Re:Memory
「龍ケ崎やったな、まさか本当に九十九に勝てるとは」
「本当、さすがだね」
『J.L.Q』との戦いが終わり龍ヶ崎が拠点に帰ると、先に来ていた『Re: rights』の凛と鴉野の二人はドアを開けた瞬間に近づいてくる。
その顔が喜びよりも驚きの表情なのが今回の戦いの結果の意外性を物語っているだろう。
龍ケ崎は言葉を返す余裕も無く、これからの事を考え疲れを少しでも体力を回復させるため適当に近くの椅子に倒れこむように座ると二人に問いかける
「内海はどこいったんだ?」
「ああ、なんか部屋に駆け込んで行っちゃったみたいだよ」
「そうか...」
龍ケ崎は今にも眠りにつきそうな重い瞼で天井を見上げると大きく息を吐き出した
疲弊している体にムチ打って頭を動かした。
「なぁ...二人共、少しだけ話があるんだが」
「うん、ああ?」
「別にいいけどなんなの?」
目の前の席に二人が座ったのを確認すると龍ケ崎は静かにそのままの体勢のまま静かに口を開いた。
「これから話すことは『Re: rights』の作戦として聞いてくれ」
龍ヶ崎が指定した場所に付いた時には既に内海の姿があった。
昨日の『J.L.Q』の戦いから一夜明けた今日、龍ケ崎は内海を拠点近くのビルが立ち並ぶ都会的なステージの建物の屋上へと呼び出した。
屋上のドアが錆びた音を立てると内海は退屈そうに建物の下に向けていた体を振り向かせて龍ケ崎の事を確認すると少し微笑む。
「何ですか話って」
「...」
龍ヶ崎は内海の質問に答えようとはせずドアを静かに閉めると無言のまま間合いを詰めていく
両者とも一言も言葉を口にすることはなく、辺りには建物の間から吹き上げる風の音が強く聞こえて妙な緊張感と不気味さを醸し出す。
龍ケ崎は内海と数歩程の余裕を残して向き合う形になると今までとは違う空気感をもって口を開いた。
「内海、お前に一つ聞きたいことがある」
「何ですか?」
「お前はどうやって『THE・Gerechtigkeit』を知ったんだ」
この言葉に内海は驚きもせず反論もせず、この時を知っていたような表情で少し微笑を浮かべたまま龍ケ崎の瞳を見て挑発するような言葉を返した。
「もし言わなかったらどうなります?」
「その時は...」
言葉を言い切る前に龍ケ崎は素早く腰に手を当てると目にも止まらない速さでもってハンドガンを掴むと対面する内海の額に向けてその冷たい銃口を向ける。
「何としても聞き出す」
確固たる決意の目をして龍ケ崎は内海を睨みつけた。
その手に握られた冷たく黒い小さな銃は仮想空間であるこの世界で人一人を死に至らしめることができる代物だ
銃を向けられた内海はしかし依然として笑みを崩そうとはせず、余裕を見せる
その表情は状況とあまりにも対比していて不気味に見えた。
龍ヶ崎は内海の不気味さを振り払うかのように冷静に話を進めた。
「悪いがこの周りには鴉野と凛がいつでもお前を撃つことが出来る場所で構えているんだ、逃げようなんて考えてるなら諦めるんだな」
「何言ってるんですか、私は逃げるだなんて一ミリも思っていませんよ」
「そうか、ならもう一度聞こう。お前はどうして『THE・Gerechtigkeit』を知っている。いや、こう言えばいいか」
「お前と矢薙 渉との関係はなんだ?」
核心を突くその言葉に内海は唇に力を入れ言葉を濁すように答える。
「気づいたんですか?」
「俺はこの五年間あいつを探して来たんだ。そんな時に妙な噂を聞いたんだ。あいつがとあるゲームに渉らしき人間がいるって」
「だけどこれは私の問題ですよ、龍ヶ崎さんが昔から知っているからといって関わる事は無いんです」
「いや、お前が思っている以上に俺には大事なことなんだ」
「私を脅迫してでも大事な事ってそれはなんでしょうか?」
内海の質問に龍ケ崎は淡々と、けれど五年分間の思いを込めて答えた。
「俺は約束したんだよ、あいつを殺すってな」
内海はその答えに息を呑み、搾り出すように龍ケ崎に問いかけた。
「貴方たち『Re: rights』って一体なんなんですか」
龍ケ崎は大きく息を吸うと銃口を突きつける内海を一瞥すると生暖かい風を受けながら重苦しい口を開く。
「分かった、それじゃあお前に『Re: rights』の成り立ちと五年前、あの大会の裏で何があったのかを話してやるよ」




