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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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ティラミスリサーチ

「その輩が仲良しなのが問題なのです。連中はみな金に欲が眩んだ奴ばかり。狩り場のヘラクレスを狩り尽くすばかりか、事もあろうに新しく寄り付いた勇者さえも狩りの対象にするのです」


「それはひどいな…」


「ヘラクレスを狩りにきた新規が狩り終わるのを待ち、疲れきった新規が回復しないうちに狩る。そうすればダイアモンドヘラクレスの戦利品も新規の勇者の持ち物も自分達のもの。子供が近づけば言葉巧みに誘拐し、身代金を要求する。この城の子供たちも犠牲になっております」


ズッキーニはハンカチを取りだし、目元を拭う。


「そいつはえげつないな。ーー俺も少し心配になってきた」


俺はさっき覚えた胸騒ぎを思い出す。杞憂であってくれればいいが…。


俺の前を子供たちが数人会釈して通っていく。一番早く食堂に入る子供たちだ。


今までどんなに遅くともティラミスはこの子供たちが俺の部屋の前を通る頃には帰ってきていた。


俺も落ち着かなくなってきた。


敵とはいえ、一つ屋根の下で暮らし、同じ釜の飯を食った仲。しかも手にかかるお転婆娘。どこか突き放すことができない。


もし、ティラミスがこの城に来たばかりであれば俺もそんな感情は沸かなかったかもしれない。


しかし、今は違う。色々ありすぎた。


「魔王さまぁーん」


そんなことを考えていた時、ショコラの俺を呼ぶ声が聞こえた。


廊下の向こうから羽を羽ばたかせ俺の方に飛んできた。


「どうした、ショコラ?」


ショコラの慌てた表情に俺も思わず緊張する。


「パシェリが一匹で帰ってきたの!ひどく騒ぎたてて…。ティラミスちゃんの身に何かあったのかも…。どうしよう、魔王様」


ショコラは鼻を啜って、涙ぐんだ。


「うろたえるな、ショコラ。まだ何がどうしたとは決まったわけではない。ーーとりあえずは…」


「クエーックエックエッ」

俺が言いかけた時、今度はパシェリが羽根をばたつかせ、走り寄ってきた。


身ぶり手振りで俺に何か伝えようとするがさっぱりわからない。


パシェリも焦れったいのか俺やズッキーニの服の袖を引っ張り、どこかへ連れていこうとする。


パシェリの慌てかたは尋常ではない。


「どうやらティラミスに何かあったことだけは確かになったようだな…。ズッキーニ、他のものたちとパシェリについていき、ティラミスを捜しだしてきてくれ」


「かしこまりました。誰か手の空いている者たちはいないかー」


ズッキーニは叫びながらパシェリと共に廊下を走っていった。


ズッキーニは遠ざかるにつれて、大きな集団になり、城の出口へと消えていった。


「魔王様…」


不安そうにショコラが俺の顔を見た。


「大丈夫だ。そう心配するな。ズッキーニがじきに連れて帰ってくる。それにティラミスとてああ見えて頑丈な子だ。ちょっとやそっとでやられるような子ではない」


俺はショコラの頭を軽くポンポンと撫でると、食堂とは逆の方向へと歩き出した。


「あら、魔王様どちらへ?」


「ちょっと気になることがあってな…。ーーこんな時というのも語弊があるのだが、調べたいものがあって…」


「ああ、じゃあ、私もお供いたしますわ」


ショコラも踵を返して俺の後に続く。俺は固辞したのだがショコラも譲らず、仕方無しに同行を許した。


ティラミスの部屋のあるものが気になっていたのだ。


ショコラには俺がティラミスの部屋に入ったことをきつく口止めしておいた。


そうでないと、またティラミスに責められることになるからだ。


俺はショコラと指切りをしたあと、ティラミスの部屋のドアを開いた。


主のいない部屋は物音一つなく静まりかえっていた。やんちゃなペットを飼っている割りには前回以上にきちんと整理整頓がなされている。


「魔王様のお言いつけをちゃんと守っていらっしゃるのよ」


ショコラが俺の心を見透かしたようにそっと耳打ちした。


「暗くなってきたわね。ちょっと待っててね、魔王様」


ショコラは飛び上がると天井でくるりと一回転してシャンデリアの前で止まった。


シャンデリアと対峙したショコラは指先に火を灯すと、息を吹き掛けた。


シャンデリアは一瞬炎に包まれたが、やがて落ち着き、優しげな灯りで部屋を照らし出した。


「すまないな」


「いいえ、お安い御用だわ。ーーそれにしても暗くなってきて…。ティラミスちゃんお腹へっていないかしら…。夜はまだまだ寒いし…。無事ならいいんだけど…」


ショコラは窓の外を悲しげに見つめた。


俺も心配だが、とりあえず状況が分からなければ何ともしがたい。


俺は目的だけは先に済ましてしまおうと真っ直ぐティラミスの机に向かった。


机の上にはノート一冊と魔道書が数冊山積みになっていた。


ノートは対俺用の研究成果がビッシリと事細かに記されているようだが、俺はそれには用もなければ興味もない。


俺は迷わず、机の上にある本棚に目をやった。人指し指で左から右へびっしり並んでいる本の背をなぞっていく。


「これか…」


俺は見覚えのある茶色の背表紙のぶ厚い本のところで指を止めた。



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