『Re:rights』VS『TUDW』
『AFW』東京大会の二日目 残ったクランは開始時刻の10:00になるとそれぞれの対戦を始める。
俺たちは第8回戦の相手『AIA?』と握手を交わすと挨拶も早々に試合を開始しようと筐体の中へと入っていく
「ちゃっちゃと終わらせるぞ」
「なんか龍ヶ崎先輩いつも以上に気合入ってるね」
「まぁ、そのくらいの方がいいんじゃないのか」
「頼んだよ、リーダー」
大きく息を吐き出すと俺たちはゲームの世界へと入っていった
「それじゃあ、作戦開始だ」
それから俺たちは第8回戦『AL?』との勝負を早々に決めると第9回戦『JICK Ⅱ』との試合も手をこまねる事なく勝利するとお昼に休憩を挟むとついに決勝の『TUDW』との試合が始まった。
「次の相手は『TUDW』だ、関東大会を優勝したこともある強豪だからな。油断するなよ」
「もちろん、分かってるって」
「『TUDW』は遠距離2人に近距離が2人の編成、これまでに何回か戦ったことがあるが全部の試合でもその編成だったし今回もそう来るだろうな」
鴉野が話を終えたその時、目の前から四人組みが俺たちの元へと歩み寄ってきた。
「久しぶりだね『Re;rights』のみんな」
「三上さん、どうも」
そう言って四人の先頭を歩く一人の女性が俺に対して手を差し出した。
長身で長い髪を後ろで結びポーニーテールにしており、どこか九十九にも似た不気味な雰囲気はクランをまとめる為に身に付いたものだろう
「最後に対戦したのは一年前の東関東大会だったけ?」
「ああ、そうだったかもしれないですね」
「あの時は君たちにやられてしまったんだった。でも今回はやられないぜ?」
「もちろん、俺たちだって負ける気はないですよ」
お互いに相手を牽制するように見つめ合うとニヤリと笑いあうと無言で踵を返しそれぞれの筐体の中へと入っていくと息を吐き出して瞼を閉じる。
「それじゃあ、作戦を言うからな」
試合のステージは2000年代初頭の東京を再現したものであった。
どこを見渡しても無機質に立ち並ぶコンクリート作りのビルの数々、ステージの範囲としては中心の都庁から演習2kmと中規模ではあるがなにせ地上にある建物に比べて地下鉄などもあるために複雑なステージあることは間違いなかった。
俺たちはスポーン地に着くとお互いに見合う
「それじゃあ、作戦通り鴉野は偵察で他の俺たちは三人で行動するぞ」
俺の言葉に皆は無言で頷くと静かに動き始めた。
鴉野はスポーン地に近いビルの建物の屋上で敵を索敵と同時に見つけ次第に攻撃をして相手の数を減らす。
残った俺たち三人は地上を警戒しながら歩き敵を見つけ次第それぞれ攻撃をする。
いつもどおりに見える動きだが、相手が相手なので下手に動くことは出来ない
俺は手にしたハンドガンを強く握り締めると同時に辺りを警戒しながら都会の街の中を歩いていく
大通りを歩けば相手の二人のスナイパーに格好の的になることは必須、建物と建物の影に隠れながら俺たち三人は陣形を崩さないように慎重に進んでいった。
試合開始から約40分が経過したとき、物音を立てずに歩いていた俺たちだったが相手に動きが見えると同じく一発の銃声が遠くに聞こえると同時に全員に向けて鴉野からの連絡が入る。
「クソッ、敵に位置がバレたみたいだ」
「大丈夫か?」
「相手は2人、スナイパーとアサルトライフル持ちから狙われてどうしようもない状況だ」
そう言いながら鴉野はライフルを構えると銃を放ち応戦している模様だった。
その様子を見ながら俺はマップを広げて敵の位置を確認すると、どうやら相手は鴉野のいるビルから見て右斜め側にあるビルから発砲しているようだった。
「俺たちのいる場所からは距離がありすぎるな…」
俺たち3人はステージ中心部にいた為に鴉野がいる場所にたどり着くには全速力で言っても10分は掛かる、それに相手がどこで狙っているかもしれない状況で大胆に動き回るのは自殺行為も同然だ。
「鴉野やれるか?」
「なぁに、意地でも倒してやるよ」
そう言いながら銃を打ち込まれる鴉野は逃げ場のない屋上でスナイパーライフルで応戦するが相手の猛攻にとってみればそんなものは屁でもない。
そのことを悟るのに鴉野もプレイヤーとしての経験がないわけじゃない、例え屋上から逃げたとしても一度位置がバレたとすれば敵にマークされすぐにやられてしまうだろう事は百も承知
「悪い龍ケ崎、一足先にお前らのことを会場から見ることになりそうだ」
「何、弱音言ってるんだよ」
俺の声に鴉野はニヤリと笑を浮かべると小さな声で呟いた。
「ふん、心配するな俺だって『Re:rights』だ。そう安々とは死なないさ」
そう言うと鴉野は腰から下げたポルダーからグレネードを一つ手にすると相手の銃撃が弱まった所で徐ろに立ち上がると勢い付けて助走すると相手のビルに向かってグレネードを投げつけたが、いくらゲームの世界だからと言っても相手とのビルの距離は約500メートルしかも自分のいるビルよりも背が高い建物の屋上にグレネードを投げ込むなど出来る訳もない
「鴉野さんは何を考えて」
凛は鴉野の異様な行動に疑問を投げかけるように画面越しに言葉を言う
それは俺と渉も同じでその様子をかたずを飲んで見つめた。
グレネードは予想通り相手のいるビルの屋上までは届かない放物線を描き建物の中層部分にぶつかろうとしていたと同時に相手は鴉野への銃撃を再び開始した。しかし、その銃撃を鴉野は避けるでもなく佇んだままスナイパーライフルを構え相手よりも下に狙いを定めると引き金を引いた
その一発の銃声は相手の複数の銃声と共にかき消され鴉野の体を複数の銃弾が貫く
光に包まれる鴉野、しかし、放った一発の銃声は予想に反して大きなものになった。
爆弾が破裂する威力に伴う音は俺たちの元まで地鳴りのような大きな音を伴って襲いかかり建物は土煙を伴って爆発した中層部分から上の部分は斜めに崩さっていった。
その一連の流れに何が起きたのか分からず驚く凛に俺は光となって消えていった鴉野の影を見てニヤリと笑を浮かべた。
「やるじゃねぇか…」
「え?何が起きたの?」
ニヤつく俺に顔を向けて何が起きたのかを問いただそうと顔を近づける凛に俺は説明する。
「最初にグレネードを投げた時、あいつは直接、敵目掛けて投げたんじゃない。あいつの目的は建物自体を壊すことだったんだ」
「建物を壊すって…」
「確かに、建物を壊して相手をキルするつまり崩壊キルはあんまり見ないっていうかやる人間がいないからね」
「鴉野はそれをわざと狙ったんだ、グレネードを投げてそれを建物の中層付近でスナイパーライフルで撃ち抜けば建物の片面に大穴を作ることが出来る。そうすれば建物のバランスは傾き上層部分は崩壊するっていうわけだ」
空中に投げ込まれたグレネードを自分に銃弾が撃ち込まれている中で正確に撃ち抜くなんてむちゃくちゃだが鴉野の意地の攻撃のおかげで相手の二人をやることが出来て数で言えば俺たちの方が有利になった。
「だけど、ここからは全体を索敵する鴉野がいなくなった以上、敵の位置を把握するのは難しくなったな」
「まぁ、だけど相手は近距離が1人遠距離が1人だからな慎重にいけば順調に勝てるだろう」
「それじゃあ、改めて俺たち3人で行くぞ」
「うん」
「了解」




