Sudden proposal
試合が終わり俺はHMDを外すと先に試合から出されていた渉が俺のすぐ後ろで立っていた。
「惜しかったな一」
その言葉に俺はなんとも言えなかった。確かに自分たちより経験も実力もあるクランを最後の1人まで追い詰めたというのはほかの人間からすればそれだけで良いのかもしれない。
だけど負けは負けだ、最後のあの時に俺は鴉野の雰囲気に飲まれて自信を失い本来の動きを発揮することが出来なかったのが悔しかった。
「いやぁ、まさかあそこまで追い詰められるとは思わなかったよ」
鴉野も少し遅れてヘルメットを外すと席に座りながら隣の席の俺に話をかける
その笑顔は試合の時とは違うのを俺は感じていた。
試合中の笑も確かに楽しんで自然に出た笑み。だがその奥にはもっと根底に潜む闇のようなものがあるように感じられたのだ。
俺はそんな事を考えながらも、だけど今回の試合でもっと重要な事があることに気が付く
「鴉野さん、今回の試合の聞いていいですか?」
「うん、なんだい?」
「さっき、渉がやられた時にあなたがマップ上に映らなかったのはどうしてなんですか?」
何も隠さずにストレートに聞いた俺に鴉野は少しも動じず笑を崩さないで質問に静かにこう答えた。
「龍ヶ崎くん、『AFW』のマップの表示範囲を知っているかい?あれはたかが四方4キロといったところしか表示されない。俺がいた場所は君たちが居た場所から約4.2キロ離れていたからマップに表示されないのは当然さ」
さも在り来たりのように鴉野だが、俺のみならず渉でさえもその言葉に驚いた。
それもそのはずだ、普通に上手いと呼ばれるスナイパーは言ってもせいぜい狙えるのは2キロが限界ギリギリのはず。その倍以上の値から狙って相手の体に当たるのは運だけじゃない、確かな実力がなければ出来ない芸当だ。
「それじゃあ、あの最後の攻撃はどうやってやったんですか?」
俺がもう一つ聞きたかったのは最後、銃声が聞こえてから俺が鴉野の事をハンドガンで狙うまでの間、時間にすれば約2秒も無かったはず。
スナイパーライフルのそれもボルトアクション方式の銃で次弾を撃てるまでの時間は約3秒つまり、2秒も無かったはずなのに最後にスナイパーライフルで俺のことを射撃できるのはおかしいことなのだ。
俺の問いに鴉野は依然として笑を浮かべたまま冷静に答えた。
「ああ、あれは君が飛んだタイミングで俺が腰につけていたハンドガンで発砲したんだ。そしたら君は俺がスナイパーライフルで発泡したと思うだろう?そうして油断しているところを狙うんだ、簡単なことだろう」
その言葉に俺は何も言えなかった。自分達が流れに飲み込もうとしていた相手にいつの間にか流れに飲み込まれていたなんて、自分が負けた理由がわかるからこそ俺は余計に悔しさが出てくるが、しかし、そんな俺達は鴉野に最後に聞かなければいけないことがあった。
「俺たちが負けた理由はなんですかね?」
その問い掛けにどこか困ったような表情を浮かべた鴉野だが、一つ咳払いをすると目の前にいる俺たちに言った。
「確かに君たちは俺たちをここまで追い詰めることが出来た。だけど君たちは勝利にこだわりすぎている、別にそれ自体は悪いことじゃない。だけど勝利にこだわりすぎて周りが見れなくなってる。それじゃあ、せっかく才能ある今の君たちはいつまで経っても強くはなれないだろうね」
その当時の俺達が未熟だった事を鴉野は見抜き、最後の攻撃でその事を突いてきた。
相手のことを知ることで試合を有利に進めることが出来るのはもちろんだが、それ以上に俺は自分の事を高く見ていたような気がしたのだ。
「今日はありがとうございました」
傷心していた俺から出てきた言葉はそれくらいのものしかなかった。
そんな俺らを横目に鴉野は時計を見てどこかに行くからと慌てて荷物を持つと店のドアに手をかけたがそこで何か言い忘れていのを思い出したかのようにドアノブに手をかけたまま俺らの方へと笑みを浮かべながら振り返った。
「そうだ、君たちとはまた会えることになると思うよ」
その言葉に俺は反射的に
「それってどういう意味ですか?」
と聞き返したのだが、鴉野は俺の言葉に無言で笑を浮かべたまま慌てた様子で手を振りながら店の外へと出て行ってしまった。
こうして俺たち『Re:rights』は問題を解消するどころか問題を抱くことになってしまった。
しかし、ここで話はまだ終わらない
というのも、話は『MOST』戦の翌日のことである。俺と若葉の二人は学校終わりの放課後にいつものようにゲームセンター道のりである。
「龍ヶ崎くん昨日からため息つきすぎ、少しは元気出して」
若葉はそんなこんなを朝からずっと言って励まし続け放課後になっても横を歩く俺に目を輝かせながら言う。その生まれながらの薄い茶色の髪が風に揺れて、髪をおさえているのが少し印象的だった。
「俺たちは負けた、それは事実だ。俺があの時にもっと動いていれば状況は変わっていただろうし…思えば思うほど悔しくなる」
「もう、龍ケ崎くんはもう少し自分に自信を持ってもいいと思うよ」
「自信ねぇ…」
そう言いながら俺はゲームセンターのドアを開ける。と、そこには思いもしない人間の声が聞こえた。
「やぁ、元気そうじゃないか」
その言葉に俺と若葉の二人は声がした方へ振り返る。
するとそこには、昨日の今日に会ったばかりだというのに俺たちのことを手招きして席に呼び寄せる鴉野の姿があった。
「なんで、ここに」
俺と若葉は驚きの声を上げると共に鴉野が手招きするので二人並んで向かい合うようにソファへと座ったのだがつい昨日、対戦して負け越した相手と机をはさんで目の前に座っていると何か居心地が悪かった。
「いやぁ…昨日あったばかりなのに突然押し寄せるような真似して申し訳ないね」
鴉野本人も俺の気持ちを察してか、どこか申し訳なさそうに話を切り出さないのに変わって俺は静かに口を開く。
「それで、俺たちに何か用があって来たんですよね?」
「ああ、そうなんだけど…」
鴉野はどこか言いづらそうすると、一回咳払いをして息を吸うと切り出した。
「俺を『Re:rights』に入れてくれないか」




