花の水やり。後ろから近づくアサシンの影
「とびっきりの笑顔で魔王様に一番効くお薬を作って、魔王様に盛っちゃうんだ、なんてティラミス様が言うものですから私もどうしていいのか…」
目に浮かぶようだ。しかも毒を「盛る」ときたものだ。
「ーーまあ、なんとかなるだろう。作らせてみろ、トリュフ。それもとびっきりの効果抜群のやつを…。即死級のやつで構わない」
「ええ!?ま、魔王様いくらなんでも…。もし、万が一のことがあったらこのトリュフ、死んで償うとしても命がいくらあっても足りませぬ。それだけは絶対に無理にございます」
トリュフは首と両手を激しく横に振って拒絶する。
「面白い。俺を毒殺しようなんて気を二度と起こさないようにしてやる。それまで俺も内臓を鍛えておかなければな、わはは」
トリュフもさすがに呆れた顔をしたが、俺は命令としてティラミスに毒薬の作り方を指南するよう指示した。
「大丈夫なの?魔王様」
トリュフが去ったあと、ショコラが不安そうに俺を見つめる。
「まあ、どうってこたあねえ」
俺は立ち上がって窓の外を見た。眼下に広がる草原では麗らかな日差しを浴びて、子供たちがスライムと戯れていた。
次の日からティラミスはノートを片手にメモを取りながら毒薬の作り方を学んでいった。
一丁前に白衣を着用し、視力もいいくせに厚底のだて眼鏡をかけ、トリュフに従っていた。
失敗の連続を繰り返し、時には黒焦げになり、時には自ら毒に冒され、死にそうになりながらゆっくりと完成度を高めていった。
そんなある日だった。
俺は庭でモンスターフラワーに水を与えていた。
モンスターフラワーは人の背ほどある花で、動き回り、小動物を捕食するモンスターである。
知恵もあり、水と光さえ与えていれば光合成できるので人を襲うことはまずない。
俺は飼い慣らして城の周辺に放していた。
動物は近寄らないので警備にもなる。一石二鳥だ。
俺はいつものようにモンスターフラワーを一列に並べ、脚立の上からホースで放水する。
モンスターフラワーたちは花弁の中央にある大口を開け、四肢をばたつかせながら我先にと水浴びをする。
「ほれほれ、嬉しいか?もっと喜べ。そして俺に服従を誓え」
俺はご満悦にホースの口を押し潰す。水は左右に分かれ、勢いよく飛んでいく。
ーーと、俺の背後から何かが近づいてくるのを察した。
草むらから掠れる音がする。