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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
30/91

鬼ばばあと40人の盗賊

「ならば我々も…」


トリュフが襟を糺す。ショコラは慌てて本棚に日記帳を押し込めた。


「きゃ!」


何かが落ちる音がして、ショコラが悲鳴をあげた。見ると足を押さえている。どうやら、慌てて日記帳を足に落としたらしい。


「大丈夫か?ーー手助けには及ばぬ。ショコラは風呂の支度でもしておいてやれ。トリュフは薬と手当ての支度を、それとパエリアには飯をな」


俺はパシェリの喉元を撫で、背中を軽く叩いた。パシェリはそれを合図に猛スピードで走り出した。


俺はその後に続く。パシェリのスピードはダチョウ並みだが、俺もチートの端くれ。そのスピードについていく。

20分も走ると、ティラミスがいるという世界樹の大木に辿り着いた。


「ここか…」


俺は早速ティラミスの名を呼んで、木の根本にある穴の中を覗きこんだ。暗いので松明を差し込んで確認する。


誰もいない。中はもぬけの殻。落ち葉がわずかにある程度だ。


「本当にここなのか、パシェリ?」


俺はパシェリの顔を見た。パシェリは必死にここだとアピールする。


俺は中に手を入れ、地面に触れた。微かに落ち葉と土の上にへこんだ様子があり、温もりも感じる。


「この辺にいるのか…。それとも…」


俺はティラミスの名を叫び、松明片手に辺りを見回す。


ーーと、パシェリが地面に鼻先をつけて、辺りをかぎまわる。


キメラの鼻が利くとは正直知らなかった。


パシェリは丹念にかぎまわりながら岩山の奥へと進んでいく。


分岐点までくるとパシェリは一声「グエッ」 と鳴き、ダイアモンドヘラクレスが棲むという方角へ走り出した。


「そっちにいるのか?」


俺もパシェリの後を追う。しばらく生い茂る草木と凸凹の剥き出しの岩山の道なき道を突き進むと、大きな広場に到達した。


パシェリは広場に乗り込む手前の茂みで身を潜めた。俺もそれに倣う。


広場からはドスの効いた大声と目映い光が漏れている。


俺は目を凝らして、広場を見つめる。馴れてきた目には縄で縛られたズッキーニたちと大勢の取り囲む甲冑の男たち。

その奥には小高い丘のようなダイアモンドヘラクレスがこちらを向いて首を左右に振っていた。


時折、前足をあげて、威嚇するような仕草を見せる。その度に大きな砂ぼこりが立つ。周りには小さなゴールデンヘラクレスが大量に旋回している。


暗闇でも明るいのはこのヘラクレスたちのせいのようだ。


「さあて…。魔王の城の者たちと言ったな。お前らの命、一体いくらなら魔王は安いと思ってくれるかなあ?」


決まっている。0だ、0。俺は茂みの中で声に出さず呟いた。


「ま、魔王様がお前らのような薄汚い盗賊どもに金など支払うと思っておるのか!愚かもの!」


ズッキーニが身を捩って抗議する。


そうだ、お前ら盗賊なぞにびた一文払うものか。もっと言ってやれ、ズッキーニ。


「威勢のいいトカゲジジイめ。ーーいいか、俺たちを見くびるなよ。俺たちは泣く子も黙る40人の盗賊…。そしてその親玉はーー」


「鬼ばばあー」


せーので残りの盗賊が一斉に親玉の名を叫ぶ。


鬼ばばと40人の盗賊。ふざけたネーミングだ。吹き出しちまうじゃねえか、隠れているのに。


「なーんだよ、お前たち。私を褒め称えてくれるのかい?よしなよ、金しかでないよ、ここじゃあ」


小柄でふくよかな体型の高齢とおぼしき女が現れる。ソバージュのような白髪。下の歯がまさに鬼のように閉じた唇から覗いている。


手には本人の倍以上もある大きな鎌を携えている。


確かに強そうだが、褒め称えて、金くれるんじゃとりあえずおだてとけばよくね?俺ならそうしとくけどな。


「ヒドイ奴だね魔王は。あたいは同情しちゃうよ。こんなかわいい部下たちを見殺しにしようなんて言うんじゃあ…。あたいだったらさっさと払うものを払ってケリをつけちまうさ…。ーー今、あたいの部下をよこしているから大人しく返事を待っておいでよ、ねえ?」


鬼ばばあはズッキーニの顎を撫でる。




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