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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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勇者ティラミス、鬼ばばあと交渉す

「ふん!」


ズッキーニは嫌悪感露に首を背ける。鬼ばばあはその様子に満足げな様子だ。


おそらくコイツの性格はSに違いない。俺はもう少し様子を見守ることにした。


断っておくがチートな俺が万が一にも多勢に無勢だからといって負けることはない。


しかし、人質がいて、状況も把握せず乗り込んでいって事態を悪化させるのだけは何があっても避けねばならない。


それともう一つ。捕まっているズッキーニの名誉のために断っておくが、ズッキーニはそれほど弱くはない。


仮にも前魔王の右腕をしていたほどの実力者。たかが40人程度に簡単に捕まるような柔な男ではない。


俺がそんなことを考えていた時だった。


「てってけてえー、てっててて、てってけてえー」


嫌な予感と最悪のタイミングでもう一つの危惧が自ら名乗りをあげる。


「盗賊ども、覚悟!この勇者ティラミス様がお前らを正義の名のもとに成敗するのでつ!」


岩山の上で高々と剣をかかげるティラミス。かっこよく飛び降りたまではよかったが、着地した瞬間、「ぴぎゃん」と言ってのたうち回る。


左足を押さえている。どうやら挫いた足に響いたらしい。


盗賊どもは一瞬何が起きたかわからず、きょとんとしている。ズッキーニたちはそわそわ落ち着かなくなる。


「何だ、このガキ」


盗賊の一人が怪訝な顔つきでティラミスに近寄っていく。


「ティラミス様、早くお逃げください!あなた様の手に負える輩ではございません」



ズッキーニは顎をつきだして俺が隠れている茂みの方を懸命に示唆する。他の捕らえられた連中も必死でそれに倣う。


「いいや、それはできません。敵わないのはわかっていまつ。でも勇者にはわかっていてもやらなければならない時があるのでつ」


いや、そのセリフは万が一にも勝てる可能性がある時に主人公が吐くセリフだ。ティラミスには万が一にも勝てる見込みはない。


俺が飛び出しても構わないのだが、それができない事情がある。


パシェリだ。ティラミスの姿を見た途端、茂みからとびだそうとジタバタ始めたのだ。


せっかく隠れて様子を伺っているのに盗賊どもにバレてしまう。


俺は飛び出さぬようにパシェリの体の上に馬乗りになり、「グエッ」と一声鳴かぬようにクチバシを押さえ込むのに手間をとられてしまった。


いわゆる取り込み中だ。見守るしか手立てはない。


そうこうしている間にティラミスは「覚悟!」 と叫びながら盗賊の群れの中に飛び込んでいってしまった。


「おっとっと…。威勢のいいお嬢ちゃんだこと」


小バカにしたように盗賊の一人がティラミスの前に立ちはだかった。


甲冑の上から獣の毛皮を羽織った髭面の男はニヤニヤしながら腕組みをしてティラミスの前に一歩踏み出す。


「喰らえ!」


ティラミスは痛む足を引きずりながらも髭面の男に剣を降りおろしていく。


そこそこのダメージを喰らっても男は反撃もせず、相変わらずニヤニヤしている。


周りの盗賊たちもニヤニヤして突っ立っている。

そのうち、髭面の男のHPが半分くらいになると盗賊の一人が回復の呪文をかける。


かけた奴は悠然とその場に座り込み、回復するとまた立ち上がる。


その間は他のヒーラーが髭面の男を回復する。補助魔法を操るグループは髭面の守備力をガンガンあげていき、やがてティラミスの攻撃はカスリもしなくなった。


なるほど…。


さすが盗賊たち。伊達にパーテイプレイ必須の超硬いヘラクレスを叩いてきたことだけはある。


ズッキーニたちが歯が立たないわけだ。ティラミスでは片手間程度のお遊びに過ぎないのだ。


これは早く出ていかないとティラミスが大変なことになってしまう。


しかし、押さえ込むほどにパシェリの抵抗は激しくなる。


「さあて…。そろそろ、お遊びはおしまいだ。お嬢ちゃん、盗賊を甘くみるとどうなるか…。しっかり教えてあげないとなあ」


いつの間にかティラミスを取り囲んだ盗賊の輪がゆっくりと小さくなる。


「まあ、待ちな」


鬼ばばあが輪を押し退けてティラミスの前に歩み寄る。すでにへばって倒れ込むティラミスの髪を掴み、顔を持ち上げる。


「さっき登場した時、お前はたしか『勇者』って名乗ったねえ」


「でも親方。それはガキの戯れ言でしょ?気にーー」


髭面がやれやれといった仕草をする。


「お前は黙ってな!このお嬢ちゃんにあたいは聞いているんだ。ーーお嬢ちゃん、言ったよねえ?」


鬼ばばあはティラミスの髪をぐっと掴みあげる。ティラミスは辛そうな表情を浮かべる。


「い、言いましたよ…。そ、それが何でつか?」

「おかしいじゃあないか?勇者がモンスターを助けるなんて…。勇者はモンスターを狩る。そういうもんじゃあないのかい?」

「ズッキーニたちはモンスターじゃない!仲間でつ!大切な仲間でつ!」


侮蔑ともとれる笑いが盗賊たちから漏れる。


「モンスターじゃなかったら何なんだい?このトカゲは?」


鬼ばばあはズッキーニの頭を小突く。


「止めるのでつ!ズッキーニはモンスターなんかじゃないのでつ。人を襲ったりなんか絶対しないのでつ」

「絶対?ーーそうかねえ…。少なくともあたいたちは襲われたけど…。あたいの勘違いかねえ?それともあたいたちは人間じゃあない、そうお嬢ちゃんは言いたいのかい?」


「ううっ」


ティラミスは返答に困って顔を背ける。鬼ばばあは容赦なくティラミスの顔を自分の方に向かせる。


「よおくお聞きよ。あたいたちだって無闇に襲われたりしなければこうしてコイツらを縛り上げたりすることはないのさ。あたいらだって怪我したんだよ?この落とし前どうつけてくれるんだい!ええ」


「そ、それは…」


ティラミスはどうしていいかわからず、目を逸らす。鬼ばばあは血走った目をティラミスの視線の先にもっていき、威嚇する。


幼子には耐えられない重圧だろう。飛んでいきたいが先に飛んでいきそうな俺の下敷きになっているこのキメラを何とかしないと飛んではいけない。


誠にじれったい。

「ーーじゃあ、こういうのはどうだい?本来なら命で弁償してもらうところだが、いくら鬼だ、鬼だと言われてもあたいだって本当の鬼じゃあない。相応の金を支払ってくれさえすればそれで手打ちにしようじゃないか。金で全てカタがつくんだ。安いもんだろう?」


鬼ばばあはティラミスの頬を軽く手のひらで叩く。


「お、お金なんて、ティラミスは持っていないでつ」

「何も年端もいかないお前から取ろうなんて言ってはいないよ。ーーお前にも親っていうもんがいるだろう?親っていうもんがさあ…」


鬼ばばあはゲスな笑いを浮かべる。


「親は…、いないでつ…」

ティラミスは力なく答える。辛い質問だったに違いない。肉体的よりも精神的に参ったようなそんな表情に俺の目には映った。


「親がいないのかい?不憫だねえ…。それでモンスターを仲間かい。ま、同情はするけど…。仕方ないね。自分の身を呪いな、命で償ってもら…」


「待ってほしいのでつ!」

弱々しくも力の限りに叫ぶティラミス。何かを悟ったのかパシェリの抵抗も止む。俺はパシェリの上から退き、立たせると泥をはたき、首すじを撫で、落ち着かせた。


「命乞いかい?あたいは情にほだされるほど甘かあないよ」


「わかっていまつ…。あれを…」


「あれ?」


ティラミスが後ろを指差す。その先にはダイアモンドヘラクレスが大きなアクビをして鎮座している。


「あれをどうするつもりだい?まさか、あれをお前一人で倒すって言うんじゃあないだろうねえ?本気で言っているのかい?」


「あい…。本気でつ。あれを倒したらかなりの金額になるはずでつ。それでズッキーニたちのことを許してもらえませんでつか…」


「面白いじゃあないか!聞いたかい?あたいたちにも敵わないっていうのにダイアモンドヘラクレスを狩るっていうのかい。ーー別にあたいは止めたりしないさ。狩ってくれるっていうなら手間が省けていいやね。やってごらんよ、さあ」


ティラミスから手を離すと、鬼ばばあが立ち上がった。


取り囲んでいた盗賊たちも鬼ばばあの後ろに整列し、ニヤニヤとした笑いを浮かべる。


ティラミスはヨロヨロと歩きだし、ダイアモンドヘラクレスのもとへ近寄っていく。


「なりませぬ!ティラミス様。ズッキーニたちのことはよいので早くこの場からお逃げください」


ズッキーニが叫び終わると同時に、鬼ばばあがズッキーニを踏みつける。

「これからいいとこなんだから少しは黙っておいでよ」


ズッキーニ、悪いがもう少しだけ耐えてくれ。俺はティラミスの素質をもう少しだけ見たくなった。


強さではない。真の勇者としての素質をだ。


ティラミスはダイアモンドヘラクレスの前まで到達すると、一旦目を瞑り、深呼吸をした。


「はっ!」


おさげの髪が揺れ、剣を両手で握り締めたティラミスが飛び上がる。


真一文字に結ばれた口。目の前の敵を一点凝視した鋭い眼差し。


ティラミスの激しい攻撃が始まった。





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