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俺は魔王で勇者は乙女  作者: 藤川そら
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なんか、絶対企んでるぞ

夕食は食堂で一同に介して行われる。別に決まりごとではなかったのだが、俺が魔王になってから自然とそうなっていった。


大勢でとる食事はそれは賑やかで和やかだ。


ほんの数十年前まで殺気だっていたモンスターたちとは思えないほど柔和な笑顔で食事する姿は本当に驚かされる。


みんなで食べるということもあるのだが、ひとえには料理長、パエリアの腕前にもよるだろう。パエリアは魔道士でウィザードと呼ばれる種族である。


火を操るソーサラーやメイジ、また回復や補助魔法が得意なドルイドより格が上で氷を操ることも出来るオールマイティーな種族だ。


その類い稀な魔力を活かしたパエリアの料理はどれも絶品で食べる者を魅了して離れられなくしてしまう。


俺も初めて食べた時からパエリアの料理にとりつかれてしまった。


平和な世の中にあってパエリアの料理はかけがえのない幸せと楽しみなのである。


俺は一旦執務室に戻り、夕飯時になったのを見計らって食堂に向かった。

石畳むき出しの床を踏みしめ、階段を下っていく。一階にある食堂へ着くまでには幾つかの部屋があり、厨房もその一つだ。


厨房に差し掛かる頃、城の配下やその子供たちがゆっくりと俺を追い抜かしていく。


追い抜き様にみな会釈したり、挨拶したりする。

料理に心馳せているのか、顔色同様、声も弾んでいる。


「ねえねえ、パエリア」


ーー厨房からティラミスの声がする。俺は立ち止まった。


その間も配下の者たちがぞくぞくと俺を追い抜かしていく。


「なんでござんすか、お嬢」


修道服をコック帽とコックコートに置き換えたパエリアが最後の仕上げ、盛り付けを行っていた。


真剣な表情は睨みが利いていて結構怖い。しかし、根は優しい。


「あのね、あのね。ティラミス、パエリアのお手伝いしたいの…。だってパエリア毎日、毎日一生懸命みんなのためにおいしいお料理を作ってくれるでしょう?ティラミス感動しちゃって。少しでもパエリアの負担を減らしてあげたくて」


「なんて、お優しい御言葉。あっしみたいのにそんな御言葉頂戴できるなんて…。泣けてきやすぜ、お嬢」


パエリアは盛り付けの手を休め、涙をハンカチで拭った。


「お気持ちだけ…。お気持ちだけで結構でやんす。あっしはそれだけでもう胸が一杯で…。ーーそうだ!メインとデザート、お嬢の分だけ多めにサービスさせていただきやすね。魔王様には…ってことで」


パエリアは口にチャックする仕草をティラミスに見せた。

「本当!ティラミス、パエリアだいつきでつ」


ティラミスはパエリアに抱きつき、頬にキスした。


ショコラ、お前が教えたスキルであるまいな…。壁にもたれかかり、身を隠して聴いていた俺は軽いめまいを覚え、眉間に人指し指をあてた。


「あっしは幸せもんにございやす」


パエリア、ティラミスみたいなガキに手玉にとられてどうする。


俺は熱がでそうになり、額に手をあてた。


「でもね…。ティラミス今日は食べることができないの。何でかわかる?」


「え?お嬢、まさか…。病気ですか、風邪でもお引きになったとか…。いやそれともまさか…恋煩い?ーーい、いや、いけません!それだけはいけやせん、お嬢とあっしでは身分も歳も…」


パエリア、どんな思考回路してんだお前は?


「違うの、パエリア。ぜーんぶ魔王のバカのせいなの」


「魔王様の?魔王様がお嬢に何かしやしたんで?」


「ヒドイのでつ、聞いて、パエリアじつはね…」


ティラミスは回復薬の件を恣意的な表現を交えてパエリアに説明した。


「それは、魔王様が悪いでやす」


「でしょう?だからティラミスは魔王様に復讐しつつパエリアのお手伝いを考えついたのでつ」


「あっしの手伝いと復讐?」


パエリアは合点のいかぬ顔でティラミスの顔を見ていた。


「みんな、魔王が全部正しいみたいに思っているけど違うってとこを見せてやるのでつ。ーーご飯も与えられず健気に働く幼子の姿を見たらモンスターたちもどう思うか?ティラミスだけが悪いとはきっと誰も思わないはずなのでつ」


「なるほど…。わかりやした。お手伝いしていただきやしょう。ーーで、何をなさるので?」


「魔王の配膳から片付けまでティラミスが一人で責任もってやるのでつ。パエリアいいでつか?」


「いいも何もありません。お嬢のお好きなように」


「やったー!パエリアだーいすき」


ティラミスはパエリアに抱きつく。パエリアはでれでれの横顔である。


一方のティラミスはというと意味深な笑みを唇に浮かべている。


表情が健気な子供とは到底思えない。企み120%含んだ悪どい顔だ。


大体自分で健気とかいうやつに健気なやつはいねえよ、気付けよパエリア。


方、ティラミスは俺の皿に毒でも盛ろうという魂胆だろう。


今ここで立ち聞きできたのは俺にとって不幸中の幸いだ。


俺は二人に気づかれないうちに厨房の前を立ち去った。


食堂は既に満員に近い状態になっていた。俺はいつものように一番前の特等席に歩み寄る。


ズッキーニが椅子を引き、俺は席につく。それを合図に乾杯がかかり、食事が始まる。



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