commanding girl
俺が立ち上がりそのまま移動すると若葉もそれに続くように俺の後に続いてきた
目的の場所はそう遠くはない、なんせ喫茶店とは繋がっているゲームセンターだったからだ。
「もしかして試すって私が実際にどこまで動けるかって事なの?」
「大体そんな感じかな。まぁ、いいから取り敢えずこれを被れって」
「ええ…うん分かったよ」
どこか腑に落ちない表情を浮かべながらも筐体の中に入って椅子に座ると『AFW』のHMDを被った。そんな若葉を見ながら筐体のドアを閉めると続くように隣の筐体に入って同じようにHDM被った。
そしてゲーム画面が浮かび上がって来て俺は演習を選択すると一面が白い空間に囲まれたステージで若葉と向かい合うように立った。
「若葉、ゲーム酔いとかは大丈夫か?」
初めて仮想空間を使ったゲームをやると、いわゆるゲーム酔いと呼ばれるものになる者は少なくない。簡単に説明すれば目がいい人間がいきなり度の強いメガネをかけるとなんだか気持ち悪くなる、そんな感じの体調の変化が起こるため慣れていない人間だとかなり気持ち悪くなったりする。
実際、俺も最初の頃はそこまで酷くはなかったが酔って最悪だったのを覚えている。
「うん、大丈夫だよ」
「そうか、なら早速はじめるとするか」
俺は小さく息を吸い込み意識を集中させた。
「若葉、目の前に表示されているアイコンを押して銃を持ってくれ」
「うん、分かった」
そう言って若葉は腕を少し伸ばした状態でボタンを押すとそれが様々なアイコンが展開するとその一つ、銃のアイコンを選ぶと若葉の手元に収まるようにハンドガンが握られた。
「よし、持ったな、じゃあ俺を撃ってみろ」
そう言われて若葉は一瞬だけ驚きの表情を見せたがすぐに深呼吸をすると目を閉じて意識を集中させた。
これで試すのは試合で若葉が本当に人を倒せるのか、実際に的を撃つのと人を撃つのでは明確な差がある。さらに言えば実際に怪我を負う負わないの違いはあるにしろ、現実世界でも仮想空間でも人に向けて引き金を引くという行為自体は何も代わりはしない。
だからこそ、この初歩の試験に近く上手い下手は関係ない。いわば適性検査といったところだ。
若葉は俺に銃口を向けると引き金に指を置いた。その格好は誰が見ても慣れていないと分かるもの、しかも目を閉じてビクビクしている。
それに対して俺は厳しい口調で若葉に言い放つ
「格好は自分の好きなのでいいが、目を閉じて銃を撃つなよ。それじゃあ当たるものも当たらなくなるからな」
「うん、わかった」
目を開ければ今から倒す相手のことが嫌でも目に入る。そこで、人は葛藤する。撃つべきか撃たざるべきかを
銃を構えた若葉と俺は見つあったまま1分以上の時間が過ぎた。
しかし、依然として若葉は引き金を引くことを躊躇していた。
「そんなんじゃ試合に出られないな」
その言葉に若葉の表情は引き締まり、深呼吸を一回すると引き金に置いた指を再び置き直した。
そしてその瞬間だった、小さな悲鳴のような声と交じるように辺りには銃声が鳴り響く。
俺は若葉の手の動きと銃口の向きを見てその銃弾を避けるとそのまま銃を構えて固まって動かない若葉の元へと歩み寄り握られた銃を奪うように手に取った。
「お前本当は臆病なのに無理にゲームの世界に入ることはないんだ」
「でも、私も『Re:rights』のメンバーだし一人だけ何もしないのは…」
「なんだよ、そんなこと気にしてたのか」
「だって私はいつもみんなが頑張っているのに見ているだけで、だから…」
今にも泣き出しそうな声を出して俺のことを見つめた。その表情はどこか切ないものにも見える。
「お前は何もしていないわけじゃない。俺はお前に何度も励まされてきたからな」
「でも…私は」
「いいんだよ、お前は俺たちが勝つことを願っていてくれ。それだけで俺たちは実力を発揮出来るんだからな」
そう言って俺は大きく息を吐くと練習試合を終了させた。
ゲームの世界から出てきた俺は一息ついてHMDを外すと筐体から出て隣で同じように筐体の中から出てきた若葉と目が合った。
俺はどこか恥ずかしさを感じてつい目を逸らしてしまったが、そこで若葉は面白そうに俺の方へと近づいて来た
「龍ヶ崎くん、ありがとう」
「ああ、気にするな」
その言葉に若葉はエクボに笑を浮かべて笑うと何かを思い出したかのように不意に呟いた。
「そういえば、龍ケ崎くんと戦いたいって人が一人いるんだけど」
「そんなのこれまでに何回もあったけどな」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに明日にでも会ってみてよ」
満面の笑を浮かべながら俺に訴えかけるような若葉に俺は視線を逸らしたままで小さく頷いた。
「そこまで言うなら、分かった明日な」
翌日の昼休みに俺は約束通り人に合うために教室の前で待っていた。
そして昼休みも終わりに近づいて来た時になって階段を二人で登ってくると俺のもとへと歩いてきて目の前に二人並んで立つ
「この子が碓氷凛ちゃん、今は『SS』っていうクランに入ってて結構強いらしいよ」
俺と顔を見合わせたその人物はどこか緊張している表情をショートカットの髪から覗かせる。肌が白くきちんと着こなした制服姿で上履きの色から俺らの1つ下の学年である一年生ということが分かった。
「初めまして碓氷です。若葉先輩と同じ料理部に入っています」
「ああ、なるほどそういう繋がりか」
と言いつつも、初めの印象としてはこれまでと同様あまりピンとくる人物では無かった。
もっと言えばその時に若葉が料理部に入っていたことを忘れていた事に気づかされたぐらいに俺はその手の話に懲り懲りしていた。
それだけじゃない、実力は分からないが他のクランと関わりがある以上簡単にやめるわけにもいかずに結局のところ入る事はないだろうと思っていたのだが、それは俺の甘い思い付きだった事を思い知らされる。
「この前の南関東大会で準優勝したんですよね。私その時に会場にいて見てました。それに最近だと東京大会でも優勝してましたよね」
「よく知ってるんだな」
「いえいえ、学校で知らない人はいないんじゃないですかね」
「何で、そんなことを」
そう言われて周りを見ると目の前を通りかかる人が俺らのことを話しているように見えて身震いを感じる。
当時は学校の人間のことなんて思いもしなかったが考えて見れば過去の試合がどこでも見られる時代だ、その時に優勝した東京大会はそれなりの規模をほこっていたから、学校の人間が知っていてもおかしなことは無い
「それでね…」
しばし無言になった俺を見て若葉は話を進める。
「凛ちゃんは龍ヶ崎くんと戦いたいらしいの」
「はぁ、俺と戦いたいね…でも、どうして俺なんだ?」
「あれ?『Re;rights』のリーダーって龍ケ崎先輩なんじゃないんですか?」
その様子は元気がいい小さな女の子が大人にことある事を質問するといった感じで自分の発言した事を何も疑っていないといった感じだった。
「いや、俺たちにリーダーはいないんだ」
「そう言えば、私たちが作った時にリーダーを決めなかったっていうか、元々そんな話無かったね」
「そうなんですか」
人から言われて初めて身近なことに気づくこともあるのを俺は改めて思い知らされた。
「まぁ、話は逸れたけど龍ヶ崎くんは対戦してくれるの?」
「いやぁ…悪いけど今度大会があるからその練習が忙しくて今日は無理だ」
「そうなんですか、それじゃあまた明日来ますね」
それだけ言うと凛は昼休みを終える鐘がなり小さくお辞儀をすると階段を降りていく、その茶髪のショートカットが揺れる後ろ姿を見てそのまま俺と若葉は顔を見合わせる。
すると若葉は笑を崩さないままで口を開いた・
「龍ヶ崎くん嘘ついたでしょ」
「はぁ…別に来週の土曜日に大会があるのはお前も知ってるだろ?」
「確かに知ってるけど、その大会って地元で開催される小さな大会でしょ?そのくらいの大会ならいつもは練習しないくせに練習とか言っちゃってそんなに凛ちゃんと戦うのが嫌だったの?」
「これまでにも何人もの相手が俺のもとへとやってきて、実際に戦いと言ってきた。だけど俺だっていちいちそんな事に付き合ってられないんだよ」
実際、若葉から凛を紹介されるまでの間、学校の人間から最低でも二ケタの人間から勝負を挑まれているのに加えて学校以外の外部の人間からも5.6人は声をかけられていた。
「まぁ…龍ヶ崎くんも色々あるのは分かるけど、だけどこれは貸しだからね」
「貸しって…なんのだよ」
「そのうち分かるよ。それより私たちもそろそろ行かなきゃ次の授業に遅れちゃうよ」
どこか含んだ言い方で俺の袖を掴んで俺のことを教室の中へと引き込んでいった。
若葉の言葉の意味、それを理解するのは時間がかからなかった、と同時に俺は後悔する事になった。




