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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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ティラミスのお部屋

しばらくが経った。巣籠もりしていたスライムたちも徐々に雪解けの草原へと戻っていった。


城に残るスライムの固まりも僅かになったある日。俺は久々の暖かい日差しに城の中庭を散歩していた。


子供のモンスターたちも楽しそうに中庭をはしゃぎ回っている。


俺がその様子を目を細めて見ていると、何やら俺の目に飛び込んできた。

鉢植えの違い棚のような、ジャングルジムのようなやぐらのような奇妙な物体だ。


背丈は俺の倍くらいだろうか。トリュフが神妙な面持ちでノコギリとトンカチを持ちながらソイツと格闘をしている。


「トリュフ、これは何だ?」


「あ、これは魔王様。これはチーグラーとよばれるキメラの遊具です」


「チーグラー?」


「はい。ティラミス様に仰せつかって内緒で作っていたところでございます」


「キメラはこんなもので遊ぶのか?どうやって?」


俺はチーグラーを見上げた。そう言われれば木の枝みたいなものも張り出しているし、巣みたいなものもある。


「人間と暮らしているとキメラも足の筋力が弱ります。野性なら木の枝や獲物を捕らえることで鍛えられますが人間と暮らしているとその機会がありません。ですからこの遊具を使い、鍛えるのです」


「なるほどな…」


「ストレス解消にもなりますし、寝床の代わりにもなります。今はまだ小さいのでティラミス様と同じベッドでお休みになられているようですが、キメラが大きくなってしまったらそうもいきませんので」


「なるほどな…」


トリュフは俺に説明している間も手を休めずに真剣にチーグラーを作製していた。


ティラミスやパシェリが怪我をしないようにと強度を確かめたり、ささくれが足に刺さらぬようにヤスリがけを丹念に行う。


俺は邪魔しないようにトリュフの側からそっと離れた。


「春が来たなあ」


俺は空を見上げた。柔らかく暖かな風が俺を撫でていく。


そろそろティラミスに話をする時期がきたのかも知れない。


風に吹かれながら俺はそう思った。


実のところ、この頃城の者からパシェリのことで苦情がきているのだ。鳴き声がダダ漏れなのだ。


もはや隠し事の域を超えてしまっている。パシェリの存在がこの城のすべての者に白日の下にさらされることは時間の問題だ。


俺はティラミスの部屋を訪れた。


「ティラミス、話がある」


俺は部屋のドアをノックした。返事がない。俺はもう一度声をかけたがやはり中から返事はない。


しかし、物音だけはカサコソとしている。


「ティラミス開けるぞ、いいか?」


ダメと言われても開けるつもりだが俺は部屋のドアに手をかけた。鍵は掛かっていないようだ。あっさりとドアは開いた。


「ティラミスいないのか?」


俺は辺りを慎重に窺いながら部屋の中を探る。来訪者が俺と知って身を隠し、俺が侵入したところで襲い掛かってくるかもしれないからだ。


しかし、人間の気配はない。


ベッドの上には異様な形で盛り上がった奇妙な布団の山が出来上がっていた。よく見ると小刻みに震えている。


おそらくパシェリだろう。ティラミスもここに入り込んでいるのだろうか。しかし、仮にティラミスだけが外出していればパシェリは一匹でお留守番の最中。パシェリを下手に刺激してしまうと面倒なことになってしまうだろう。俺はあえてベッドのペットには触れないことにした。


「それにしても・・・」


俺はティラミスの部屋を見回した。


俺が空き部屋として案内されたときは簡素な石畳むき出しの殺風景な部屋だったはずである。それが今はどうであろう。


床はクッションが敷き詰められ、その上にはかわいらしいカーペットが乗っている。そういえばズッキーニがティラミスが来た翌日にこっそり運んでいたのを思い出した。


不審に思い訊ねたら、曖昧にごましたっけな・・・。


高い天井にはシャンデリア。大広間にあったのが古くなり、去年捨てたものだ。ティラミスには届かないからおそらくショコラがひとっ跳びで灯りを点けたり、消したりしているのだろう。ピンク色の布で天井中デコレートされている。


どこから持ち込んだのかぬいぐるみも山とある。ベッドもご希望通りのふかふか。お姫様仕様になっている。


他にも姿見、机、筆記具、替えの靴、ドレスの衣装ケース・・・。無かったはずの物が目白押しだ。そういえばトリュフの奴毎日昼休みに何か作っていたっけ。


もしかすると全てティラミスの部屋の調度品だったのかもしれない。


俺はティラミスの机の上に目をやった。革の表紙の本が目に入る。


俺は何気なく手に取った。表紙にはサラの名前。パラパラとめくるとどうやら日記のようである。

最初から読もうとした時だった。


「私の部屋で何をしているんでつか!」


語気の強い口調が俺の後ろから飛んできた。振り返るとドアの向こうに仁王立ちでにらむティラミスがいた。




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