Chance of victory
「くそッ」
拉致が開かないと判断した俺は引き金を引くのを辞めると、走ることだけに集中し凛との距離を詰め始めた。
その行動に、危機を察知したのか首を動かし、後方から迫り来る俺の姿をチラリと見ると足を急停止させてそのまま、体を反転させると俺に向けるや否や手に握ったハンドガンの引き金を引いた。
音もなく、突然の反撃に走り出していた体を急に止めることは出来ない。俺はその場で大きく跳ね銃弾を避けると空中で一回転して凛のことを視認しようとしたその時だった。
相手である凛の手にハンドガンが持たれており、距離は先ほどとは比べ物にならないほど近くにいた。
つまり、凛はこの狭い路地で俺が銃弾を避けるならば大きく飛ぶのだろうと予測していたのだ。路地に逃げた時から作戦は始まっており、俺はまんまと一杯食わされた。
「やるじゃねぇか」
笑みを浮かべた凛が俺に向けたハンドガンの銃口を見ながら、その状況を打破すべく体を大きく捻る中で、俺は腕を伸ばすと二つの銃声が交わりあった。
その瞬間、軽い音と共に今の今まで凛の手元にあったハンドガンは消え、俺の体力は半分ほどまでに減った。
「なッ...」
驚く凛の表情も無理はない。空中で体を無理に捻った俺は手にしたハンドガンを使って凛の手に握られたハンドガンを打ち抜き追撃を防いだ。しかし、その攻撃がすこし遅れたせいで、俺の体力は半分ほど減ってしまった。
けれど、それを気にしている暇はない。地面へと体を叩きつけられた俺に凛は壊されたハンドガンの代わりの銃を取り出すとそれを転がる俺へと容赦なく突きつける。
依然として絶体絶命の状況は続く中で、俺は大きく息を吐き出すと大きく叫んだ。
「今だ!」
その声と同時に遠くの方から銃声がステージに鳴り響いた。と俺は地面に手をついて体制を立て直すと攻撃を受けて動揺を見せる凛に銃口を向けた。
しかし、そんな状況でもどこか余裕を見せる凛の姿に俺はマップを見たその時だった。上空からハンドガンを持って降ってくる渉の姿がそこにはあった。
渉の手から放たれる銃弾に俺は咄嗟に後ろへと体を逸らすとそのまま後転して距離を取ると、目の前の二人を牽制する。
「今の攻撃は?」
攻撃を受けて体力が俺と同じ半分程まで減った凛は前に立つ渉になぜ自分が攻撃を受けたのかを問いかけたがその答えは簡単だった。
「鴉野さんだよ」
渉はそう言うと淡々と答えた。
「最初、一が名前を読んだからそこにいるものだと思って攻撃を仕掛けて見たんだけど。どうやらあれは武器だけを置いただけで、本人はどこかにいるみたいだった」
「つまり、あれは罠だったわけで、私は隠れていた鴉野さんに撃たれたわけね」
二人の会話を聞きながら、俺はニヤリと口元を緩ませた。
凛と渉が察したように、俺たちの作戦は先に敵を分散させること。それから一対一になった所で鴉野が遠距離から狙う、そんな作戦だったんだが。
「うまくいかないもんだな」
流石というか、味方が敵になるほど厄介な物はないのだと改めて思い知らされた。
そんな風に考えていたそのとき、凛と渉の二人は顔を見合う事はないまま一斉に動き出した。
渉は真っ直ぐに走り出して俺に接近する。その動きに、合わせて俺は銃口を向けたその時だった。
渉は先ほどの俺のように地面を大きく蹴って飛び上がった、と同時にその奥に構えていた凛が俺に引き金を引いた。
俺は頭上を通る渉を気にしながらも、その銃弾を避けるために姿勢を低くした、とその間に俺の上を通り抜けて後ろを取られる。
瞬間、俺は挟まれて絶体絶命の状況に陥るが、そんな状況でも俺は勝負の勝機を見出していた。
楠野との勝負の日、俺たち4人は情報にあった通りゲームセンターへと来ると俺は小さく息を吐き出すとメンバーを見回して言葉を吐き出した。
「準備はいいな」
一同は言葉を出さずに頷いた。
俺もそれを見て頷くと一歩を踏み出して店内へと歩み寄ると自動ドアが開き生暖かい風が体に感じながら俺たちは施設内の奥へと進んで行き『GSO』が置かれている区画へとやって来るとそこには数人の人影が有った。
その中から一人が俺たちの方を見ると驚きの表情を浮かべ言葉を漏らす。
「どうして『Re:rights』が...」
「よう楠野、久しぶりだな」
そう、その人物こそが何を隠そう楠野だった。驚きの表情を浮かべたまま俺たちの元へと近づいてくると渉に向かって軽く会釈をする。
「どうして矢薙先輩たちがここに」
「ああ、そのことは俺から話そう」
俺が話に入り込むとどこか怪訝な表情を浮かべて俺の方を見る。その顔は俺がゴミ出しの時にあった人間だと知っていたからだろう。
「俺たちはお前らが賭博をやっているんじゃないかって聞いてやってきたんだ」
「なるほど...」
楠野は否定をしないで寧ろ肯定するような口調で言った。しかし、後ろめたさを感じているのか視線を逸らして話を続ける。
「それで、僕が関わっていたとしたら警察にでも通報するんですか」
「まぁ、それもいいかもしれないが…俺から一つだけ提案がある」
そこで俺は楠野の後ろに先程ゲームの近くに溜まっていた人間たちが様子を見にやってきた事に気がついた。
そのどの人物も俺たちよりかは年上で明らかに俺たちのことを毛嫌いしているような態度を見せていた。俺は大きくため息をすると、目の前の楠野に言い放った。
「俺たちと勝負をしないか」
「『Re:rights』とですか?」
俺の言葉に驚きの表情を浮かべたのは楠野だけでは無く後ろにいた野次馬たちも顔を見合わせて何か小言で話すのが聞こえる。
しばらくすると楠野は不気味な笑を浮かべたまま口を開いた。
「本気ですか?」
「ああ、もちろん。それともお前らがいつもやってるように何か賭けたほうが良いのか。それなら俺たちが勝ったら警察に通報しないから賭博をやめろ」
「僕たちが勝ったらどうするんです?」
「そのときは『Re:rights』は解散だ」




