『Re:rights』VS『crisis』
俺たちは物陰に隠れ注意しながらマップ中央の様子を伺うとそこには一人の人物、楠野が中央に立って待ち受けていた。
風が強く地面の砂が巻き上げられる中を微動だにしないでいる姿はどこか不思議だ。
撃とうとすれば撃てる距離、俺は銃口を銃口を向けようとしたそのときだった。
「龍ケ崎先輩、いるんですよね」
楠野の響き渡る声に俺は驚いた。そこまで来るまでに音もなく近づいたというのに、楠野はどうして俺の存在に気づいたのか、俺は楠野に向けようとした手にしたハンドガンの銃口を下に向ける。
「出てきて話しませんか」
楠野は場所は分かっていないようだった。もしかすると俺がいるということも当てずっぽうだったのかも知れないが、そんなことはどうでもいい
俺は瞼を閉じると物陰の中で立ち上がった。
「おい一、出て行くなんて自殺行為だ」
隣で影に隠れていた渉は立ち上がった俺を見上げて楠野の元へ行こうとした俺を制止する。
しかし、俺はその言葉を退けるように旋風が砂を巻き上げる中で立っている楠野を見つめてから再び渉の方を見た。
「大丈夫だ、俺には作戦がある」
「それって」
渉の声を最後まで聞くことなく俺は物陰から身を乗り出すと楠野の元へと歩き出した。
マップ中央、楠野の目の前にまでくると風がより一層強く感じられた。
そんな中で俺と楠野は数メートル離れ間合いを取ると俺は吐き出すように言葉を投げかける。
「俺なんかを呼んで何の用だ、命乞いとかなら勘弁してくれよ」
「いやいや、そうじゃないですよ。ただ今回のことで二人で聞きたいことがあったんですよ」
そう言うと楠野は辺りを見渡して、どこか人の気配を気にするような素振りを見せ居ないことを確認すると俺のことを睨んで見る。
これまでの表情とは一転したその表情に俺は楠野という人間が本性を現した様に思った。
「どうして僕がゲームで賭博しているってわかったんですか?」
「ああ、そんなことか。最初にお前と会った時にカードを拾っていただろう。それから賭博をしてるって噂を聞いて調べてみたらお前が本当に関わっているっていう事がわかった、ただそれだけの事だよ」
「そうですか、その時から僕に目を付けていたなんてさすが『Re:rights』の龍ケ崎さんというだけはありますね」
「ふん、お前に褒められても嬉しくはねぇよ」
俺の憎まれ口に楠野は笑を浮かべるが、それはまるで人を馬鹿にし嘲笑するような表情で時と場合によっては人を怒らせてしまうようなものだ。
だけど本人はそんなことを気に止めることもなく俺のことを睨みつけると言葉を続ける。
「学校の中で信用できる人間もいない、そんな時に僕はこの人たちに出会ったんです。最初はゲームで金を儲けるだなんて事に抵抗があったんですけど暫くしてやり方を覚えると面白いんですよ、クランのみんなと一緒になって試合をする。学校の人間とは違ってクランみんなは信用できます、居場所もあるんですよ。龍ケ崎さんはこの試合に勝ったら警察とかに言うんですよね」
「まぁな、ここまで大きくなっている以上これまでに何人も被害に遭っているだろうしな。警察と学校の関係者にも連絡するしかないだろうな」
「そうですか」
そう言って空を見上げ黙り込んでしまった楠野を見て俺はなんて悲しい人間なんだと俺は思った。楠野はどこにも居場所がないと彷徨う中で今のクランの人間に出会いゲームの中にのめり込んでいっただけなのだ。
「だけど、お前は間違っているよ」
人は人に影響される生き物だ、周りの人間が賭博なんかをやっているだけで、もっと違う人間と出逢えば正しい道に行ける人間だ。
だけど、その時の楠野は明らかに俺の正義に反していた。
「俺はお前らを倒して賭博をやめさせる」
俺はそう言って銃口を楠野に向けた。しかし、本人はそれに動揺を見せる事もなく不気味な笑を浮かべたまま俺のことを睨んだ。
「僕にはもうここしか無い、ここが無くなればまた一人になってしまうんです。それでも、龍ケ崎先輩の正義に反していますか?」
「ああ、全然違うよ」
「それなら、こうするしかないですね」
楠野は含みを持った言い方をして言うと手にした小さなボタンのような物を俺に見せつけるようにしてからゆっくりと押した。
すると俺の体は急に重しでも乗せられたように膝から落ちてしまい身動きがとれなくなってしまった。
「おい、何をした」
「いや、ちょっとした小細工をね」
「クソッ」
そう言いつつも俺の体はどんどんと重くなっていき俺は両手を地面につけて必死に倒れないように踏ん張った。
しかし、そこで俺はさらに異常事態に気がついた。
「体力もか」
画面端に映る体力ゲージがみるみる減っていっていた。これまでの対決で俺の体力は一ミリも減ってはいないはずなのにこの時には4分の3を切りそうな所まできていた
「このスイッチを押すだけで相手の動きを封じ更には体力も自動的に減るなんてすごいですよね」
「何を得意げに自慢してんだよ、明らかに不正行為だろそれ」
「まぁ、そうですね」
楠野は高らかに声を上げて地面に両手をつける俺のことを見下すような視線を向ける。
その本性は明らかに黒いものが見えている。
「僕の世界を壊すなら、僕はそれを全力で排除します。当然の事でしょう、ねぇ龍ヶ崎さん?」
「お前の言ってることはよく分かんねぇよ。そんなもん使って勝ったところでそれは勝ちとは言えねぇだろうが」
「確かにそうかもしれません、だけど試合に勝たないと意味が無いんですよ何事も」
「だからってお前、こんなことして言いわけないだろ」
「龍ケ崎さん、それは本来の正義の話だ、ひどく綺麗で上っ面の話ですよ。考えても見てください戦争だってどんな手を使っても勝った人間が正義なんですよやり方は関係無い、むしろ強さを求めた結果なんですよ」
楠野は笑いながら俺の元へと歩み寄ってくると跪く俺に顔を近づける。
「どうですか、今の気分は」
楠野の煽りの言葉に俺はニヤついて言い返した。
「最高の気分だよ」
「こんな状況でもよくそんな事が言えますね」
「そうかな、案外お前のほうが危ないかもしれないぜ?」
そう言うと俺は下に向けていた頭を勢いよく上に向けて俺を覗き込む格好をしていた楠野の顎へと頭突きを入れた。
「痛ッ!?」
痛みと驚きで楠野はそのまま後ろにバランスを崩す。その様子を見ると立ち上がり体を動かしてきちんと動くか確かめるが何の問題もなさそうだった。
しかし、それ以上に楠野は俺の立っている姿を見てまるで幽霊でも見たような表情を浮かべると俺に向かって叫びにも似た声を出した。
「どうして、動けるんだ!」
「簡単な話だ、不正行為には不正行為が一番効く。だから俺らもバグを使ったんだ、最初試合が始まる前に鴉野が転んだだろう?あの時にお前らの使っているバグのソフトにバグを入れたんだ。作動するのが少し遅れたみたいだがな」
体力ゲージを見てみると残り4分の1ほどまで減ってはいたものの、このくらいなら全然大丈夫だろう、後は思う存分に目の前の楠野を倒すだけだから。
俺は改めて銃を構えると引き金に指をかけたが楠野は銃を向けられたことよりも不正を破られたことに驚いていた。
「あのバグは並大抵のものじゃ突破されないようなものなのに」
「ああ、それって『GSO』専用のバグを誘発出来るソフトのことだろう。俺も良くは分からないんだがそれを作った人間を俺のメンバーと知り合いらしくてな。その人物から譲りうけたらしいんだ」
簡単に『GSO』のバグを作ることが出来る友人を持っている鴉野の過去について詳しくは聞かないでいたほうがいいと思った。
俺は息を吸い込むと改めて目の前の楠野の頭に銃口を向ける。
「何か最後に言うことはあるか?」
「ふん、僕は負けないですよ」
「そうか」
俺は指にかけた引き金に力を入れて頭に銃弾を打ち込んだ。
楠野の最後の表情はどこか悔しそうな表情を浮かべたと同時に不気味な笑を浮かべながら光に包まれながら消えていった。
「龍ケ崎、こっちも終わったぞ」
鴉野の声が耳元で聞こえると同時に俺たちの目の前には勝利を知らせる表示が現れた。
『勝者 Re:rights』




