dangerous smell
「ランキング11位か…この前の試合で随分と上がるもんなんだな」
「うん、龍ヶ崎くんと渉くん達はやっぱり強いね」
放課後、学校が終わるの同時に用事があるから先に行ってくれと言ってしまった渉に取り残されるように俺と若葉の二人はいつものように公園へと続く坂道の上へと歩いていた。
その道中、俺たちはつい3日前に行なったランキング5位の相手との試合の話題を持ち出した。ランキング5位といっても俺たちが想像していたより楽に勝てたのだが、しかし一つ心残りなことがある。
前々回の戦い『black blood』との戦いで相手が言っていたランキング3位以上のチームは中学生や高校生も関係しているという言葉、その言葉をその時には半信半疑だったが今回戦ったランキング5位の『RED APPLE』も立ち去る時にそのようなことを曖昧だが言っていたのだ。
「なぁ若葉はランキング1位のチームについて何か知っているか?」
その言葉に少し考えるように宙を向いた若葉はしばらくして答える。
「うーん、私もランキングで見た『OCT』って名前しか知らないかな」
「そうか…」
しかし俺らはこの時に何にも知らなかった、この戦いの危険性について
というのも俺らがそのまま公園ないの空き地にたどり着いた時に二人の人間が立っているのが見えたからだ。
そのうちの一人は渉だと直ぐにわかった、しかし問題なのはもうひとりの渉より明らかに背が高い相手の方だった。
長い茶髪を無造作に伸び白いYシャツに淡い紺色のズボンどこからどう見てもその格好は中高生の制服で明らかに俺たちより年上だった。
「二人共来たね」
渉は制服の上級生との会話を中断すると片手を上げて俺たちが来るように促す。
それに従うように俺と若葉の二人は近づいて行った。
「渉、何してるんだ…」
俺たちは近づいて行き一体何をしているのかと問いかけた。しかし、その答えに俺はもちろん、若葉も驚きを隠せなかった。
「この人は『OCT』のリーダーの片桐さんだ」
俺の問いかけを無視したかと思えば目の前の制服姿の人間を指差し紹介するがその名前より前の『Oct』という名に俺は衝撃を受けた。
それもそのはずだ、今の今まで俺と若葉が話をしていた正体不明のチームのメンバーが突然、目の前に現れたのだから衝撃を受けたというより不思議に思った。
「お前何言って…」
咄嗟に俺は目の前の渉のことを見て真意を聞こうと口を開きかけた時、目を見て口を閉じた。
いつもは人当たりのいい笑みを強調する目元がその時には確かに笑みを浮かべてはいたのだが瞳の奥では何かに怯えるように震えているようだった。
「龍ヶ崎って言ったっけ?どうも僕が『Oct』のリーダー片桐ヒロト17歳だ」
人当たりの良さそうなその物腰と緩く開いた口元は制服姿の高校生というよりかは大学生の方が合っていた。けどその優しさはランキングの頂点に位置し恐れられると知っていた俺たちにとって見れば言葉の一つ一つに何か裏があるように思えて不気味で重圧的なものだった。
「どうやら君たち『Re:rights』はここ最近10位以内の上位とやりあって今じゃランキング11位じゃないそうか」
「それがどうしたんです?」
「いやいや、別にこういうのって昇進祝いっていうのかなぁ…とにかくそんな怖い顔しないでさ俺は君たちに挨拶にきたんだ」
そう言って片桐はズボンのポケットに入れていた細くて白い右腕を出すと俺に差し出した。
俺はその手をまじまじと見つめ握り返そうとはせず片桐を睨んだ。
「つまりそれって挑戦状って言いたいんですよね」
「ふーん、まだ若いのによくわかってるんだ」
長い茶髪に隠れた細長い目は小学生の俺を威嚇するように頭から足のつま先までをじっくり見るように見開かれ面白いおもちゃを品定めするかのように口元は不気味にうすら笑いを浮かべていた。
その好奇の眼差しを向けられるといつまでも相手のペースに乗ってしまいそうだったのでこのまま不気味な状況を少しでも終わらせようと俺は意を決して口を開く。
「それで俺たちと戦うんですか?」
さも俺たちが上位にいるかのような口ぶりに片桐は一瞬笑を崩すと小さく答える。
「もちろん、君たちがランキング上位にいるってことは早いうちに戦う事にはなるだろう。そこでだ、今日はその戦いについて話をしに来たんだ」
「ルールってことですか?」
「いやいや、そんな堅苦しいものじゃない…そうだな簡単に言えば君たちの実力を試そうと思っているんだ」
「俺たちの実力?」
片桐は人差し指を突き出して手で銃を作ると俺の心臓に向けると。
「パァン」
銃を放つような仕草をして一人不気味に笑ってみせた。
「何のまね…」
「俺らと戦いたいのなら3位の『SOLD』と2位の『LOSS』に勝ってからだ」
片桐わざわざそう言ったのは自分の順位と近いチームとやらなければいけないというルールがない、言わば下克上がしやすいランキングシステムのことを考えてだろう。
俺たちが本当に実力があるかどうかそれを試すためにわざわざ上位のチームと当たらせるということだ。
「もちろん俺らは最初からそのつもりだったさ」
「そうこなくっちゃ」
そう言うと片桐は静かに歩き出すとポケットにしまっていた右手を天に伸ばすと俺たちに別れの挨拶をするがふと何かを思い出したかのように足を止めて踵を変えて立ちすくんでいる俺たちに振り返った。
「あっ、言い忘れてたけど俺らも流石に小学生に銃を使えとは言わないさ、君たちお得意の刀でいいよ」
その言葉に俺たちのことを舐められたと思った俺は言い返そうとしたがその時にはもう片桐の後ろ姿が小さくなっていた。




