そういうことね
「恐らく、この城に着いた時には身籠っていたのでしょう。城の者たちが慌てている隙に安全な場所に巣を作ってしまったようです」
「巣はどこに?」
「ティラミス様の部屋の窓の上辺りです。ティラミス様が来るまではあの部屋は空き部屋でしたので、静かだったのでしょう」
「そうか…。で、キメラは?」
「無事卵を産み、雛に孵したのですが、ここに来るまでに体に傷を負っておりましたので亡くなったようで…」
「まあ、可哀想に…」
ショコラが涙を拭う。
「子は?」
「昨日までは確認したのですが、今朝がたには鳴き声が止み、上から確認しましたところ、姿が見えず…」
「下に落ちたのでは?」
「はい。まだ生後間もないので飛んでいったとは考えられず、庭を探索させたのですが、発見できず…。代わりに羽が散乱しておりましたので、もしかいたしますと…」
「蛇かドラゴンの餌食になってしまったか…」
「はい…」
ズッキーニは下を俯いてしまった。
ショコラも気の毒そうに肩を落とす。
「ーーで、巣を撤去か?」
「はい。撤去いたしませんとサーペントやらドラゴン、キラービーたちがねぐら代わりに使いはじめ、城の者たちに危害を加えかねません。ですから一刻も早くと思いまして」
「そうか…。気をつけるのだぞ」
「はい。ではーー」
ズッキーニは一礼すると踵を返し、駆け足で去っていった。
その日の晩飯のことだった。
「ごちそうさまなのでつ」
いつもなら誰より食事が遅いはずのティラミスが早々と済ませて、食堂を後にした。
しかも様子がおかしい。食べ残した料理を辺りを伺いながらポケットにしまいこんでいる。
俺は気づいて、ショコラに尋ねた。
「ティラミスは食べ残しを持っていったようだが…」
「あら、ここ最近はずっとそうしてましたわ。何でも夜中トレーニングをしたあと小腹が空くんだとかで…。育ち盛りですしね」
「なら、パエリアに言って夜食を作らせればいいだろう?わざわざあんな真似をしなくても…」
「遠慮なさっているんじゃない。魔王様に居候の分際でって毎日言われているから」
ショコラが珍しく俺に嫌みを言う。
「仕方ないやつだ。俺が直接言ってこよう」
俺は口を拭いて、席を立った。
そしてティラミスの後を追って食堂を後にした。
長い廊下を歩いていき、奥の左手に見える階段を上っていく。
ティラミスのいる五階まではかなりの距離だ。
階段の両脇に灯された燭台の明かりがゆらゆらと揺れている。
階段を一歩一歩進んでいくと上の階から甲高い鳴き声が微かに聴こえてくる。
鼻にかかった甘ったれたるような鳴き声。動物のものだ。
俺が五階にくる頃にはかなりはっきりと聴こえた。
ティラミスの部屋の中から聴こえてくる。
「しっ!誰かにバレてしまいまつ。魔王に告げ口されたら大変なことになりまつ。静かにするのでつ」
「ピーッピピピ、ピーッピーッ」
「ああ、ダメでつって、こらっ。くつぐったいでつよー。しーっ、しーっでつ!」
ティラミスの部屋から会話が漏れ伝わってくる。
どうやらティラミスは内緒でキメラを飼っているらしい。
「魔王様…」
心配したショコラが俺を追いかけてきたようだ。
俺は音をたてないように口に人指し指を立てて、ショコラを制する。
「ティラミスちゃん、キメラを?」
部屋の様子に気づいたショコラが俺に耳打ちする。
俺は黙って頷き、少しその場から離れた。ショコラもそっと俺に続く。




