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『Re:rights』  作者: 藤崎透
Re:memory
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Bond 『Re:rights』

筐体のドアを開けて辺りを見渡してみると楠野達は一足先に席から立ち俺たちのことを取り囲むように見ていた。

「おいおい、物騒なことは無しだぜ」

俺は自分の席から立つと一歩前に出て楠野の元へと歩み寄るとその目を見つめて二ヤッと口元を緩ませる。

「賭けは俺たちの勝ちだ、約束通りお前らは解散しろ」

「そんなこと、できませんよ。僕たちはこれで暮らしているんですから」

そう言って楠野の横に居た仲間の大柄男の一人は俺の腕を乱暴に掴んだ。俺はその行動に溜息を吐くと腕を掴み返しそのまま横へと振り払った。

渉から教わった護身術を使えば相手が自分より体格が大きくとも簡単に振りほどくことなんてこと造作も無い。

「痛って…」

手首を抑えながら立ち上がった大柄の男を横目に俺は再び楠野に視線を向ける。

「だから言っただろ、物騒なことはなしだって」

「くッ…」

悔しそうな表情を見せる楠野を俺は睨むとそのままグループの中を割るように人の群れの真ん中を道進みゲームセンターの出口へと向かった。

その時だ、俺の背中越しに怒鳴り声にも似た声が店内のゲームの音に混じって聞こえる。

「ここにいる人間はあなたたちを許しませんよ」

俺たちは振り返るとそこには俺たちの事を睨み見る数十人の姿があった。

そこにいる人間は楠野と同じように居場所がなく彷徨っている最中に身を寄せ集まってできたのだろうか。

そう考えると、どこか同情の気持ちが沸かないわけでは無かったが

「そのことだが」

振り向いた鴉野は前置きを小さく言うとそれに答えるように大きな声でいった。

「君たちのグループはどうやら『ゲンブ』につながっているらしいけど。俺はその羽島と昔からの知り合いでね。君たちのことを気にかけていたよ」

鴉野の言葉に目の前の楠野たちの表情は一変し小さな声で何かを話し始める。

その様子から察するに鴉野がいった羽島という人物はこのグループにとってかなりの重要人物らしかった。

そのうちの一人が恐る恐るといった表情を浮かべながら言い返すように言葉を吐き出す。

「それが、お前に何の関係があるんだよ」

「いやまぁ…君たちが俺らに復讐しようとしているならやめたほうが良いって言うただの忠告さ」

そう言うと鴉野は踵を返して出口へと足早に歩を進め俺らも後ろにいる楠野たちの様子を気にしながら出口へと出ていった。



店を出ると晴れ間の日差しに一瞬だけ目がくらんだ、それでも俺は光の中を進み俺は鴉野と向き合うと攻め寄る。

「鴉野、最後のは何だったんだよ。あんなの作戦になかっただろう」

「ああ、悪いな。でもああでも言わないとあいつら俺たちに危害を加えてくるかもしれないだろ?だからその予防線を張っておいたんだ」

「その羽島ってやつ、一体何者なんだよ」

俺の質問に鴉野は笑を浮かべながら口元に人差し指を置いた。

「俺が昔やんちゃしてた時の昔馴染みなんだよ」

そう言ってその場から立ち去ろうとする鴉野を俺はそれ以上止めようとはしなかった。

俺は鴉野の過去が知りたいわけでは無かったし別に知ったところで何が変わるわけでは無いからな。

だけど俺は一つだけ聞きたい、聞かないといけないことがあった。

「危険な橋を渡りすぎるなよ」

「ああ、分かってる。今の俺はお前とメンバーなんだからな。お前らに迷惑をかけるようなことは絶対しないさ」

というわけで楠野との話はこれで終わりだが、余談として一週間、一ヶ月と経っても相手からの報復はその尻尾さえも見せることはなく過ぎていき賭博の噂も効かなくなったと若葉も言っていたが一つだけ、変わったことがあった。

それは学校の中で楠野の姿を目撃することがなくなったのだ。

渉の話では俺たちとの対決をしたその週明けから楠野は学校へは来ていないらしかった。その理由が俺たちとの対決が原因であることは明白ではあって俺は少し悩んでいた。

「龍ケ崎くん、どうしたのいつも以上に憂鬱な顔をして」

「なんか、あんな終わり方で良かったのかな」

「この前こと?」

「ああ…」

楠野の居場所を壊してしまって学校にも着づらくなってしまった。

その原因を作ってしまったのは確かに楠野自身ではあるけど、もっと上手い具合に解決への道を模索できなかったのだろうかと俺は悶々としていた。

「俺が『Re:ights』に出会ってゲームの世界に入ったように、楠野もあのグループに出会って賭博の世界に入っていった。もしかしたら俺もあんな風になっていたのかもしれないって思ってな」

俺も渉と若葉に出会わなければこんな楠野のように街の中を彷徨い歩いていたに違いないと思った。そうすれば自然とああいうグループに入っていたかもしれないと思う。

俺を覗き込むように体を傾けて見る若葉は少し考えると俺に顔を近づけるといつものような笑を浮かべた。

「だけど、龍ヶ崎くんはどこにいても今と同じようにいろんな人に頼られる人になっていたと思うよ」

俺はつい顔を横に向けて若葉の顔を避ける。

「そんなのお前が勝手に行ってるだけだろ。もしかしたら俺たちは敵同士だったかもしれないんだぜ」

「その時は、私が龍ヶ崎君の味方になるよ」

「何言ってるんだよ、敵同士だって言っただろう仲間になんかなんねぇよ」

「そうかな、案外話が合うと思うんだけど。そう思わない?」

笑を崩さないで俺のことを見る若葉に俺は少し照れながらも頬を緩ませた。

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