スマキスイッチ?
ティラミスがこの城に来てから半年が過ぎた。
季節は移ろい冬真っ只中。雪も何度か降り積もり、暖炉が重宝される季節となっていた。
城は石造りを基調としているので特に寒い。至るところにストーブや暖炉が置かれ室温を暖かく保っている。
この季節の魔王城特有の風物詩といえばスライムの巣籠もりと呼ばれる現象であろう。
床や壁、至るところにスライムが身を寄せあってじっと身動ぎ一つせずに固まっているのだ。
大小大きさも色も様々。重なりあい冬を越す。
互いの熱が逃げないように草原の端や岩肌などではよく見られるのだが彼らにとって魔王の城はより安全なのであろう。
敵に襲われる心配もないということで知らず知らずのうちにスライムたちが集まるようになってしまった。
冬が終わるとまたスライムたちは勝手に草原へと散り散りになっていく。
ティラミスは初めて見る光景に目を丸くしていた。
珍しいこともあるが彩りが綺麗なことも面白かったのだろう。
時には一日中眺めていることさえあった。
そんなティラミスも俺に対しては相変わらずで暇さえあれば命を狙って襲いかかってきた。
「とぅりゃあああ。必ず魔王を倒して見せる、じっちゃんの名にかけてぇ!」
例の如くティラミスは性懲りもなく俺に斬りかかる。
じっちゃんの名にかけて俺を手にかけるってか。いい度胸だ。
だが…断る。
俺はティラミスの剣を足で弾き飛ばした。
剣は弧を描き、はるか彼方に飛んでいく。
「ま、また負けたでつ…」
ティラミスはガックリと膝をつく。
「お前には学習能力というやつがないのか、毎度毎度同じパターンで」
「参ったのでつ、魔王様。このスイッチをばどうか押してくださいませ。ティラミスが改心した証として魔王様へのプレゼントが飛び出す仕掛けが…」
ティラミスはどう見ても怪しいキノコ型のスイッチを俺に差し出す。
「爆弾ではないだろうな…。城の中では毒薬同様禁止だぞ。約束を破ったら二度とこの城の敷居はまたがせぬからな」
「わ、わかっているでつ…。この間の一件で懲り懲りなのでつ。どうかスイッチを…」
俺は期待もせずにスイッチを押した。
「ん?何も起こらぬではないか」
俺は辺りを見回した。
ーーすると、俺の後ろの方から何かが迫ってくる音がした。
静かだが確実に素早く。俺の足下がにわかに慌ただしくなる。
俺は振り返った。
廊下に敷いた赤い絨毯が巻き取られていく。
ローラーのように絨毯の上にある剥製やらレプリカの鎧やらを呑み込んでいく。
「名付けて…。スマキスイッチ大作戦でつ」
このままでは俺も危ない。俺は絨毯から逃れようと歩を前に進めるも押し戻されていく。
「今度こそ勝利するのでつ」
気がつくと、ティラミスは壁の側面に張り付き、パチンコで俺の足元を狙っている。
やべえ。
「喰らえ、必殺油玉!」
「お前はどっかの海賊団の狙撃手か!」
ティラミスが放った弾が俺の足元に命中する。
油だ。滑る。俺は転んだ。
足掻いているうちに絨毯の塊が俺に迫る。
俺は咄嗟に側面の壁に指をかけ、身を翻して絨毯をやり過ごす。
「こえー」
絨毯はなおも巻き取りを続け、廊下の端から端まで綺麗に巻き取って止まった。
入り口には大きなロールケーキのような物体が鎮座していた。
恐らく巻き取られた物体は中で粉々になっていることだろう。
「なんちゅうもん作ってんだ、テメー」
「あと一歩でしたのに。残念でつ」
侮っていた。さすがはじっちゃんを手に…、いや名にかけただけのことはある。
ティラミスはノートを取り出すと、何事か反省点を書き留め、更なる改良を誓い、自分の部屋に戻っていった。




