『Re:rights』VS『J.L.Q』
九十九の刀が上へと払うとその場で振り上げた勢いのまま体ごと回転して龍ケ崎めがけて横攻撃を仕掛ける。
キーンという重い金属音がまたしてもステージに響き渡った。
龍ケ崎はギリギリのところで振り上げられたのとは逆の刀で受け止めてガードした。
両者の刃が擦れ金属同士が擦れ合う嫌な音が四方を囲む壁に反射して静けさの中で目立ち響く
「流石、ブランクがあってもこれだけ動けるとはね」
「そっちこそ、相変わらず無茶苦茶じゃねぇか」
互いに刀に力を入れ相手を牽制し合う。
「どうだいこの試合が終わったら私達『J.L.Q』に入らないかい。歓迎するよ」
「そんなのお断りだ、誰がお前らみたいなクランに入るか」
「おいおい、私は君の実力を褒めているんだ、少しは謙遜でもしたらどうだ」
「うるせぇよ、それはこっちのセリフだ」
刀を弾くと龍ケ崎と九十九は互いに間合いを取り睨み合うとステージに両者の殺気と微風が入れ混じり重い空気で息をするのさえ嫌になる。
下手に動き隙を作れば殺られるのは間違いない。さっきの二刀流で確実に倒せるとは思わなかったが、やはりというか一筋では倒せないそうには無い
そう思うと柄を握る手に汗が滲んだ。
龍ケ崎が思慮深い視線を向けると相変わらず刀を向けて警戒しながらも不気味な笑みを浮かべる九十九が虚ろに問いかける。
「なぁ、君はどうしてそこまで執着するんだい?」
「何の話だ」
「もちろん彼女の事さ、名前は確か内海だったかな」
「お前には関係のない話だ」
「そうかな、君がそこまで執着している事。私の考えでは五年前のことが関係しているんじゃないかと思っているんだけどね」
龍ケ崎は唇を噛み九十九睨みつける。
「だったらどうする」
「どうもしない、正確には私にはどうしようも出来ないだけだが」
「ああ、そうだお前には関係無い だから余計なこと言わないで試合に集中しろ、長話は自殺行為だぜ」
「いや、関係はなくはないだろう。五年前のことが関係があるのなら私に一ミリも関係がないとは言えないんじゃないかな」
「...」
とことん嫌な性格の人間だ、全てのことを見通すその洞察力もさる事ながら人の嫌な事をついてくる意地の悪さ
「確かにお前もあの事に関わってる、だけどなこれは俺の問題だお前は黙ってろ」
両者ともしばらくの沈黙が続いた後、唐突に先手に動いたのは九十九だった。
と同時に龍ヶ崎も動き出す。しかしその動きは明らかに先ほどの元は違った
突進してくる九十九とはうってかわり龍ケ崎は四方を囲む壁に向かって走り出し思いっきり角を蹴り出すことで壁の上に華麗に登った。
「って、君はさっきまであんなに威勢のいい事、言っておいてまさか逃げるつもりなのかい?」
九十九は突然の相手の行動に足を止めて壁を見上げる。
「ああ、別にお前から提示されたルールには真っ向勝負しろなんてなかったからな別にいいだろ」
二刀流は最初から考えていた事だから、この時点で作戦はもう一つあるのだが、なんせ危険すぎる。
しかし、これで少しは時間を稼ぎ距離を離れ安全なところで作戦を考えればチャンスを狙えるというものだ
「悪いな、俺は負けられないんでな」
龍ヶ崎が振り返り飛び出そうとした時だ、鋭く太いもの突き刺さる音が自身の足場である巨大な壁に刀がコンクリートを砕く音と共に突き刺さっていた。
龍ヶ崎がその状況を理解する間もなく九十九は突き刺さった刀の柄を踏み台にして壁の縁を超える高さまで飛んだ
「私がそんなの許すとでも?」
飛びながらの九十九と目が合うと笑みを浮かべてそう呟くと同時に手を広げる。
「ソード 『シグレ』」
手にしていた刀を投げて壁へと突き刺すとそれを踏み台に飛び跳ねて壁を登るなど誰が考えたか、縁に立っていた龍ケ崎は九十九が降りてくる勢いそのまま振り下ろした刀を間一髪ギリギリのところで近くの建物へと飛び移り避けた。
砕けるコンクリート片に土煙が昇る。そしてそこに立っているのは紛れもなく九十九だった。
「なんだ...それ」
無茶苦茶にも程がある。龍ケ崎は土煙の中で刀を自身に向ける人影を見て呆然として見て立ち尽くした。
「さぁ、正々堂々としようじゃないか」
その言葉と共に煙の中で刀を振り払った九十九はその場で何度かジャンプしてリズムを取るようにすると、突如として地面を蹴り出しその衝撃でコンクリート片を辺りにまき散らしながら龍ケ崎の元へと突っ込んできた。
龍ケ崎はその時、この女の本性を改めて見たような気がする。この執念深さに驚きよりも恐怖に震える。
龍ケ崎は突進してくる九十九から逃げるように辺りを見渡すと建物が密集する九龍城のようなこのステージの建物から建物へ屋根伝いに飛び移りながら走って逃げだした。
が、全力で逃げても九十九が追いかけてくることを止めようとはしない
「今回は君と戦えるまたとないチャンスだというのに、君はどうして逃げるんだ」
九十九は龍ヶ崎が行く手を塞ごうと後ろへ投げるもの全てを切り裂いて突進してくる。
「それは、お前が追いかけてくるだろ」
閑散とした建物の上を二人で駆け抜ける。一人は追われ、一人はそれを追いかける。それを他人が見れば肉食動物が草食動物を追うように見えるだろう。
こうなった以上新しく作戦を考える暇は無い、今考えついている物で行くしかないのだろうが、しかし相手はあの九十九だ、下手をすれば反撃を喰らうなんて事も考えられる。
「君はまだ逃げる気か」
九十九はさらにスピードを上げると龍ケ崎の体を狙い刀を突き出して追いかけてくる。
五年前の九十九はスピードで俺に勝るなんてことはなかったのだが、これがブランクなのか、それとも九十九が成長したのか。
どちらにせよ、今のまま逃げても九十九に追いつかれるのは必至
もうこれ以上考える時間はない、イチかバチか今出来ることをやるっきゃない
決意した龍ケ崎はある程度開けた場所まで来ると後ろを振り返り地面に踵に力を入れて土誇りを立てなから急停止する。そしていきなりの行動に驚く九十九が振り下ろそうとしていた刀を右手に握った刀で下から弾くと同時に左手を突き出すようにしてパーに広げると先程と同じように冷静に口ずさむ
「ソード 『アカツキ』」
二度目の二刀流に、九十九は驚きの表情より笑みを堪えきれないといった風に笑い出す。
「私に同じ手で挑もうとは舐められたものだ」
言葉通り、九十九は龍ヶ崎が出した刀の刃先を足先で蹴飛ばし自身に振り上げられようとした刀の軌道をずらすと同時に弾かれた刀をそのまま手放すとその手をそのまま広げて冷酷に言葉を発する。
「ソード 『キサラギ』」
手元に現れた刃がきらりと輝く刀は龍ケ崎の腕を縫うように体めがけて突き刺さろうとする。
龍ケ崎は咄嗟に体を曲げて振り下ろされる刃を避けると体勢を立て直すため後ろに下がり九十九との距離をとった
「少しは正々堂々やろうという気にはなったかい?」
九十九は距離を取った龍ケ崎に追い打ちをかけることはなく刀の刃先を龍ケ崎に向けつつ攻め込まれてもいいようにカウンターの姿勢をみせる。
「俺も最初はそう思っていたんだけどな、予定が少し狂ってな」
両者は互いに相手の隙を伺うように睨み合った。
相変わらず風が強く両者の服を揺らし建物が軋む音が静寂の中でよく聞こえる。
チャンスがあるとしたらもう次しかないだろう。つまり失敗はできないって事だ
龍ケ崎は唾を飲み込むと大きく息を吸い込んだ。
「これでもう終わりだ、五年前の事も全部」
龍ケ崎はそう言うと両手に握った刀を強く握り締め九十九の元へと勢いよく突っ込んだ
「フッ、やはりまたしても正面突破とはな。いいだろう受けてたつ」
それに変わって九十九は向かってくる龍ケ崎を返り討ちにしようと刃を向け足を大きく開いてカウンター攻撃しようと迎え撃つ
両者の距離は徐々に詰まっていく
九十九の攻撃範囲に入る寸前、龍ケ崎は飛び上がると体を回転させた。
手に両刀を握った状態で飛び跳ね回転加えることで攻撃力を増すことができると考えた。
案の定、龍ヶ崎の攻撃を防ごうと刀で攻撃を受け止めた九十九はその攻撃の重さでバランスを崩した
がしかし、これで隙を作ったからといっても油断はできない、空中で体を回転させるという事は着地の時に自身もバランスを取ることができないということだ
龍ケ崎は回転する体の勢いそのままに地面へと転がった。
と龍ケ崎は瞬間的に足を折り曲げて姿勢を低くしゃがんだ状態になると九十九の胴体を横から斬りつけようと大きく振り払うように握った柄を強く握る。
しかし、龍ケ崎の体勢は背中を見せている状態、その大きな隙を九十九が見逃すわけもない
回転切りの反動で一度は体勢を崩した九十九はその隙を見逃すまいと足を踏ん張りすぐさま体勢を立て直すと同時に龍ヶ崎の背中めがけて刀を振り下ろした




