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『Re:rights』  作者: 藤崎透
Re:memory
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『龍ケ崎』VS『凛』

若葉が言っていた意味が、始まりだしたのはまさに次の日の昼に俺が教室の窓辺で空を見上げている時だった

いきなり俺の名前を呼ばれたと思い上に向けていた顔を戻すとそこには凛の姿があった

「龍ケ崎先輩、大会は明日だそうですね。頑張ってください」

「ああ、わざわざありがとうな…」

「それで戦いのお願いをしに来たんですけど、大会が終わった後の日はいつが暇なんですか?」

「えっと、それはまだ分からないんだ」

「そうですか、それならまた明日にでも来ますのでその時までにお願いしますね」

「ああ、分かった…」

最初はそんなこんなの会話を繰り広げて適当にあしらっていれば、そのうちあっちから諦めるだろうと思っていたのだが、それはどうにも俺の誤算だった。

明らかに俺は凛の執念深さを甘く見くびっていた。

次の日もその次の日も凛は昼休みに姿を表すと毎度のこと俺に歩み寄って来て対戦についての日時を聞き、それを俺が受け流すとすかさず試合の事を話す。それも終わると世間話が始まる。


そんなこんなの話を昼休みたっぷり聞かされるのをその時で一週間

「凛…」

そう呼ぶと目の前の少女は微笑みを浮かべたまま教室の机に伏せて昨日の大会の疲れが取れない体を休ませていた俺に近づいて来る。

「龍ケ崎先輩、この前の試合見ましたよ。見事勝ったらしいですね」

「なんだ、嫌味を言いにわざわざ寝ていた俺を起こしに来たのか?」

俺はチラリと時計の針を見る。もう少しで昼休みも終わり告げるチャイムが鳴るかという時間、今日はいつもより遅めに来たことが少しだけの救いだった。

しかし、凛は俺のことなど関係無いように机の倒れこむ俺に対しても話を続ける。

「むっ、私はそんな嫌味をいいに来たんじゃないですよ」

「それだったらなんなんだよ?」

「別に、ただ私は勝ったことをお祝いしに来ただけです」

「なんだそれ」

不服を示しても依然として懲りることは無い。

それ以上に、俺が話をしているその間にも横を通り過ぎていく同級生の視線を釘付けに俺は居た堪れなくなりとっとと話を終わらせようと憎まれ言葉を出そうと口を開こうとしたその時だった。

「凛ちゃんも懲りないね」

机に伏せた俺から見て後ろからの声に驚き振り返るとそこには同級生である若葉の姿があった。

「凛ちゃんは龍ヶ崎くんに毎日かまって、モノ好きだね」

「いや、別に私はそんなつもりはこれっぽっちも無いですけどね」

「そりゃあね、こんな男選ぶくらいならもっと他にもいるしね」

若葉がそう言うと目の前の二人はとても愉快そうに微笑みあった。

そういえば俺がいない時にも何か話しているのを見かけたことがあったがそんな事を話しているのかとどこか俺の幻想は崩れた。

「おい、本人を目の前でなんてこと言ってんだ」

「ごめんって」

若葉はエクボが深くなる笑顔のまま両手を合わせて軽く謝る素振りをすると言葉を続ける。

「それでさ、私に一ついい考えがあるんだけど」

「いい考え?」

「そう、凛ちゃんが毎日来るのは龍ヶ崎くんと勝負したいからなんでしょ?」

若葉は視線を凛の方へと向けてアイコンタクトを送った。向けられた本人はその視線を感じて無言のまま小さく頷いた。

それを見るに俺は全てを悟った、俺が知らないところでこの二人は俺に策を仕掛けているんだなと

「それだったら戦えばいいんじゃないの?」

「いや、それは」

「だって龍ヶ崎くんどうせ今日暇でしょ?」

「お前、図ってるだろ」

龍ケ崎の問い掛けに若葉は何も言わずにただ笑うだけだった。

「あのな、俺は」

龍ヶ崎が否定的な言葉を言おうとした時、学生の声に混じって昼休みの終了を告げる鐘の音が鳴った。それと同時に凛はあからさまに狙ったように大きな声で呟いた。

「ああ、そうだ次は体育だから早く行かないとだ」

「おいちょっとまて、俺の話を...」

「それじゃあ龍ケ崎先輩と若葉先輩、今日の夕方に、場所は追って連絡しますから」

龍ヶ崎が制止しようとした時には昨日の痴話で本人も自負していた自慢の脚力で教室を飛び出すと廊下を駆け出しており、一階下の1年次へと続く階段を下っていく後ろ姿が教室の開いたドアから見えるだけだった。

「あいつ、人の話を聞かないで行きやがった」

「だけど凛ちゃんだって一回試合をすれば諦めてくれるんじゃないかな?」」

「だからってなあ、俺に内緒で勝手に試合の段取り付けるのは」

「それは本当に悪かったと思ってるって、本当に」

若葉は笑顔を崩さない、だから多くの人間に好かれるのだろう。

だけど、まぁキリを付けなければ俺の昼休みの安静は望めないだろう。

「わかったから、そんなことより俺たちも次は移動授業だろ早く行こうぜ」

「あぁ、そうだったね」

俺は深い溜息を吐き出すと共に重い体を両手で支えて立ち上がった。

そして授業が終わると同時に凛からのメールで今日の放課後にゲームセンターにという連絡が来た。



俺と若葉の二人がゲームセンターへとやってくると待ちくたびれた様子で喫茶店のソファに腰掛けて紅茶をすすっていた。

「やっときましたか、待ちくたびれましたよ」

「これでも授業が終わってからすぐ来たんだがな」

普通に学校で待ち合わせしてゲームセンターへと行けば良かったと思ったのだが、しかし、この時の凛は俺との試合でそんなことも考えられない様になっていたんだろうと思う。

「それじゃあ早速戦いますか先輩」

「ああ、分かったよ。そのために来たんだしな」

俺は凛の座っていた席にコートやら学校のバックやらの荷物一式をおくと深呼吸をしてゲームセンターへと歩み寄り『AFW』の筐体へと入って行った。

瞼を開けると暗闇から一転して真っ白になると画面にはいくつかの種類の異なるルールがアイコンとして出てくる。俺はその名から『1VS1』というアイコンを選択し凛が入ってくるのを確認すると深呼吸をして待機部屋の中で手を動かし銃を握り動きを確認した。

『AFW』が発売されてからこの年で約2年半、試合開始する前の待機部屋での一連の動きの確認もこの時には既に慣れていた。

その中でも一番大事なのが瞼を閉じ深呼吸をして意識を集中させることだった。

集中しているかどうか、それは試合の駆け引きで勝敗を大きく分ける。と鴉野は当時の俺たちによく言っていたが、強い相手と戦うとその言葉の重みが今となってはよく分かる。

「3、2、1…」

もうすぐで試合開始を伝えるアナウンスが耳元で聞きながら、俺は静かに閉じていた瞼を開くと光に包まれた。


『試合開始 龍ケ崎VS凛』


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