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『Re:rights』  作者: 藤崎透
Re:legend
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start of a legend

「本当に2043年にやるんだな、世界大会!」

俺は部室のソファに寝転びながらその言葉を2桁は聞いたと頭の中でうんざりしていた。

高校生になった俺たちは、仲良く三人とも同じ高校に入ると部員が誰もいない天体観測部なる部活動に入りその部室を私的利用していた。

「もう、朝からそればっかりじゃなくて渉くんも片付けるの手伝ってよ」

「ああ、ごめんごめん」

私的利用したおかげで散らかった部室を二人して片付けるのを横目に俺は天井を仰いで瞼を閉じる。

夏休み初日の早朝に若葉から部室に集合との声が掛かると飛び起きてやってきたというのにやることが片付けなのは気落ちしないでもないが理由はきちんとある。

俺らが入部している天文学部のメンバーは3人つまり俺と若葉、それに渉を含めた人数しかいない。これは俺たちが入学してくる前の年にそれまでの部員が出払ったことで今では俺たちしかいなかった、おかげで自由に部室を使えはしたが管理までも自らの手でやらなければいけなかった。

「よう、片付けてるか」

俺が瞼を閉じ渉と若葉の揉み合う声に耳を澄ましていると部室の引き戸が惹かれる音に混じり新たなる人物の声が聞こえた。

俺は体制は動かさずにその方を見ると現れたのはこの部の顧問かつ俺らの担任でもある南武先生であった。

入学式の日、俺は指定された席に座りながら頭の中では『AFW』のことを考えていた

こう来たらこう動く、相手の布陣に酔ってどう動けば一番良いのか。そんなことを考えていた折、新たなクラスメイト達の騒がしい声が響く教室に颯爽と入ってくると同時に教卓に日誌のような黒い物を叩きつけ注目を集める。

「私がこのクラスの担任になった南武輝彦だ。よろしく」

髪をボサボサな上にあごひげが後ろの席からでもうっすらと見える。そしてこの人物を象徴するようにポロシャツを隠すように全身に纏った白衣、その姿に俺は最初どこか胡散臭い科学者といった印象を持った。

しかし、生徒の驚いた表情をよそに南武先生は自己紹介を進める。

「歳は今年で36、教科は社会だ。好きなものは体に悪いけどタバコかな」

一同、その勢いと適当さに知らないもの同士でも顔を見合わせるほどだった。

白衣を着ているのにまさかの文系講師、見た目でさらに言えば40代であろう容姿をしているのにまだ30代という事実。

驚きの表情に満ちた生徒の顔を見て南武先生は面白いものを見るように教室を見渡して笑を浮かべた。

察するにこの挨拶は先生にとっての十八番なんだと思うのと同時にこの先生は大丈夫なのだろうかという疑念を覚えた。

それから約3月が経ったが、その疑念を未だに振り払うことはできていなかった。

まぁ、そんなこんなんで話は戻って夏休み初日、先生の姿に渉と若葉の二人は箒を取り合うのを一旦辞めると同時に軽めに挨拶をする。

「ええ、なんとか片付けています」

「そうか、それなら良いんだが」

若葉の顔を見てから部屋の奥で部室のソファに寝転びながら見る俺の姿に気づいた先生は悪態をつく客のような表情を浮かべて口を開いた。

「何で龍ヶ崎は寝ているんだ、お前も部員なんだから部屋の片付けを手伝えよ」

「この部室に物を持ち込んで汚すのは渉なんですよ、俺が汚したものは何もないんですから掃除するものは無いんですよ」

実際、部室に溢れんばかりにあるゲーム関係の雑誌や機械は渉が家から持ってきたものしか無かった。それとあるのは前の部員の人たちが残したとされる天体に関する機材や雑誌の数々だった。

「まぁ、お前の言い訳もわからなくは無いが…だけどな龍ケ崎、協調性っていうのも大事だと俺は思うぞ」

「それを言えば、自分の物は自分で責任を持つとも言うじゃないですか、俺はその信念のもとにもう自分の物は片付けたのでこうして寝ているというわけです」

「お前は本当に可愛げないな。まぁ言い、俺はそういう人間が嫌いじゃないからな」

そう言って俺の元へと近寄ってくると仁王立ちになり上から目線で言葉を吐き出す。

「それじゃあ、お前には特別に部室の掃除とは違った物を命じる」

先生の言葉に俺は嫌な予感がした。とても嫌な、それでいてすごくめんどくさい

俺は恐る恐るソファから上半身を起き上がらせると聞いた。

「それってもしかして」

「お前にはトイレ掃除を命じる」

「何でですか、俺だけそんな」

「龍ケ崎、お前だって学校のトイレを使ったことくらいあるだろう。それだったらお前が掃除する義務もあるだろう」

先生の言葉に俺はたじろぎながら体を起こすと大きく溜息を吐いた。

自分の言葉に揚げ足を取られるなんてことやられるなんてと俺は点を仰ぐように天井を見つめる。

「それで」

先生は俺の顔を見て満足したような笑を浮かべると白衣に手を突っ込み体を回転させると俺たち三人を見渡してもったいぶったように前置きした。

「お前らは世界大会に出るのか」

「ああ、今その話をしていて」

高校生になった俺たちは関東大会を勝利し東日本大会でも準優勝を果たしたことで学校の人間のみならず『Re:rights』の存在を知られていた。

それ故、俺たちがこの学校に入学した時にはちょっとした騒動のようなものが起きたとかなんとか

それもこれも『AFW』の知名度が広まり一般人にもその存在が当たり前のようになったからだろう。

「ていうか、話していないな」

考えてみれば今朝から渉が一人で喚いているだけで大会についてのことは何一つ話していないという状況だった。

俺たちの無言を読み取って先生は不思議そうな顔をすると慌てた口調で俺たちに話しかける。

「え、お前ら出ないのか?」

「いや、俺は渉がこれだけ言ってるんだから自然と出るもんだと思っていたんですけど」

「僕も、出るもんだと思って」

お互い見合って俺らは言葉を止め視線だけで語り合う。

その様子を見て先生は不意に笑を浮かべる、と同時に笑い声を交えた。

「なんだ、俺が心配する事じゃ無かったんだな」

両手を広げて呆れた様子の南部先生に俺ら二人は笑みがこぼれた。

おかしいことはない俺らは無意識的にお互いが試合に出るものだと思っていたんだ。

「でも、今回の大会はお前らも大変だな」

「何がですか?」

俺は首を傾げて先生の方を見たが、答えたのは渉の方だった。

新聞を両手に広げながら表紙の1片を俺に見せ、そこに書いてある文字を読めるようにしてから説明を始める。

「まず2043年に開催される世界大会の会場は日本なんだが。その世界大会に出場するにはまず、これから一年かけて各国で開催される代表選出のトーナメントに勝ち残り最後の2組に残らなければいけないんです。さらにそこから半年の月日をかけて各国の代表2組が出揃ったところでさらにトーナメントを行い最終的には世界12組、48人で優勝を争う決勝戦に勝ち上がれるようになる」

「だからお前らも出場するとなると長い年月をかけて戦わなければいけない」

「なるほど、俺たちはまず日本の中でも2組に残らなければいけないってわけか」

つまり全国大会を優勝する実力者と互角、いやそれ以上の実力がなければ世界の相手と戦う事も夢のまた夢なのである。

「まぁ、でもそのうちの一つは『J.L.Q』だろうな」

渉の声に俺はつば飲み込んだ、この時の『J.L.Q』といえばリーダーの九十九を始めとした日本全国の強者が集う場所だということを世間から周知され、その名に恥じぬ実力を発揮し昨年に行われた全国大会でも優勝を果たした。

それだけのクランも参加を即時表明したと新聞の一面には載せられ、さらに熱気が膨れ上がっていく様相を見せていた。

「それで、俺たちはもう参加の申請をしたのか?」

「ああ、今朝一番にしてきたよ。っていってもインターネットでの申し込みだけどね」

俺はその言葉を聞くと静かに息を吐き出してソファから立ち上がった。

「夕方にはいつもの場所でゲームセンターに凛と鴉野も来るんだろう?その時に今回の大会について話すとするか。それと次の試合の話もしなきゃならないし…」

俺は言いながら伸びをしてそのまま部室から出ようとドアに手をかけたそのときだった、俺に手を置き力強く引き止める人の姿が

「どこに行くつもりだ龍ケ崎、お前にはトイレ掃除を任せたはずだぞ」

「ああ、そうでしたっけね…」

愛想笑いを浮かべながら俺は内心で舌打ちをかました。もう少しで逃げられるところだったのにとドアにかけた手を引っ込めて踵を返すといつの間にか先生が手にしていた物を嫌そうに見つめる。

「はいこれ、掃除用具」

「本当にやるんですか?」

俺の言動にも動じることが無い笑を浮かべる先生に俺は愛想笑いを浮かべて無言で掃除用具を奪い取るようにして外へと飛び出た。

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