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『Re:rights』  作者: 藤崎透
Re:legend
98/139

dream

第5回戦、6回戦、7回戦の強豪『@A@』の勝負も快調に勝利を収めると1日目の大会を終えると大会施設の近くに用意されていたホテルに帰った時には参加人数はAグループBグループを合わせても約70クラン総勢300人前後までに絞られていた。

「だけど本当に大規模な大会だな」

それぞれのクランごとに部屋が用意されており男部屋と女部屋と別れ試合の疲れをとっていた。

「まぁなんて言っても『AFW』の世界大会だからね、日本だけでも参加クランは12万クラン約50万の参加者だしね。世界での参加クランは100万とも言われてるみたいだよ」

「その中で頂点になるのはたった1つのクランか」

そう思うと果てしなく遠い道のりに気が遠くなりそうで、その日の対戦の疲れもあってかモヤモヤとした気持ちが俺の中に広がっていた。

「ちょっと気晴らしに外を散歩してくるな」

そう言って俺は気晴らしに夜のホテルの外へと行こうと出入り口の自動ドアの前まで歩みを進めているとそこには見覚えのある人物の背中があった。

「若葉、なんでお前こんな時間にこんな場所にいるんだ?」

俺の問いかけに驚いたように長い髪と共に振り向いた若葉は俺の顔を見て驚きの表情から笑に変えると呟くように言う。

「ちょっと気分転換しようかなって思って、もしかして龍ヶ崎君も同じ?」

「ああ、ちょっと考え事をしてたらどうにも落ち着かなくなってな」

そう言うと俺と若葉は無言でお互いの顔をしばらく見つめるようにしていた。そんな、どこかいつもとは違う雰囲気の若葉だったが沈黙のあと小さな声で呟く

「ねぇ龍ヶ崎君、それだったらこの近くの浜辺までちょっと散歩しない?」

「ああ…別に良いけど」

「うん、それじゃ行こっか」

そう言ってその日の夜に俺たちは月が足元を照らす夜の街の中へと歩みを進めていった。


しばらくの間、俺は若葉の横でついて行くように無言で黙々と足を進めて行った。

大通りを通る車のヘッドライトがいくつも通り過ぎその度に一瞬だけ見える若葉の横顔をみつめているとやがて信号機を渡った後に公園のような場所に辿りつくと両端に植えられている木々の間を通るように遊歩道の上を歩いているとそれまで無言だった若葉が前触れもなくふと呟く

「龍ヶ崎君には何か夢がある?」

「なんだよ突然そんなこと聞いてきて」

若葉は俺を見るわけでもなく真っ直ぐに歩みを進める。

先程まで聞こえた街の音は消え聞こえるのは風に揺れる木の葉と波の音が混じりあう不思議な音だけだった。

俺は歩く俺たちを照らす街灯がいくつか過ぎてから言葉を選ぶように応えた。

「別に、何になりたいとか何がしたいとかそんなの聞かれても俺にはよくわからない」

当時からゲーム以外のことに関しては何も実感が持てなかった。いわばゲームの世界で生きているようなもので現実世界には興味がなかった。

そんな俺のことを察してか若葉は小さく語りかけた

「私はね…あるよ。いつも願ってる」

「へぇ…願う程の夢って一体なんだ?」

「龍ヶ崎くんに、いや『Re:rights』に世界一になってほしい」

俺は息を飲むとそんなことを堂々と言える若葉のことを見ているのが気恥ずかしくなって来てつい目を逸らして口を開いた。

「そんなのが夢って言えるのかよ。もっとこう将来何になりたいとかそういうんじゃないのか」

「そうかもね、だけどやっぱり龍ケ崎くんたちが試合で勝つ所を見ているとそれだけで私は嬉しいからさ」

その言葉を言い終えたとき海の独特な匂いが風と共に俺たちの体にぶつかる。

それと同時に広がったのは街の光に照らされるどこまでも広がる海だった。それはどこか怪しく、街の光を儚く反射させていた。

「だから、龍ケ崎くん…」

若葉は一歩踏み出し海風を背にするようにして俺と向かい合うような格好になるとなびく髪も無視して風に流されるように小さな言葉を口にする。

「絶対優勝してね」

その時の若葉の笑を俺は今でも忘れられない。

いつものように口を横に広げて出来るエクボに海風に揺れる髪の毛とワンピース、淡く光る海に俺は見とれてしまってしばらくの間ことばが出てこなかった。

そんな呆然とする俺の姿を見て恥ずかしがったのか若葉は後ろを振り返ると海を見つめると近づいていった。

「わぁ、すごいきれいだね。来てみてよかったね」

そう言ってごまかそうとする若葉の後ろ姿を見て俺は決心して小さく言葉を紡いだ

「若葉…」

「うん?」

俺は言いかけて言葉を切ると、頭を振って改めて口を開いた。

「お前の願いは分かった。『Re;rights』を世界一にさせてやるよ」

俺の言葉に夜の浜辺で若葉は俺と向かい合うようにすると小さな笑を浮かべて言った

「お願いね」

夜の浜辺に踏み出して二人で波の音を聞きながら俺たちは思いを馳せるように頭上を照らす月を見つめた。


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