New enemy
「そういえば一年に楠野とかいう奴がいるだろ、あいつに話を聞いてみたらどうだ?」
「一年の楠野って陸上部の楠野翔太の事か?」
その名前に反応するように渉は顔を上げて俺の顔を見ると驚いたような表情で問いかける。
「陸上部かどうかは知らないが確かそんな名前だったな」
「でもどうしてそんなこと楠野に聞こうなんて思うんだ?俺は剣道部だからあいつの事を少しは知ってるけど、あいつはいたって普通の人間だと思うけど?」
「ああ、それはな一週間前...」
そう言って俺は記憶を蘇らせるように立ち止まると目を閉じて一週間前の事を思い出した。
話は一週間前、俺は帰る前の掃除の時に教室のゴミを捨ててきてほしいと頼まれ少し不貞腐れながらもゴミ袋を握ったまま校舎の外にあるゴミ捨て場へとゴミを捨てに行ったのだが、木に囲まれたゴミ捨て場に着くと先に人がいることに気がついた。
木に隠れていたせいで俺は最初そこに人が居るとも知らずに小さく驚きの声を出した。
と同時にその声に先に来ていた人物はしゃがんだ状態のまま後ろを振り返り驚きの表情を浮かべたまま俺の事を見て何かカードのような物を数枚持ったまま立ち上がった。
「ああ、一年生か」
その人物はジャージを着ており胸元には『楠野』と刺繍されていた、さらに俺は視線を下に向けて履いていた上靴の柄を見るとつい二か月前に入ってきた一年生だということが分かり俺は安心して話しかけた。
「そうですけど」
相手は俺と同じように上靴を見て俺が3年生だと気づき硬い言い回しで言葉を返す。
その態度はどこか不信で何かを隠しているようにも見えたので俺はそれを直接明言することはせず遠まわしに聞き出そうした。
「何か探しもでもしてたのか?」
「いや、なんでも無いんですよ」
「そうか」
しかし、楠野の表情は明らかに罰が悪いと言った感じだったが、見ず知らずの俺がそこまで踏み込むあれもないだろうと俺はそのままゴミを捨て場にゴミを捨て踵を返した時だった。
先程、楠野がいた辺りに一枚のカードが一瞬捨てられているかのように地面の上に放置されていた。
それを拾い上げた俺は背中を向け校舎の中に入ろうとしていた楠野に手渡した。
「その時、楠野説明ではカードは最初からその場にあったものだと言ったんだけどな、どうも様子がおかしいから家に帰ってから調べてみたんだ。そしたらそのカードってのは一昔前に流通していた仮想通貨を入れる物だったわけ、つまり財布のようなものだったってわけだ。まぁ、そのときは何か裏があるなんて思わなかったし、もしかしたら本当に落ちてただけかも知れないと思っていたんだが若葉の話を聞くと関係あるのかもな」
「なるほど、ネットを使って仮想通貨をやりとりをすれば履歴として足跡を残してしまう可能性がある。だからわざと現実のカードとしてやり取りをしていたってわけか」
渉は思い出すように言葉を返すのを見て最初に話を持ちかけた若葉も現実味が増して顎に手を置いたまま大きく頷く
「確かに言われてみれば益々現実性がある話になってきたね」
「まぁ、取り敢えず実態の調査をすべきだろうな、噂が確かなものだという確証がないと警察どころか校内の人間だって動かないだろう」
「でもそんな事どうやってやればいいの?」
いつの間にか俺たち三人は時間も忘れて路上に立ち止まり作戦を考えるの答えを待っていた。
その空気に俺は少し戸惑いながらも俺は二人を見つめて口を開いた
「作戦は簡単だ、渉お前は剣道部として楠野とそれなりの関わりがあるんだよな?」
「うん、部活は違うけど話は何度かしたことがある」
「それじゃあまず渉から適当に理由をつけて楠野と接触して俺たちが探しているのを気づかれないように例の噂について知っているか聞いてくれ」
「オッケー、分かった」
「とりあえず今はそのくらいでいいかな…」
そこまできて気づいた、隣でふくれっ面で俺のことを見る同級生の少女のことを一見すると面白いようにも見えるが実際は起こっているのだろう。
「もう、いつもいつも私のことは置いてきぼりにするんだから」
「若葉、そこまで怒らなくてもいいだろう。お前こういうの苦手なんだから下手に手をだされて失敗してもしょうがないだろ」
「もう、龍ヶ崎くんは口が悪いんだから。そんなんだと試合の相手にも失礼だし少しは人の気持ちを考えて行動しないと」
「ああ悪かったよ。じゃあ若葉は...鴉野と凛に連絡して、現状報告すると共にもしかすると力を借りることになるかも知れないと伝えてくれ」
「うん分かったよ」
満足そうな笑顔を浮かべ再び歩みだす若葉の姿に俺は小さく溜息を着くと共に俺を笑顔で見つめる渉の姿と目が合った。
「なんだよ渉」
「いや、龍ヶ崎はとことん若葉に弱いんだなって思ってさ。なんだか面白いなって」
「何も面白くねぇよ、それより随分話し込んだから俺たちも急がないと遅刻するぞ」
その日の放課後、ゲームセンターには鴉野とその時には2年生になった凛も来て『Re;rights』メンバー全員が机を囲むように座るのを確認すると俺は一つ咳払いをして合図をするとさっそく口を開いた。
「それで早速だが渉、楠野本人とは話したのか?」
「うん、今日のお昼に教室を尋ねて最初は部活の話をしてそれから噂について話を聞いてみて見たんけど本人はそんなの知らないって言ってたな」
「まぁ、知っていたとしても言わないよな」
正直な話、どちらにしても楠野が本当の事を話そうなんてことは無いことは分かっていた。
しかし、それには猶予にも似たもの、俺たちにとって見ればそのおかげで足枷のような物を外すことが出来る。
「こうなったら俺たちから動くしかないな」
俺の宣言に一同は静かに頷いた。それは『Re;rights』としての作戦なんだと自覚する瞬間だった。




