Sudden visit
「21、22、23…」
「30、31、33…」
公園には俺と渉の声が響き渡っていた。
それもしばらくして『GAME SET』 の文字が目の前に現れると辺りに響くのは二人の荒い息だった。
『WIN PLAYER 渉 25-35』
倒れ込んだ俺に対して息は荒い割には背筋よく立つ渉の姿を横目に視界の中央に映し出される文字に目を細める。
「クソッ10個差か」
銃の練習は刀の練習のように渉と直接戦う実践形式とは違い不規則に空中を移動する的にどれだけ当てられるかを競う競技形式で行うのだが、やはり実力でまさる渉にはまだまだ敵わなかった。
「一のハンドガンAW91は弾数が少ないから弾数を計算しながら撃たないと、空撃ちになってその分時間を取られるから注意して撃たないと」
荒い息を整えながら渉の言葉に俺は何も言えなかった。
いくら俺が才能があろうとも最初から動く的を正確に狙い、さらには弾数も心配しながら撃つのは難しい上に余計に集中力を使ってしまう。
「慣れてくれば感覚で残りの弾数も分かるようになるし、あんまり集中しなくても自然と狙いが定まるようになるまでいければいいんだけどな」
「そこまで慣れるにはもっと扱いに慣れないと」
手にした銃のグリップの感覚を確かめるように握るとまだ慣れない銃の冷たい感覚にこれを使いこなせれば楽しいだろうと想像して自然と笑みがこぼれる。
「一はやっぱり銃が合っているんだね」
渉は寝転がる俺の顔を覗き込むようにしながら手を差し出した。
俺はその手を掴むと体を起き上がらせて大きくため息をついて呼吸を整える。
「渉、もう一度お願いしてもいいか?」
「ああ、いいよ」
渉はそう言いながらリモコンを操作すると目の前には再び複数の球体の的が出現すると同時に『GAME START』の文字が大きく表示された。
次には近くの的の一つに向けると銃口を向ける。吹いている風を読み息を整え不規則に動く的に合わせて銃口を動かして一瞬止まった隙を狙い引き金を引いた
「1…」
一個目の的を打ち終わるとすぐさま辺りを見渡して次に狙う的を見定めると銃を構えてさっきと同じような作業を繰り返していく。
一つの間取にこの一連の作業をこなすのに最低でも6秒ほどはかかる俺に対し渉は
「6…7…」
そのたぐいまれなる運動能力で自分から的へと動き回り不規則に動く的との距離を詰めると確実に撃ち落としていく。動かずに的を狙う俺とは正反対のプレイスタイルで徐々に点数差を離していった。
「15…16…」
「19…20…21…」
俺と渉の数は秒を追うごとに差は大きくなっていくのが分かりグリップを握る手を強くなって焦れば焦るほど息遣いが荒くなるのを意識して大きく息を吐き再び目を細める。
画面端に映る装填数を確認してマガジンを交換をするのさえ惜しいと思える時間
やがて3分目前となると終了を10秒前からカウントして最後には大きなアラームが鳴って飛び回る的は視界から消えていった。
『GAME SET』 『WIN PLAYER 渉 37-29』
「まだ8点差か…」
荒い息を抑えてこれまでと変わらない対戦結果を見ても前より縮められた差に喜びよりも悔しさが残った。
思い出して考えてみると俺は渉と違って的を狙っている時間が長いのが明らかだった。
それに加えてマガジン交換に意識を集中させてしまうと集中力が分散してしまってさらに時間がかかってしまう。
「一はそうやって考えて自分の事をよくわかっているよね…」
「いや考えるのは癖みたいなもんだ、昔からこんな風だったから周りには変なふうに見られてたけどな」
この前ふと昔のことを思い出した時のことを皮肉めいて言う俺にいつものように渉は笑いかける。
「でもそうやって自分の事をよく知っているからこそ一の成長が早いんだと僕は思うよ」
「そう改めて言われるとなんだか馬鹿にされてる気がする」
「馬鹿になんてしてないって、ただ…」
「ただ、なんだよ渉」
言いかけた言葉を俺が聞き返しても返事が無いので渉を見てみると当の本人はメガネを外してどうやら遠くの察するに透明な膜の外側を見ていた。
俺も渉に釣られるように銃を地面に置くとメガネを外して同じ方を見て見るとそこにはいつもベンチに座って俺たちの練習が終わるのを待っている若葉が二人組の男に詰め寄られている姿が分かった。
動いたのは二人同時だった、咄嗟に動いたせいで渉は銃を握ったまま走り出した。
俺たちはほぼ同時に若葉のもとへとたどり着くと俺は相手に詰め寄り俺より高い位置にある肩を掴むと大きく息を吸って言葉を吐き出す。
「おいお前なに…」
「ああ、ちょっと待って龍ヶ崎くん」
俺の言葉を挟んだのは誰でもない若葉だった。
「私にじゃなくて龍ヶ崎くん達に用があるみたいなの」
「はぁ?」
視線を若葉から正面へと変えるとそこには不機嫌そうに俺を見る人の姿があった。
俺よりも年齢は少し上くらいで体はしっかりしていて焼けた皮膚が傾いた夕日に印象的に映し出される。
「手を離せ」
俺と目線が合うとその男は年の割には低い声でそう言い上半身を曲げて方に掴まれていた俺の腕を振り払い腕を組むと大きく息を吸って俺たちを威嚇するように怪訝な表情のまま口を開いた。
「俺たちに向かってこんな舐めた事するなんて、いつもなら一発ぶん殴ってるところだが、片桐さんから直接手を出すなと言われているから大目に見てやる」
言葉の語尾にも力が込められており腕も力が入っているのか微かに震えているようにも見えた。
それにしても片桐の名前というのはこの気性が荒い男にも通用するというところを見るとこのランキングの順位の影響力が垣間見れた。
これまでこういう人間に関わったことは無かったから今にも怖気づきそうな心を奮い立たせて、この男がまた若葉に近づいて何をしでかすのか分からない状況であることを考えると気持ちを奮い立たせて冷静に言葉を返した。
「それでなんの用なんだ」
「ふん、俺たちは『SOLD』の下村と香取だ」
「『SOLD』って」
その名前に聞き覚えがあるのは当然だろう。
現在のランキング3位、ついに俺たちの目の前に姿を現した相手に俺はもう一度相手のことをまじまじと見つめる。
先ほど日焼けした男に香取と言われたとき後ろにいるもう一人が小さく頷いたところを見るとこの男が香取で日焼けした目の前の喧嘩早いこいつが下村なんだろうと察した。
ガタイのいい下村と比べるからだろうか香取の体は細く見え弱々しく見えた。その上、先程から下村と俺との会話に対して興味なさそうにどこか遠くを見つめているようだった。
しばらくの間、まじまじと二人を見る俺の視線を嫌ってか下村は大きく咳払いをすると大きくを口を開く
「わざわざこっちから来たのは他でもない、明日の夕方に俺らと対戦をしろ」
「明日ってそんな急な…」
「なんだ、だめなのか」
下村は不機嫌な顔をさらに不機嫌にして俺のことを睨むんだ。
その圧でこれまでも多くの人をこんなふうに脅迫してきたのだろうかと思うのは容易い
「いや、別に用事はないけど」
「だったら文句ないだろう」
そう言うと組んでいた腕を大きく伸ばすと後ろにいる香取と一瞬だけ視線を合わせると二人はそのまま公園の外へと歩き出す。
その後ろ姿を俺たちはただ見つめることしかった。




