Secret only for two
『AFW』が発売される前の臨床実験として猿を仮想空間に入れさせわざと機械を暴走させた所、その実験の猿の意識は仮想空間上に乗り移ってしまい現実世界に残ったのは身体だけになってしまったという警告を鳴らす新聞記事が発売され物議をかもしたことがあった。
つまりゲームの中で何かあれば現実世界に戻った時に後遺症が残る可能性は0ではない
いや、現実世界に戻れるかどうかも分からないかもしれない危険性が潜んでいる。
その事を渉が面白そうに話すのを若葉も聞いていたから覚えていて心配したのだろう。
「大丈夫だって、俺たちは『Re:rights』正義を取り戻すんだ。そんな奴らに負けるわけねぇだろ俺たちの強さを信じろって」
「うん…それもそうだね。私が心配しててもダメだよね」
そう言うと若葉はやる気を出すように両手を固く握り締めてそれを上から下へと小さく振り下ろした。
「それじゃあ、さっそく今日の練習するか」
俺は机に手を着いて席から立ち上がると鴉野の方をチラッと見て合図を送る。それに反応するように鴉野も小さく微笑んだ
「じゃあ、今日は矢薙と凛ちゃん、俺と龍ケ崎でペアを組んで練習するか」
「私が矢薙先輩と一緒にか...珍しいね」
「そりゃあ、練習なんだからいつもと違う事も連しておかないと試合になって通じなくなると困るからね」
「それとも、凛は僕と組むのが嫌なの?」
「いやいや、矢薙先輩そんなこと無いですって早く行きましょうよ」
俺たちは立ち上がりゲームセンターの方へと行くと『AFW』の4つある席にペアが並ぶように座る。こうすれば自然とゲームの中で鴉野と二人で話すができるという手筈だ。
若葉に聞かれるとまた心配をかけてしまいかねないのを考えると誰にも見られないゲームの待機部屋で話すのが最適だろうと鴉野は俺の目を見てそこまで考えたのだろう。
「それじゃあさっそく始めるか」
俺たちはそれぞれの筐体に入るとHMDを被りルール『2VS2』を選択する。
「それで龍ケ崎、なんか話があるんだろう。ってまぁ何となく予想はついてるけどな」
「ああ、若葉が言っていた不正の事だ」
白い空間が広がる待機部屋で俺と鴉野は横に並んで目の前にカウントされる秒数を気にしながら俺は手にしたハンドガンをいじり鴉野はスナイパーライフルのスコープを覗いたりしながら事前の準備も着々と進める。
「もし、不正が本当の事だとすれば何か手を打たないと俺たちの身が危険だ」
「そうだろうな」
先程、俺は若葉に心配するなと言ったが事態は深刻なものだった。
それは何故か、不正と言っても様々なものがある。現状、相手がどんな不正を行ってくるのか分からない状況ではそれを止める手段に確実なものが存在しないことになる。
しかし、そんな最悪の状況にも関わらず鴉野は笑を見せながらスコープを覗き込みいつものような口調で語る。
「敵は二手に分かれて突っ込んでくるだろうから龍ヶ崎が囮になって一人、俺は遠距離から狙いをつけて一人やるのはどうだ」
「お前、何言って」
「何って、これから試合するんだから試合の話に決まってるだろ」
そう言われて俺は目の前で減り続ける秒数に目を向けると気がつかないうちに時間は残り10秒にまで迫っていた。
それを見て、俺は慌てて残りの準備を済ませる。
「龍ヶ崎は心配するな、俺に任せろ」
「任せるって、何かいい考えでもあるのかよ」
「昔の友人にちょっとそういうのが詳しい人間がいてな、ちょっと力を借りようと思う」
「お前がいつも言う友人って本当に信用できるのかよ?」
「俺も昔は少し悪いことをしていたからな。そういうのに詳しい人間がいるからそいつに聞いてみる」
鴉野はスコープから目を離して笑を浮かべたまま俺と視線が合わさる。
「お前、何をしてたんだよ」
「そりゃあ、色々さ青春ともいうかな」
「なんだそりゃ」
俺は少し口元を緩ませて見合うと手にしたハンドガンの感触を感じながら瞼を閉じて深く息を吸い込むと秒数が0になり光に包まれる中で小さく呟いた。
「それじゃあ、任せたぞ」
「ああ、分かってる」
試合は2VS2ということで、使われるステージの大きさは中規模程度でビルのがいくつか立ち並ぶようなところだった。それゆえ自然と相手と出会う確率は高くなる。
案の定、試合開始から一分ほどで俺たちの前に凛の姿が現れ戦闘が開始された。
俺は早速、手にしたハンドガンを構えると引き金を引いた。しかし、それは凛の華麗な身のこなしによって避けられてしまった。
「鴉野!」
しかし、その動きを読んでいた俺はそこから少し離れた建物の屋上から凛を狙い撃とうスナイパーライフルの銃口を向けたその時だった。
その建物の壁を走るようにして勢いよく登ってきた渉は、スコープをのぞき今にも攻撃をしようとしている鴉野のスナイパーライフルを蹴飛ばし発射された銃弾の機動をずらすと、そのまま勢いをつけハンドガンで鴉野のことを狙う。
一見すればその無茶苦茶な行動も、凛と渉のコンビだから出来る技だ。
個々の身体能力を最大限までに活かした、動きとコンビネーションに俺は驚きを隠しながらも仲間の実力を信じて、今は目の前の人間に標準を合わせる。
俺はリロードしたハンドガンを再び凛へと向けると、逃げるように走り出した凛を追いかけ始めた。
建物と建物の間を抜けるように走り出す二人、俺は凛の後ろ姿に銃口を向けながら引き金を引くが、凛はその動きを呼んで銃弾を見事に避けていく




