとは入学式で友人となり、今に至っている。


「あとは…。トロールのモナカでしょ。それとカプチーノ…」


「あの生真面目な坊っちゃん刈りのモアイ君と無口な奴か」


「あとは主な者は、ババロアでしょうか・・・」


ティラミスが遠い目になる。思い出したくもなさそうだ。



「ああ、あの王子も来るのか。大変だな」


ババロア・プリンス。ババロア国の王子だ。このワールドは7つの大陸に分かれているのだがこのワールドで一番でかい王国を仕切るのがババロア王国だ。


態度が傲慢でやたら他人を見下すとんでもない奴だ。


ティラミスのことを魔王家の出自として見下している。何かと絡んでくるらしい。ティラミスよりはるかに弱いくせに自分ほど強い人間はいないと思っているらしい。


「まあ、来るものは拒まず、去る者は追わずだ。それにここはお前のホームだ」


「わかっております」


ティラミスは静かにベーコンを口に運んだ。


「それより、ティラミス、気を付けろ。人さらいが最近多いらしいからな。この間もお前さらわれかけただろう」


年頃の娘を持つと心配が絶えない。


「ええ、道を尋ねられたもので。ストレンジャーかと・・・。気をつけますわ」


「うむ…」


俺はそれ以上の問答を避け、食事を続けた。食後の紅茶に手を伸ばすころにはティラミスは子供たちを連れだって、城の庭に出ていた。


子供たちに楽しげに何かを教えているようだ。俺はその様子を耳で聞きながら、ゆっくりと紅茶を味わった。

午後になると早めに昼食をとったティラミスは元気よく城を飛び出していった。


俺はそれをショコラと二人で見送る。


「気をつけるのだぞ」


「あい。わかっております」


ティラミスは手を振り、軽やかな足取りで走っていく。途中サーベルタイガーが茂みの中から唸り声をあげて飛び出してきた。


しかし、襲い掛かる相手がティラミスとわかると、踵を返し、茂みの中にぴょんと一飛び、逆戻りしてしまった。


もう、城近辺の森でティラミスに歯向かおうというアニマルは一切いない。


ティラミスも一旦足は止めたが、茂みにサーベルタイガーが逃げ込むのを見届けると、再び走りだした。

ブルーの修道服が見る間に小さくなっていく。


「行っちゃったわね…」


「さあ、俺たちも準備がある。早く飯でも食って取りかかろう」


俺はショコラの背中を軽く叩き、城の中へ入っていった。


俺が食堂に入り、席につくとトリュフが血相を変えて飛んでくる。


手には電話の受話器。俺が何かの拍子に電話の話をしたら、トリュフが技術の髄を駆使し、作りあげてしまった。


まだ、携帯電話は無理だが、この短期間でワールドの至る場所に電話が引かれ、便利になった。


城の壁の中を縦横無尽に走る線のおかげで城のどこにいても電話が繋がる。


俺はトリュフから受話器を受け取る。


「どうした?どこかの国王からか?」


俺はトリュフに受話器の話口を押さえて、訊ねた。

「いいえ…。人さらいからです」


俺はずっこけそうになった。


「…ティラミス」


俺はため息と共に受話器に耳を近づけた。あれほど注意しておいたのに…。


「あー、もしもし…。魔王か?てめえのところの娘…。預かってんから」


「代わってくれ」


「ほれ、代わってくれとよ、てめえの父ちゃんが…」


「父ちゃんではなく、パパ上様です!」


「どうでもいいんだ、さっさとしやがれ」


受話器ごしに頭をぶつ音が聴こえてくる。嫁入り前の娘だ。手荒な真似はしないでほしい。


「ったいです。ーーあ、もしもしパパ上様ですか?」


「ティラミス、どうしたというのだ?」


「道を尋ねられたものですから、お教えさしあげましょうとしたら…、この有り様です」


「あれほど言ったであろう?道をきくのは人さらいの常套句だと…」


「あら、でも困っている人を無下には出来ませんわ。それに常々、困っている人は助けなさい、とおっしゃられているのはパパ上様なのですから…」


「それはそうだが…。何でもかんでも相手の言うことを鵜呑みにしていいというものでもないぞ。少しは判断というものをだな…」


「ええ、わかっておりますとも。パパ上様はいつも他人様のことをよくわかっておいででいらっしゃいますからね…。さすがは魔の王様であられますこと」


こんなことで皮肉を言われても困る。全く誰に似たのか、口だけは達者だ。


「今は、お前の話をしておるのだ、ティラミス。ーーところで、ちゃんと皆を迎えにいって時間通り帰ってくるのであろうな?あまり遅くなると後片付けやら見学者の帰りの心配やら大変になるのだぞ」


「まあ、大丈夫でしょう。ダメそうならパシェリをキメラ笛で呼びますから」

「そうか、気をつけるのだぞ」


「はい!」


溌剌とした返事が返ってくると、ティラミスの隣にいたであろう人さらいが苛立って「貸せ!」 と怒鳴り声をあげた。


ティラミスの受話器を取りあげたようだ。


「あー、もしもし。魔王様よう?お前ら無事に帰れる前提で話を進めてんけど、嘗めてねえか?こちとら身代金払わなきゃ娘の命をとっ…」


人さらいが言いかけた時、受話器の向こうから物凄い音が聞こえてきた。

多分殴られたり、蹴られたり、呪文を浴びせられたり…。そんな音だろう。それと共に男の悲鳴がこだまする。


俺はあまりの不協和音に眉をひそめ、受話器から耳を遠ざけた。


音が止み、手を払う音がする。


「ティラミス?」


俺は受話器に話しかける。


「あ、もしもし。パパ上様、時間通りで帰ります」


「そうか。パシェリはいらんな?」


「ええ…。ご心配をおかけしました。ではでは」


文末に笑顔の顔文字が貼り付いていそうな声のトーンでティラミスは電話を切った。


「問題ないそうだ」


俺は受話器をトリュフに預け、ショコラに報告した。


「さあ、腹ごしらえをしてさっさと支度をしてしまおう。たくさんの勇者の卵たちが押し寄せてくるのだから…」


俺は食卓につき、皆を見回した。










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