帰ろうか
「別に金を?約束が違うのでは?」
「あたいは別にヘラクレスを狩れなんて言った覚えはないよ。そっちが勝手に言い出したことさ…。まあ、それは付け足しみたいなもんだね。さっさと払わないと、お前の部下たちがーー」
「びた一文…。てめらに払う金はねえ…」
俺がそう言い終わる頃には盗賊たちは鬼ばばあを除いて、倒れこんだ。
「何?」
「俺が今、あっさり倒してやった。感謝しろ。これ以上悪さできないようにしてやったんだからな…。礼には及ばんぞ、金ならここにいくらでもあるからな」
俺は落ちているダイアモンドの塊を一つ手に取った。
「ふざけやがって!あたいを怒らせたらタダじゃ済まないよ」
「だから、礼には及ばないって。盗賊のくせに変なところに律儀だな」
「そういう意味じゃないよ!お前に痛い目をーー」
「瞬殺!」
俺は鬼ばばあを素手で殴り飛ばした。鬼ばばあは泡を吹いて気絶する。
「本来なら10数えてから殴りにいくところだが、退屈すぎるお前らの茶番に付き合わされたせいで数えるのが面倒臭くなった、許せよ」
俺はズッキーニの縄をほどき、他の捕まっている配下たちも解放した。
ズッキーニは泣いてすがりつく。男はよせ。
「ほれほれ、ズッキーニ。倒れている盗賊どもを早く縛らぬか。起き上がってこられてもまた面倒であろう…」
「はっ!私としたことが…。あまりに嬉しくてすっかり忘れておりました。ーーでは早速!」
ズッキーニはようやく俺から離れると、敬礼し、辺りに倒れている盗賊たちを縛りにかかった。
他の配下たちもズッキーニを手伝い始める。
俺はその様子をため息混じりで見つめた後、まだ四つん這いのままのティラミスの元へと歩み寄った。
「大丈夫か?」
「ま、魔王…さまは…。魔王様はもしかして私の父上様なのでございまつか?魔王の城に乗り込んでいき、討ち死にした伝説の勇者様なのでつか?」
「俺はやられやしねえよ…。ただ、本当にサラが言うように俺がサラの…、ええと…、なんだ。ーーほら、あれだとしたら、俺はお前の…父親ということになるが…。確証はない。せめて、サラが生きていれば、もう少し詳しい話が聞けたのだが…」
「そうでつか…。母様も時が来るまでは封印しておくと日記に記してましたし…。残念です」
ティラミスがガックリと肩を落とす。
「ティラミスよ」
「はい?」
疲れきった表情のまま、ティラミスは頭をあげた。半分瞼が閉じそうだ。
無理もない。夜通し、空腹のまま、全力で戦っていたのだからな。
「ピーピー…。キューン」
いつの間にか寄ってきたパシェリもティラミスに頭を擦り付け、甘える素振りを見せる。ティラミスはパシェリの頭を撫でてやる。
「いいのか?俺がお前の父親なのだぞ。人でなしの鬼、悪魔が」
俺はティラミスをヒョイと掴みあげると、背中に乗せた。
「わ、わわわわわわ!ふぁあう!何するのでつ。ひ、一人で歩いて帰れるのでつ。子、子供じゃないのでつ」
ティラミスは一瞬で湯気が立ち上るほど真っ赤になった。
「足怪我しているんだろ?観念せい、どのみち歩いて帰るのは無理だ。帰ったらパエリアのあったかい料理が待っておる」
「い、今はいいでつ、お腹いっぱいなのでつ」
ティラミスはなぜか俺の服をぎゅっとかたく握り締め、顔を背中に埋める。
「そうか?なら、いつでも食べれるようにしておくから遠慮なく言うのだぞ」
「あい」
俺は盗賊たちを近くの町の役人に引き渡すように配下に命じ、城へ向かって歩き出した。
日は既に昇っていた。草木が青々と立ち上がり、風を受け、楽しげに体を揺らす。鳥たちやサーペントがはしゃぎ周り、呑気にスライムたちが散歩を始める。
いつもののどかな風景が目の前に広がる。
「魔王…さま」
城から半分くらいまでのところまできた時、ティラミスが呟いた。
「ん?」
「今はお腹いっぱいでつ…。ティラミスはしばらくこうして魔王様の背中にいたいのでつ」
「そうか…」
俺が振り返った時には、ティラミスはもう眠りの中だった。何とも幸せな寝顔に俺も思わず表情が緩んだ。
ティラミスは以後俺の命を狙わなくなり俺のもとで修業を始めた。真に強い勇者となるために…。




