『Re:rights』VS『LOST』
「危なかった…」
渉は小さく呟いた。一回目の攻撃に比べて二回目の攻撃は俺たちをさらに追い詰めてきたのは目を見るより明らか。
それだけじゃない、前よりも速度が上がっているように感じたのは気のせいじゃない
つまりこの次の攻撃を仕掛けてくるときはもっと速くもっと強いだろう。そうなれば俺たちの勝利はかなり絶望的だ。
「どうする…」
攻撃をさせる隙を見せることすらさせてはくれない一枚上手の相手に勝つ方法
何もしなくても勝てる。そんなものが存在していれば簡単なことは無いが…
「いや、待てよ」
俺はふと思いついた作戦を確認するために後ろを振り向き足元を確認する。するとそこには俺が考えた通りのものが近くにあった。
「これだ」
俺は思わず口元を緩ませて言葉が漏れてしまう。
「何か思いついたか?」
渉は興味深そうに俺の顔を見ると試合に対する焦りからなのか急かすように口調で俺に言葉を投げかけるのに対して俺は冷静に言葉を返した。
「ああ、だけど渉は何もしなくても大丈夫だ俺一人で何とかする」
「それどういう意味だ、あいつらに一人で勝てるのか?」
疑問の色を隠せない渉に俺の考えてることを伝えようとしたその直後、相手が再び攻撃を仕掛けようと走ってくる。
その姿を見ると俺と渉は直ぐに敵の方へと向き直り刀を構えた。
相手は俺の予想通りこれまでよりも素早く、俺の目の前まで一瞬でやってくるとその勢いのまま俺の体めがけ刀を突き刺すように握った手を伸ばした。
俺はその攻撃を見切るとすぐさま攻撃を受け流すように構えた刀の刃先を下へ向けた状態で体を捻り相手の突進を横に受け流すように弾き返す。
その瞬間、俺の刀と相手の刀とが擦れる甲高い金属音と共に攻撃を受け流された相手は頭を少し動かすと俺のことを睨み二ヤっと笑い、まさに行動を読んでいたかのように土煙を立てながら足を止めると刀に力を入れて重なる刀を振り払うように腕を大きく回した。
上へと大きく振り払われた刀に俺の刀も同じように上空に向かう軌道を描くと、同時に隙を作った俺の体を狙うように振り上げた刀をそのまま火花を散らしながら刃先を滑らせる。
それを見た俺は緊急回避的に柄に渾身の力を入れると滑り込んでくる相手の刀ごと地面へと思いっきり叩きつけた。
「痛ッ」
無理に体を変えた上に力でねじ伏せるあどのし掛る大きな負担に俺の体は小さな悲鳴を上げたが、そのおかげで突然の行動に警戒した相手は俺との距離を離れるように後ろへ数歩下がり先程まで俺が背を向けていた場所に相手がいて俺と向かいあって牽制しあう形になった。
「もう少し」
小さく呟く俺を不思議そうに見る相手の姿に確信したように刀を力強く握り大きく息を吸うと間髪入れずに走り出す。
今まで攻撃を仕掛けてこなかったからか、俺の行動は相手にとっても予想外だったようで動くのが僅かに遅れたとのを見ると俺はさらに走る速度を加速させて相手の攻撃範囲まで近づくと刀を横へと払う。
それを咄嗟に受け止めた相手は勢いに負かされるようにバランスを崩しそれを立て直すために一歩後ろへと下がった。
それを見て俺はさらに追い打ちをかけるように足に力を入れると無理矢理に押して相手を後ずさりさせる。
「クッ…」
俺の力任せの攻撃に必死に耐える相手は反撃のチャンスを伺うように俺のことを睨む。
その姿に俺は怯むことなく力で相手を押し続けた。その時だった、不意に試合終了の鐘が鳴るとそれに加えて目の前に試合の対戦成績が表示される。
『GAME SET』『WIN Re:rights』
その結果に誰もが立ち止まると驚きを通り越して不思議な表情した。しかし、そんな中で俺だけは全てを知っていた。
「どうしてだ、俺たちはまだ殺られてないだろ!」
最初に声を上げたのは俺と戦っていた翔也の方だった、顔はあからさまに不服そうな顔で目の前の俺を見る。
それだけじゃない、離れたところで戦っていた龍馬と渉も俺に答えを求めるように見つめた。
そんな空気を悟り俺は嫌々ながらもこの勝利について説明し始める。
「初歩的なことだ、お前らはルールを破った、だから負けたそれだけのことだ」
「ルールを破るって俺たちは何も不正はしてないぞ」
未だに刀を交えたまま一歩も動かない翔也は自分の言葉の正当性を確かめさせようと握っている刀を俺の前へと向けて普通の刀だということを強調させる。
しかし、俺にそんなものを見せたところで今回の勝利には何も関係ない
「別に俺は刀のことを言ってるわけじゃない、そんな間の抜けたこと言ってるから自分の足元をすくわれるんだ」
「お前、ふざけんなちゃんと説明しろよ」
ついには怒る翔也に俺は小さな溜息を吐き出すと冷静に言い放った。
「だから説明しただろう足元だって、怒鳴る前にちゃんと見てみろよ」
「何言って...」
言葉を返すのと同時に首を動かして自分の足元を見た翔也は声を出さずに静かに固まったままだった。
それもそのはず、まさに負けた原因が自分自身なのだと知ったからだ。
「フィールドアウト、初歩的なルール違反だ」
俺たちは相手の攻撃を二回受けた、その際に相手の早い動きをするためにいつもよりも間合いを大きく取って距離を稼ごうとしていた。そうして気づいたら二回目の攻撃が終わった時点でフィールドを示すラインまであと数歩のところまで迫っていたのだ。
そこで思いついた、相手の攻撃を受け止めるのではなく受け流すことで相手との位置を逆転させてわざとフィールドアウトさせることができるんじゃないかと
「お前らは速さにこだわりすぎて文字通り足元をすくわれたんだ」
「クソッ...」
そう言うと翔也は静かに倒れこみ地面を叩いて悔しがる。
それに比べて竜馬の方は静かに何も言わずに翔也の元へと近づいて来て手を差し出した。
その光景をみながら俺と渉は静かに近づくと言葉も交わさないままメガネを外してゲームの外を見つめた。
すると公園の出口には予想通り『OCT』の片桐が前と同じようにフェンスに寄りかかっていた。腰掛けるその姿は遠くから見ると表情をはっきりとは見えないがきっといつもと変わらない不気味な笑を浮かべているのだろうと思うが、片桐の横にもうひとりの人物がいることに気がついた。




