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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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ゴージャスなカブトムシだね

パシェリとの追いかけっこが一段落したある春の日。


俺は疲れと春の暖かい日差しに誘われ、執務室でうたた寝をしていた。


「助けて!」


俺はそう聞こえた気がして目が覚めた。


俺は慌てて辺りを見回したが誰もいない。


窓から入る西日が影と光のコントラストを描き、俺の机の上で揺らいでいる。


俺は立ち上がり、窓の外を眺めた。城の子供たちも夕食を目当てに続々と帰ってくる。


何事もない。いつもの日常だ。俺は安堵のため息と共に目を細めた。


きっとリアルでパシェリに追いかけられたものだから、ストレスを感じて悪い夢でも見たに違いない。


俺は壁の時計を見た。夕食までにはまだ一時間ほどあった。


仕事も少し残っていたのでそれを済ましてしまおうとしたが妙な胸騒ぎがして手につかない。


珍しい。今までこんなことはなかったのだが…。

俺は居心地の悪さを感じて執務室を出た。


「ぎゃああああぁ!」


「うわああああぁ!」


俺は廊下をでたところでズッキーニと鉢合わせた。ズッキーニは執務室のドアを開けようとしていたらしい。


そのまさに瞬間にドアが開き、俺と鉢合わせた。


あまりのズッキーニの驚きぶりに俺の方が心臓が飛び出るかと思った。


「何事だ、ズッキーニ死ぬかと思ったではないか。驚かせおって」


「申し訳ございません。まさか、グッドタイミングで魔王様がご登場なさるとは思ってもございませんでしたので…」


ズッキーニな額の汗を拭った。


「ーーで、どうした?何か用か」


「はい。お昼頃出ていったきりティラミス様が戻られないのです」


「まだ夕食前だからその辺で遊んでいるのではないか?勇者ごっこでもして…」


「それならいいのですが…。いつもなら必ずオヤツに一回戻られるのですが、今日に限っては…」


「パエリアには尋ねたのか?」


「はい。パエリアも気になり、厨房の者に尋ねたらしいのですが、姿を見たものはおらず、オヤツもそのまま手付かずのままだとか…」


「ショコラやトリュフのところは?」


「いえ…、今日は…。ーーただショコラが言っておりましたのが、何でもティラミス様は森の奥にある岩山にいるゴールデンヘラクレスなるカブトムシを捕まえるとかで張り切っていたとか、いないとか…」


ゴールデンヘラクレスは純金製のカブトムシだ。レア物で岩山に生息しているらしいが滅多にお目にかかれない昆虫だ。


警戒心が強く、すばしっこいので捕獲となると更に難しい。


「では時間を忘れて夢中なのではないのか?」


俺は廊下の壁に寄りかかった。思案したところで音沙汰がなければ憶測でしかない。


「ーーそれならばいいのですが、仮にティラミス様が岩山の奥まで進んでしまわれますと危のうございますので…」


「奥に?何かあったかな」

俺は視線を天井に向けた。危険とは聞いていたがチートな俺には関係ないので説明を受けたときに聞き流していた。覚えが全くない。


「左奥にはドラゴンの巣が。右奥にはゴールデンヘラクレスの親玉、ダイアモンドヘラクレスというレア中のレア物が棲み着いておりますがーー」


奥歯に挟まった物言いでズッキーニがいいよどむ。

「ダイアモンドか…。ゴールデンより高級で儲かりそうだな」


「ーーですが硬い。並の勇者はもちろん、強い勇者でも2ダメージしか入らず、下手すればミスショット連発。HPも10000と破格です。とてもソロでは倒せません」


「軽く見積もって5000回。ペチペチ叩くのか…。やりきれんな」


「はい。ですからパーティ推奨なのですが、困ったことに噂が噂を呼び、一儲けを企む輩を呼び寄せてしまう結果になりまして…」


「みんなで仲良く叩くのだろう?どこが問題なのだ。張り付いたところでソロでは倒せないのだから…」


俺は奥歯に挟まったズッキーニの言葉に少し苛立った。



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