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「凛ちゃんお疲れ様」
筐体の中でHMDを外した俺にまず最初に聞こえたのは若葉がとなりの凛を労っている声だった。筐体の真っ暗な中からいきなり明るいゲームセンターの光に視界がぼやける中で俺は同じように筐体から出てきた凛の顔を覗いた。
その表情は案の定、悔しそうで唇を噛み締めているようだった。
そんな表情を見て俺は口を閉ざして何も言わずにその場から立ち去ろうとした、その時、凛は俺の動きを見て口を開いた。
「龍ケ崎先輩、今日はありがとうございました」
背中越しに聞こえたその声は確かに悔しさも含まれていた、がそれだけではなくいつか見返そうという野心も感じることができた。それに対して俺は小さく口を開いた。
「ああ、俺も楽しかったよ」
それだけ言うと俺は喫茶店へと戻り羽織っていたコートとカバンを背負うとドアの前まで行き背中を向けたまま後ろのゲームセンターにいる若葉と凛の二人を残して静かに店の外へと出た。
試合自体それほど長かったわけでは無かったから店に入った時と陽の傾きもあまり変わっていなかったが肌寒さは依然として強かった。
店に二人して残った若葉と凛は何をして何を話していたのかは何年経った今でも知らない、聞こうとも思わないが多分にその時の話は翌日の出来事と大きく関係していたと俺は思っている。
俺は凛との勝負をした事で昼休みの安泰が望めると教室の窓付近の壁にしゃがみ込んでボーッとしていた時だった。
教室のドアが開いたと思ったと同時に視線をそっちに向けるとそこに現れたのは今しがた考えていた凛だった。
試合が終わった今、どうしてやってくるのか訳も分からず俺はしばらくその様子を見ていると案の定、歩みを進めた先は俺の目の前だった。
「凛、お前どうしてここに…」
「私を『Re;rights』にいれてください」
そう言って頭を下げる少女の姿にクラスのみんなは俺が何かしたのではないかと怪しい視線を送ってくるのに気が付き俺は反射的に立ち上がり周りを一瞥して若葉を無言のまま視線を送り助けを求めた。
するとそれに反応するように若葉は笑顔のまま俺の元へと近づいて来た。
「お前、あの後に何をいったんだ」
「別に私たちは凛ちゃんと世間話をして帰ったよ」
「じゃあ、どうしてこうなるんだ」
俺は頭を下げたままの姿で目の前で立ち尽くす凛に声をかける。
「なぁ、なんで急に入ろうなんて言い出したんだ?」
「昨日、龍ケ崎先輩と戦ってみて私も『Re;rights』に入ってもっと強いクランと戦いと思ったんです」
言いながらも依然として頭を下げ続ける凛、それを援護するように若葉は俺に近づいて笑顔を崩さないで口を開く
「龍ケ崎くん、今度の大会は4人じゃないと参加できないんでしょ?だったら凛ちゃんをメンバーとして加えればちょうど良いんじゃない?」
「お前もしかして、そのことを話したんじゃ」
「別に…そんなことないけど」
わざとらしく視線逸らしたその様子から昨日、俺が帰ったあとで『Re:rights』の問題について凛に話したことは容易に分かった。
しかし、だからといって俺は若葉と凛の事を責める気は無かった。
実際問題として約二週間後に迫っていた関東大会に参加するにはメンバーが4人必要、俺たちには時間がなく若葉はその事を本当に心配しているのが分かっていたからだ。
「まぁ、実際に人数が足りないのは事実だしな…」
俺はもう一度目の前の凛の事を見つめた。
確かに前回の戦いぶりは未熟でまだまだ、だが、あの動き、それはこれまでにない可能性を秘めていたのは事実
「凛、お前が今入ってるクランはどうするんだよ」
「出来れば『Re:rights』と両立してやっていきたいと思ってます。もしそれが駄目なら今のクランを抜けようと思ってます」
「ああ、そうだな。そんな俺たちのせいで抜けられたって思われても嫌だしな、両立するのが正解だろうな」
「じゃあ、私を『Re:rights』入れてくれるんですか?」
俺と顔を向けた凛の顔は赤く興奮した表情で俺に近づく、それを俺は体を斜めにして熱い視線を避けるように口を開いた
「あ、ああ…でもまだ他の二人が良いとは言って無いからな…」
「ありがとうございます!」
俺の言葉を最後まで聞かずに頭を下げ横に居た若葉と一緒になって喜びを分かち合う凛
こんな風に凛はどこか抜けているようにも見えたが試合になるとその表情が変わる。
その後、渉と鴉野も含めた話し合いをゲームセンターで行い、その類まれな身体能力を二人にも評価され晴れて正式に『Re:rights』のメンバーとして迎えられた凛はその後に開催された関東大会にメンバーとし初出場、予想以上の活躍を見せ3位という結果を出せた。
とまぁ、凛が『Re:rights』に入るきっかけというのはこんな感じなのだが。
その後だが、俺たちは関東大会3位に入ったことで名を上げた事で新進気鋭のクランとして名が知られていった。




