peaceful days
夏の日差しが注ぐ中を俺は外に設置されている男子トイレの掃除を一挙に任され言葉なくそれらの目的をやり終えると冷房が聞いた部室の中へと避難するように入っていった。
「お疲れ様、龍ヶ崎くん」
若葉の言葉に反応するように俺はソファに沈む体の中から力を振り絞って片腕を天に上げて反応した。久々にこれだけ動けば誰しもが筋肉痛になることはわかっていただろうに先生は倒れこむ俺の姿を見て部室のパイプ椅子から立ち上がるとスーパーの袋の中から一つ選び取って俺に差し出した。
「龍ケ崎お疲れ、これアイスだ」
「ありがとうございます」
すっかり荷物が片され整理整頓された部室の中を見ながら俺は先生の手から円形状の容器に入ったアイスクリームに手を差し伸べた
ひんやりとした冷たさが手から全体へと広がっていき体を冷やしていった。
「でも先生、なんで今日なんですか」
「うん?なんだ龍ケ崎」
「いやいや、部室に呼び出したのは先生ですよね」
実際に集合のメールが来たのは若葉からだが、その裏で先生が関わっているのは明らかだった。昨日になってからの突然の集合、部室の片づけというよくわからない文言どれをとっても先生が適当に当てつけただけの理由に過ぎない。
「やっぱりお前にはバレるもんだな」
と言いつつもどこか楽しそうな先生の姿に俺は少し不貞腐れながらも上体を起こして袋から棒を取り出してアイスを頬ぼった。
「まぁな、俺から連絡をかけてもどうせお前は反応しないと思ったからな。篠川を使えばお前も来るだろうと思って連絡させたんだよ」
俺は溜息を吐いて先生の言葉を聞き流そうとした、いや先生の言葉も間違ってはいなかったが
「それで、そこまでして俺を呼び出した理由は何なんですか」
「ああ、それはな」
先生は間を作って俺たち三人を見渡すと堂々とした口調で言った。
「この夏に部活をやろうと思うんだが、どうだ」
「はぁ…部活ですか?」
渉の不思議そうな表情に先生は顔を向ける。
「そうだ、お前ら天文観察部に入ったっていうのにこれまで部活らしい事をしていないだろう?顧問の俺が見てもそれは由々しき自体だ」
「でもどうしていきなり。これまで俺たちが部屋にゲーム機を持ってこようが知らない顔して見過ごしてきたじゃないですか」
「ああ、まぁそれについてはな…」
先生はどこか言いづらそうに口を紡いだままそっぽを向いて手を頭の後ろに回して髪を掻き乱した。見るからにバツが悪いといった表情だ。
「顧問を引き受けている以上は何か形に残る記録を残さねばならないんだ、なぁ龍ケ崎なら分かるだろ?何かやんないと俺が怒られるんだって」
「はぁ…まぁそんなところだろうとは思いましたよ」
何かしらの実績を出さなければ評価が下がるのは当然、実際俺らが入部してからこれまでに部活らしい部活をしてこなかった。理由は俺たちが試合にかまけて部活の存在を休憩場所としか考えていなかったからだろう。
「まぁでも、俺らにも部活をしなかった責任はありますしね。忙しくない夏休みに部活動もやっていければいいですね」
「おお、よく言ってくれたぞ龍ケ崎」
大げさな言動のくせにそれに伴う態度は小さい先生に俺は呆れるようにアイスをまた口に入れた。
「でもみんなで部活か…なんだか面白そうだね」
「篠川もそう思うだろ、やっぱりこれから夏だしな天体観察をするならこれからが一番だもんな」
「それじゃあ、どこか遠くの山とかに行くんですか?」
「矢薙もいい事言うじゃないか、そうだな星がきれいに見える所に行くのもいいな」
と盛り上がる中で俺は話を遮るように言った
「あの盛り上がってますけど、うちの部活の部費どれくらいなんですか」
「ああ、そのことについても話し合いたいと思っていたんだった…」
先生は落ち着きを取り戻すように一回咳払いすると俺たち三人を見て拝むように言った。
「うちの部活ってお前らが来る前からそんなに目立ったことはしていなかったんだ、だから予算もあまり無いんだよ」
「それじゃあ、場所はうちの学校の屋上とかですかね」
「いやいや、ちょっと待てよ。それでだ、折り入って相談があるんだが」
「何ですか、予算がないのならうちの学校の屋上を借りてやるしかないでしょ」
「だから、お前たちに相談があるんじゃないか」
「何ですか、それ」
俺と見合った先生は切り出しにくのか、なんどか口を開いては綴じを繰り返すのを暫くして思い切って口を開く
「お前たちに大会に出場して予算を確保して欲しいんだ」
頭を下げる自身の担任の姿に俺は驚きというよりかは絶句をしてしまった。
いや、先生の言っていることも分からなくはなかった。というのも『AFW』の大会の中には優勝、準優勝を果たしたクランには賞金として幾らかもらえるものも存在していたからだ。
「俺たちに賞金を稼いで来いと?」
「ああ、まぁ…本当のところを言えばそうなるな」
俺は大きな溜息を吐き出すと渉たちの方を見るとその顔はどこかやる気に満ち溢れていて無言で頷いた。
俺はもう一度、溜息をついて凛と鴉野になんて言って説明しようかと考えた。




