俺が魔王になるまでを語る3
もしかして…。これはもしかしてなんだが…。
ひょっとしてサラは俺のことを誘っているんじゃないの?
俺は平静を装いつつも、心の中で小躍りしながらギターをかき鳴らしていた。
「コホン。ま、まあ…、サラがそこまで言うなら俺としても」
「ええ。大恩人なのですから当然ですわ」
サラはにっこり微笑んだ。
俺は震えながら、喉を鳴らす。ワナワナとサラの髪に手を伸ばそうとした時だった。
ーー部屋をノックする音。宿の従業員だった。
「お食事のご用意ができました」
「あら、そういえばまだでしたね」
サラはドアを開けた。
いいところだったのに、邪魔するなよと俺は腹の中で文句をいったが、実のところ俺も腹がへっていて仕方なかった。
「食事が済みましたら、私廊下で休みますから」
サラはサラッと言った。
「へ?」
勘違いを百パーセントしていた俺は間抜けな返事を返した。
「ですから、恩人のあなた様を外で寝かすわけにも参りませんので私が廊下で…」
「それはいけない。仮にも女性を一人、廊下でなんて」
必死で食い下がれ、俺。自分に気合を入れる。
「でも、このような見ず知らずの女性が一緒にいたらあなた様だって御迷惑でしょ?」
「と、とんでもない!」
心の底より搾りだされた叫び声だった。
「でも…」
サラは俯いて思案し始める。
その間も宿の従業員たちは理路整然と無駄のない動きで料理を運び込んでくる。
うまそうな匂いだ。
側にあったテーブルは見る間に料理で埋め尽くされていく。
自然と喉が鳴る。
「とりあえず、考えるのは後にしないか。せっかくの料理が冷めてしまう」
「それもそうですね。頂いてから考えることに致しましょう」
従業員たちが去るのを合図に俺たちはテーブルに着いた。
宿の外観と内装はさほどでもない。その割りには料理は豪勢だ。
骨付きの大きなローストチキン。皮はパリパリに香ばしく肉は柔らかい。噛むほどに肉汁が口中に広がり、幸せな気分になる。
黄金色のスープは野菜の素朴な味を残しつつも、洗練された濃厚な旨味をたたえている。
大皿に丸ごと一匹蒸し焼きにされた鯛のような魚も脂がのり、ふわふわとした身に塩の旨味が程よく絡んでこれもまた美味だった。
慌ててがっついていた俺は喉に料理を詰まらせた。
「まあ、そんなに慌てなくても料理は逃げませんことよ」
サラが俺にグラスを差し出した。
赤と紫の間の子のような色をした液体が並々と注がれていた。
俺は一気にそれを煽った。カーッと全身が熱くなる。
「助かった。ありがとう。ところで、サラはこのあとどこへ行くんだ?」
「お城へ戻り、父上にご報告を…。ここより南に位置します」
サラはもう一杯俺のグラスに注ぐ。
「ふーん。お姫さまか何かなのか?」
俺はまた飲み干した。何だか訳もなくウキウキした気分になる。
「はい。ですからニート様にも父上、そう…国王に逢って頂きたいのです。魔王討伐のために」
「そうか…。父上は王様なのか…。ーー何?国王!」
俺は驚いて、ひっくり返ってしまった。
落ち着くためにサラの近くにあったボトルからグラスに液体を注ぎ、立て続けに三杯煽る。
「驚かれました?本来は内緒なのですが…。あなた様を見込んで」
ということは俺が魔王を倒した日にゃ、サラと結婚で、行く行くは王様…。
俺はもう一杯飲んだ。
立ち上がろうと椅子の背を握るがうまく立ち上がれない。
頭はフラフラするし、目の前は霞むし、船に乗っているみたいだ。
立ち上がろうともがくうちに今度は睡魔が襲ってきた。
サラが心配して駆け寄る様子が二重にぼやけた映像を最後に俺のその日の記憶は途絶えた。
次の日、目を覚ますと俺はベッドに寝ていた。
サラの姿がない。
俺がここに寝ているということはサラは廊下で眠ってしまったのだろうか。
俺は廊下を確認した。出発準備の旅人と宿の従業員ばかりでサラの姿はない。
こめかみがトンカチで叩かれたように小刻みに痛む。
俺はアクビをしながら部屋に入った。テーブルには置き手紙一つ。
先に城へ戻っています。裏の指環を門番にお見せください。王様の元へお連れ致します。サラと書かれており、ピンクのハートが末尾に添えられていた。
その手紙の裏には地図と昨日返したはずの指環が留められていた。
「一緒に行けばいいのに…。何で回りくどいことすんだ?」
俺は床に転がっていたビンを手に取った。昨日飲んでいたやつだ。中身は酒だった。どうやら俺は酒を飲み過ぎてしまったらしい。
俺は着替えを済ませると身支度を整え、大量の水を飲み、宿を後にした。
去り際、宿の主人が妙にニヤついていたのが気になったが俺は急いでいることもあり無視した。
宿の前には相変わらずくたびれた男が何をするでもなくじっと膝を抱えたまま座っていた。俺がちらっと見ると赤い目をこちらに向けこれまたにやりと笑った。
不愉快極まりないが俺はサラが心配なので地図の通り、街を出てからひたすら南にあるという城を目指した。半日も歩けば到着するらしい。
時折、目印になるものを地図と照らし合わせながら歩いていく。
野生のトラが牛や馬の群れを追いかけていき、近くの草むらに潜んでいたスライムが驚いて俺の前に姿を現す。
しばらく体を揺らしながら俺の動きを探っているようだったが特に害はないと察したのかゆっくりと俺の前を滑って反対側の草むらの中へ消えていった。
小鳥のさえずりや小川のせせらぎも聞こえて昨日とはうってかわって穏やかな日だった。
俺も暖かな陽気とのんびりした時間に急ぐことも忘れ鼻歌など歌いながら城を目指した。




