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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
23/91

しばらく様子見

「ふむ…。どうしたものか…」


俺は左手で自分の頬を撫でた。窓に目をやると白く凍える台地と雪を称えた森や山々が見える。


対照的な青空にはサーペントの群れ。一匹のドラゴンに追いかけられていた。


隊列を組みながらサーペントは縦横無尽に身を翻しながらドラゴンの追撃をかわしていく。


幼いサーペントも大人たちの真似をしながら、ドラゴンに喰われないよう必死で逃げ回っている。


本来、キメラも群れで生活する動物。集団生活の中で生きる知恵を学んでいく。


しかし、城で生まれたキメラはひとりぼっちだ。


キメラの集団に解き放ったとしても人のニオイがついたキメラを他のキメラが仲間として受け入れるとは考えにくい。


万一、敵と見なされれば、群れから追放されたり、いじめられたりしてたちまち命を落としてしまう。


それよりも雛のうちは城の中で育てたほうが外敵に襲われる心配も、餌や凍死の危険も少ない。


早産だったことも考慮すれば冬を越して、春になれば自立の目も出てくる。


そこから訓練して、秋ごろになれば独り立ちできるであろう。


キメラの寿命はながく、30年ほどだが、若いうちの成長はとても早い。


半年ほとで成人クラスまでになってしまう。


まあ、そうしないと野性では生きていけないからかもしれないのだが…。

「ねえ、魔王様。黙ってないで、どうなさるおつもり?まさか無闇にキメラをお捨てになるおつもりじゃないですわよねえ?」

ショコラが俺の袖を両手で引く。駄々っ子のように左右に揺らし、無言で考えていた俺を現実に引き戻す。


「まだ生まれて間もない。春まで様子を見てみよう。話はそれからだ」


「そうね」


ショコラはほっとした表情を浮かべた。


遅くとも来年の今頃になればキメラは恋のシーズン真っ盛りになる。


新たな出会いを求め、勝手に城をでていくかもしれない。


今、下手に口をだしてティラミスまでセットで城を出てしまっては色々面倒だ。


俺はしばらく様子を見ることにした。


ショコラを含め、ズッキーニ、パエリア、トリュフにはキメラの件は話を通しておいた。


ティラミスには当然に内緒にしてある。


ティラミスの方も俺にバレているとは知らずにズッキーニたちに協力を求めていた。


もちろん、俺には内緒でという前提で…。


俺が厨房の前を通りかかると必ずといっていいほどティラミスが中でパエリアと小声でひそひそ話をしている。


「ーーじゃあ後で取りにきまつから、お願いしまつね」


「へい。いつもの場所に袋に入れて置いておきやすんで…」


「魔王のアホには内緒でつよ。アイツに知れたらとんでもないことになりまつから…。パシェリのこと食い殺しかねないでつからね。極悪非道な鬼でつから」


「それは大丈夫で…。あっしはこう見えて口は堅いほうですから」

例の如く、俺は壁に寄りかかったまま立ち聞きする。


そうか…。あのキメラ、名前をパシェリとつけたのか…。


ーーそれにしても、ティラミスの奴、俺によっぽど逸物腹に思っているのだな…。


はっきり言っとくが俺はキメラなど食わない。


俺はそう腹の中で断言しながら、食堂に向かっていった。あまり長居してティラミスにバレては元も子もない。


俺は騒がしいテーブルの合間を掻い潜り、一番前にある自分の席につく。


ズッキーニやショコラたちも続いてやって来た。

その後ろからは幸せそうな笑顔のティラミスが小走りでくる。


俺たちと同じテーブル。最近ではショコラたちにすっかりなついた関係で同じテーブルにつくようになったのだ。


料理が運ばれてくるのを今か今かとそわそわと待ちわびている。


子供らしくて実に可愛い。いつもこう素直な笑顔であってもらいたいものだ。


「嬉しそうだな」


俺がティラミスに話しかける。


「別に…。ーーそれに楽しいことがあったって魔王に報告する義理はありませんでつよーだ」


ティラミスは俺に向かってあっかんべーした。


普段通りのふてぶてしさだ。


「まあ、それもそうだな…。ーーそれはそうと、最近、俺を襲ってこないのだな。敵わないとみて降参したか?最弱の勇者、ティラミスよ」


「おいしい食事時に無粋な話題よくだせまつねーだ。別にあと10年あるんだから焦らなくてもいいんでつよーだ。今はやることがたくさんあるのでつ。筋トレ、学問、魔法にレベルアップ・・・。キリがないのでつ」


ティラミスは指折り数える。


「たしかに…」


俺を倒せるわけねえだろ。俺はティラミスの心意気に免じて鼻で笑ってやった。


「あー、バカにしてまつねー。今に吠え面かかせてやるのでつ」


「別に馬鹿になどはしていないが…。ーーまあ、楽しみにはしておこう」


俺がそう言い終わると、パエリアが前菜とスープを運んできた。


両手に頭。パエリアは器用に料理の皿を乗せて歩いてくる。


他の料理人もパエリアに倣って同じようにやってくる。


「いただきまーす」


手を合わせて一礼するとティラミスは自分の前に置かれた皿に手を伸ばした。


スプーンでスープを掬うと旨そうに頬張った。


パエリアにグーサインを送る。


パエリアもウインクしてサインを返す。


料理の皿はその後も後から後から運ばれ、あっという間にテーブルの上は料理の皿で埋め尽くされた。


ティラミスは嬉しそうに箸をのばす。


ショコラやトリュフとのおしゃべりも楽しそうだ。


俺は食事をしながらティラミスの嬉しそうな横顔を眺めていた。


料理人や他の配下の者とも気さくに話しかけている。


皆もティラミスと仲良くしているようだ。


いつの間にかティラミスはこの城になくてはならない仲間になっていたのだ。


無論そのこと自体悪いことではない。俺への憎悪もなくなり、そのまま「敵討ち」という大義名分がフェードアウトしてくれれば俺にとってもありがたい話である。

しかし、果たして事はそう上手いこといくだろうか?


今まで俺はティラミスの敵役を遺憾なく演じてきた。


それはティラミスが目的を失わないように、そして強く生きていけるようにするためである。


ーーふと、別の生き方。この城で皆とずっと楽しく生きていくという選択肢。ティラミスにはそういう選択肢もあるのではないかと俺はふと感じ始めていた。


仮にも敵として現れたティラミスだが、俺だってこの城に現れた時には勇者であり、この城の敵だった。


だから、ティラミスがこの城の一員となって幸せに暮らしていくというのは決して夢物語ではない。


「ーーごちそうさまなのでつ。さあ、にっくき魔王を倒すためにトレーニング、トレーニング!」


俺がぼんやりと考え事をしている間にティラミスは食事を済ましていた。


俺に聞こえるような声でわざとらしくそういい放つと席を立った。


周りからは「頑張って」とか「応援してるよ」とかティラミスに声がかかる。

別に皆は俺が倒されることを期待しているわけではない。それが証拠に俺の方を見て、目配せしているからだ。


恐らく、子供の言う戯れ言に目くじらを立てたり、子供のヤル気を削ぐのは大人として恥ずかしいと感じたのだろう。


本当によくできた配下どもだ。厚く礼を言いたい。


ティラミスはそうとも知らずに無邪気な様子でにこやかに「あい」と答えると駆け足で食堂を後にした。


「どれどれ、俺も倒されないように少しトレーニングでもしとくかな」


俺はわざとらしく伸びをして、席を立った。


食堂からはどっと笑いが起きる。ズッキーニも珍しく俺の冗談に笑っていた。


俺は鼻で息をつくと、ティラミスの後を追った。

ティラミスはちょうど厨房から大きな布袋を提げて出てきた。


辺りを伺いながら、誰も見ていないと思ったのかおもむろにダッシュし始めた。


階段へ一直線。自分の部屋に戻るのだろう。


俺もティラミスとの間合いをはかりつつ、階段を上がっていく。


途中ばれないように物陰に隠れたりしながら五階にたどり着く。


一足先に着いたティラミスは再び辺りを伺いながら自分の部屋のドアを開け、体を滑り込ませた。


ドアは勢いよく大きな音を立てて閉まる。


俺はそれを見計らって、ゆっくりドアに近づき、耳をあてる。


「ごめんね、パシェリ。遅くなったけどご飯たーくさん持ってきたでつよ。ーーほら、慌てちゃダメでつ…。まだでつってばあ!まだ、ダメでつ。『待て!』でつぅ。あっこらっ」


待ちきれないパシェリがティラミスにせっついたのだろう。


どうやらまだシツケは出来ていないらしい。


しばらく中からは楽しげなティラミスの笑い声が聞こえてきた。


俺はその笑い声を聞きながら、静かに自分の部屋に戻っていった。



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