隅に置けぬ奴
当然といえば当然のことだ。
あとでズッキーニにバトルアックスの強化について尋ねたところ、一人で黙々とやっていたのだという。
昼夜を問わず、寝食も忘れ、ひたすら打ち込んでいる姿にズッキーニも心打たれ、ティラミスに力を貸したらしい。
もちろん、チートな俺がそんな武器の強化ぐらいでティラミスに倒せないことを見込んでのことだったのだが…。
武器を強化中にティラミスとズッキーニはこんな話をしたと言う。
「ねえねえ、ズッキーニはモンスターなのになぜ人を襲ったりしないの?旅の途中でエンカウントとしたリザードマンはティラミスを食べようとしたり、捕まえようとして追い掛けてきたのに」
「決していたしたり御座いませぬ。ーーこう見えてズッキーニにも妻も子供ございます。自分がされて嫌なことはしない、そう10年前に今の魔王様にお誓いいたしました」
「今のってことは前にも魔王はいたの?」
「はい。その粗暴な魔王様をお倒しになり今の魔王が御即位あそばれたのです」
「充分、粗暴じゃないでつか、今の魔王。あれ以上にしどいろくでなしなんて想像できないよ」
「そんなことはございません。ズッキーニは10年、今の魔王様にお仕えできて幸せでございます」
「ショコラも、薬師長のトリュフも料理長のパエリアもみーんな、みんなズッキーニと同じようなことを言っていた…」
「そうでございましょう。あの方になってから無駄な戦いはなくなり、人間とのわだかまりも解けて参りました」
「ふーん…。ティラミスはキライだな。だって魔王は私にはしどいことばっかするんだもん。投げたり、踏んだり、蹴っ飛ばしたり…。鬼でつ」
「ふふふ」
「何がおかしいの?笑い事じゃないでつよーだ。ズッキーニも嫌いになっちゃうぞ」
「今日はこのぐらいにしておきましょう」
その日はそう言ってズッキーニは会話を止めたそうだ。
ティラミスは不満たらたらで唇を尖らしていたという。
俺はズッキーニの手からショコラに渡されたティラミスを眺めた。
いつの間にか頬に涙の筋をつけながら静かな寝息を漏らしている。
俺はティラミスの涙の跡を人差し指ですっと拭った。
温かく柔らかい。
ティラミスはむず痒いのか身を縮める。
「ふふふ」
不意にズッキーニが俺の顔を見ながら笑う。
「何だ、突然」
俺はティラミスから指を離し、ムッとした表情をした。
「いいえ…。魔王様もお人が悪いと思いまして」
「何がだ?ーーティラミスを執務室から投げたことか?あれはこやつがおイタをしたものだから…」
「そうではございません」
ズッキーニは床に落ちていたバトルアックスを持ち上げた。
「まあ、綺麗な七色だこと…」
ショコラはバトルアックスをズッキーニの手からそっと取り上げ、空に掲げた。
バトルアックスは光を浴びて一層虹色の光を放つ。
「このズッキーニ、節穴ではございませんぞ。魔王様でございましょう?このスロットにオーブを装着したのは」
ズッキーニはしたり顔で俺の顔色を伺う。まったく気の置けない奴だ。
オーブは精霊の魂。武器に纏わせれば様々な効果が付与される。
HPやMPが回復したり、素早さが増したり、相手の攻撃力や守備力を下げたり様々だ。
脱着する者の力量によりその効果の大小も決まる。
「さあな…、忘れた。そんな昔のことは」
俺は横を向いた。今度はショコラが回り込んで俺の顔色を伺う。愉しそうだ。
俺は更に回れ左をしてショコラをかわす。
「魔王様に仰せつかり、ティラミス様をお迎え遊ばした時、ティラミス様は森でサーベルタイガーの群れに囲まれておいででした。バトルアックスをまともに持てないティラミス様がもしあのままの状態でしたら、一貫の終わりでしたでしょう」
「まあな…」
俺は悟られないように抑揚なくズッキーニの言葉に相槌をうつ。
「しかし、柄の空いた三つのスロットに見事にオーブがございました。一つは素早さを増すオーブ。一つは万一攻撃されても瞬時に傷を癒すオーブ。そして極めつけは相手の攻撃を察知した場合、反射的に反撃に転ずるオーブ。それにより、ティラミス様は瞬く間にサーベルタイガーの群れをなぎ倒していったのでございます」
「ほう、それはそれは」
ズッキーニはここで俺の顔を確認する。
「まあ、武器を扱うというよりは武器に振り回されながら放さないよう必死でしがみついていたというのが実情でしたが…。ティラミス様は御存知ないことにございます」
「強い武器も身の丈に合わねば足手まといのガラクタに過ぎない。ましてや死と隣り合わせのフィールドでは尚更…。今後もティラミスに教えてやってくれ。俺は疲れた。一眠りしてくる」
俺は執務室から出ると寝室に向かった。
歩きがけにショコラからアツい抱擁とキスの洗礼を受けて…。
まだしばらくティラミスには憎まれ役でいいとろくでなしの俺は思っている。




