『Re:rights』VS『MOST』
それからしばらく、最初の襲撃が成功してから20分ほどの時間が経った頃だった。
先ほどの場所とは変わった場所に移った俺らは草むらの中に隠れ敵が来るのをひたすらに待っていたその時だった。
息をするのさえ緊張したこの状況の中では意識していたその時だった。俺のマップ上に突然として一つの赤いマーカーが点灯した。
それが意味するものを察するに時間をそこまで要することは無かった。
俺の後方で光るマーカーを避けようと草むらの中を横に回転しようとしたが、草むらというのは言わば木々が絡まっている場所だ、隠れる場所としてはいいが避けることは考えていなかった。
そこで俺は咄嗟に手に握っていたハンドガンを寝転がる体をそのままにして上半身だけを起き上がらせて後ろを向き、いるであろう敵に銃弾を数発放った。
「クソッ」
しかし、その時点で俺は悟ることが出来た。数発撃っても反撃、いや相手は一切動じないことなんておかしい。つまりこれは先程俺たちがやったように銃だけを置いた罠を模倣したものなのだと。
それらから導き出せる相手の行動は的外れな場所を撃っている俺を正反対の場所から狙い撃つこと
まさに墓穴を掘った形の自分に相手は面白がっているに違いないとそう思った。
なら、それで良い。俺はそれを狙っていたのだから。
マップ上を見てみると赤いマーカーが先ほどとは反対側の目の前に光る。
その瞬間に俺の目の前に凝らすと長距離武器の長い銃身と俺に向けられている銃口が見えたのを確認した。
「渉!」
俺の叫んだのに反応するようにどこからともなく現れた渉は素早い動き、正面にいる俺のことを狙うスナイパーに向かって機敏な動きで草むらを飛び越えてその場所へと一瞬で移動するとそのまま引き金を引く。
それに同時に声にもならない声が響きマップ上からはマーカーの表示が消えた。
俺はつい安堵のため息が漏れたが、同時に俺は目の前の出来事に衝撃を受けた。
それもそのはず目の前で今の今まで敵を倒していた渉が体を打ち抜かれ光となって消えたのだから。
その瞬間、俺は動揺を抑えながらマップを見てどこから撃たれたものなのかを確認をした
がしかし、その行動はさらに俺に衝撃を与えた。
「どういうことだ!?」
俺がそんな風に叫んだ理由、それはマップを確認してもどこから撃ったのかしたのか分からいという有り得ない事が起きたからだ。
『AFW』において銃を相手に向ければ地図上にその姿が表示される。つまり必然的に敵味方関係なく位置がバレることになるはずなのだ。
しかし、この時のマップには渉がやられ周りには人を表すマーカーはなく、地形しか表示していなかった。
謎が呼ぶさらに謎を深めるのを俺は必死になって考えた。
出来る事は相手の場所を大まかでもいいから探ることだと悟った俺は今さっきやられた渉の姿を頭の中で思い出す。
草むらに隠れていた相手を渉は倒した。
その時に倒れた相手はまだやられていないメンバーを見て鴉野であるのは分かった。銃弾は俺から見て右上から左へと体を貫通するようなもので、つまりはまだ生きている鴉野の攻撃は右上から、鴉野の位置はマップ右の高い場所にいる事は分かっている。
俺は全体マップを目の前に広げ右の方に目を向け高い場所を探し出す。
「見つけた」
マップ右端に隆起したように森林の中から突如として崖があるのを見つけると同時に俺はすぐに動き出した。
立ち上がると同時に一歩を大きく踏み出すと森林の中を掻き分けるように勢いよく駆け出したと同時に手にしたハンドガンを傾けてリロードし鴉野との1対1の戦いに備える。
しかし、俺が走って向かう最中でもタイマン勝負に持ち越された鴉野の攻撃は手を緩めることはなかった。
走る俺の体を銃弾が何発も掠ってきた、止まってしまえば確実に当たっていたであろう攻撃に俺はそれまで以上の全速力で森の中を走って崖の下までやってくると勢いそのまま崖を登っていった。
実際の俺では考えられない脚力も全てMMOゲームの中だからこそ出来るものだ。
俺は崖の中腹まで登ってくると鴉野の姿を確認するとそのまま手にしたハンドガンの引き金を引き牽制しながら距離を詰めるように再び崖を登っていき、ついに崖の麓へとたどり着くと俺は鴉野の目の前に立った。
その姿に鴉野はスナイパーライフルのスコープを試合用のメガネをかけた右目で覗きながら俺の姿を見て二ヤッと笑った。それを見て俺も口元を緩ませて同じように笑うと俺と鴉野の試合は始まった。
「あの距離から、しかも森の中にいる敵を狙い撃つなんて無茶苦茶だろう」
「なに、そっちこそ俺以外のメンバーをあんなにあっさり倒して。本当に中学生かよ」
スナイパーライフルのスコープ越しに俺と見つめ合う鴉野の姿、互いに相容れぬ緊張感を放ちながら佇む。
そんな中で、まず動いたのは俺の方だった。というのも俺がいた場所をマップの端であるその崖から狙ったということはかなり倍率が高いスコープを使っていたことになる。
確かにスナイパーライフルは威力が高く遠くからでも正確に相手のことを狙うことは出来るのだが逆に言えば近距離の相手に対してはかなり不利になるのだ。
それに加えて鴉野の使っていたスナイパーライフルはボルトアクション方式で一発の威力は高い代わりに次の射撃には時間がかかる。
つまり俺の方から動き最初の一発を避けることが出来れば勝機はかなり見えてくる。
俺はジグザグに走りながら鴉野のとの距離を詰めた。
その行動にさすがの鴉野でも躊躇ったように中々撃たずにそのうち俺との距離をかなり縮んだ所で鴉野が引き金にかける指が微かに動くのを見逃さなかった。
俺はその瞬間に地面を強く蹴り上空へと飛び上がる。
それに送れるように鳴り響いた鴉野のスナイパーライフルの銃声に俺は勝利を確信した。
「もらった」
俺は飛び上がった空中で一回転して頭を地面へと向けるとそのまま手にしたハンドガンを鴉野の頭に向けると引き金に指をかけた。
「甘いな」
その言葉は他の誰でもない鴉野からだった。
先程まで地面に伏せていたはずがいつの間にか立っていてスコープに目を通すこともなく俺にスナイパーライフルの銃口を向けて来ていた。
その態度はまるで俺の行動を見透かしていたかのように俺が銃口を向けても動じることはなく、それ以前にまるで自分が優位に立っているかのようなそんな雰囲気を漂わせていた。
今思ってもそれは当時の俺たちには無い、これまで数々の戦いをくぐり抜けてきたからこそ自然に自分の勝利を確信出来る。
これまで感じることがなかった雰囲気に俺の体は固まってしまう。
それを見た鴉野は二ヤッと笑い俺のことを見るとそのままスナイパーライフルでゼロ距離から俺の体に目がけて悠々と引き金を引いた。
轟く銃声が耳元で鳴り響いたと同時に俺の体がどこか遠くへと消えていくのが感じられた。
『GAME SET』 「勝者 『MOST』」




