『Re:rights』VS『J.L.Q』
「しかし、今回の試合に限ってはハンデで彼女を狙わない方向でいいだろう」
「はぁ?いきなりお前どうしたんだ」
どこまでもクールでルールには自分を含め厳格で有名、そんな九十九が突然そんな提案を自分からするような真似をするのは正直、気味が悪かった。
「なんだ私がこんな事を言うのがそこまでおかしいのかい?」
「おかしいを通り越して気持ちが悪いぞ」
「そこまで言われるのはさすがに心外だが。まぁ、こんなことをいうのはもうこれきりだろうから心配は無用だろう。しかし、またしても話がそれてしまったな、どうも君と話をすると話が脱線してしまうようだ」
九十九はそう言ってカップを握ってコーヒーを口元へと流し込むと軽くため息をついて俺を睨む
口では言わないがその明らかな態度からして内心では怒っているのだろう。
俺は申し訳ない気持ちを感じる一方、無言の圧力が襲いかかる事に疑問を呈する。
「どうせ何か条件を付けるんだろう」
「良く分かったねその通り、でも簡単な条件だから安心してくれ」
「おいおい、そんな回りくどい言い方をしないで早くその条件てやつを言えよ」
「そうやって君はいつも効率だけを考えて話を進めようとするけど少しは考えるって事をした方がいいと思うな、でないと女に嫌われる人間になってしまう」
この女、自分が気に食わないからって腹いせに俺を貶めて楽しんでいる。少し反省したのが間違っていたと自分に腹が立つ。
「まぁ良い、それで今回の交換条件だけど今回の試合中、君は私とタイマンで勝負をする私が負ければその時点で私たちは棄権をする、逆も然り。武器は刀のみ使用可。どう、悪くない提案だとは思わないかい?」
「一対一で勝負...」
確かにこれなら内海に敵の驚異が及ぶことなく試合ができる、しかも相手は四人の内のただ一人、九十九を倒せばいいのだ、これはまたと無いチャンスであるのは火を見るより明らかで間違いないのだが
逆に言ってしまえば相手が九十九であるというのが問題なのだ。
世界で数人しか立つことのできないゲーム界で頂点に君臨する『J.L.Q』で長年リーダーを務める九十九楓の力はこれもまた火を見るより明らかなのである。
「もし負けたら?」
龍ヶ崎が睨む九十九は笑みを浮かべて言う。
「私はお遊びで語っているんじゃない、態々言わせるつもりかい?」
言わなくても分かっている。九十九はいつでも本気だ、つまり最後まで手を緩めるなんてことはしない。勝たなければそこにあるのは負けしかない
龍ケ崎は大きくため息を吐くと静かに話を切り出した。
「なぁ、一つ聞いてもいいか」
「なんだい?」
「お前がこんなこと提案する理由は、お前が公平にこだわるからか。それとも五年前の懺悔つもりか?」
龍ケ崎の言葉に九十九は一瞬驚きの表情をしたが直ぐに口元を緩めて笑みを浮かべた。
「理由なんて聞いてどうするんだい、それで君の気持ちが変わるとでも言うのかい?」
「いいから言え、それとも他の理由なのかよ」
「いいや、君の考えは間違ってはいない、だけど当たってもいない。確かに私は最初、君たちの置かれている状況は私達に比べて不公平だと思ったよ。五年というブランク、メンバーの主要人物の一人が素人に代わって勝負以前の問題だと思った。しかし、君は昔と変わらない力でチームを引っ張ってここまで勝ち上がってきた、それは事実で紛れもない君の力だ。五年前、あの大会の裏で人一人の命が奪われたことは今でも痛ましい出来事に直接的では無いとしても結果として加担してしまった事には今でも戒めているさ。しかしそれと今回の事は全く別だ。力を持った相手と戦いたい、それはゲームプレイヤーとして初心者や上級者というのは関係なく抱く純粋な気持ちだ、それは君もよくわかっているだろう?」」
九十九が話し終えてもしばらく龍ケ崎は一言も言葉を発さないで俯き虚ろな目で自身のコーヒーを見ていた。
やがて俯いたまま静かに深呼吸をすると九十九に言った。
「お前がもし五年前のことを今でも気に留めてこんな提案を打診しているんだったら俺はお前を嫌いになっていた」
その言葉に九十九は表情を変えて皮肉っぽく言う。
「私の事を嫌いじゃないないなんて意外だよ」
「お前のそういうところは嫌いだけどな」
二人はお互いを見合って笑みを浮かべると龍ケ崎は椅子を引いて立ち上がると踵を返して頭上に照らされっる仮想の陽のもとへ出る。それを見ていた九十九は面白そうに問いかけた。
「ちょっと君、私はまだ返事を聞いていないのだけど?」
「おいおい、ここは無言で帰るカッコイイ場面だろお前すこしは空気を読めよ」
「そんなもの私が知ったものじゃないさ、それより君の答えを聞かせてもらおうか」
「本当、お前はタチが悪いな」
龍ケ崎ははっきりと宣言した。
「俺はこの試合に優勝しなきゃならない、だからお前には悪いが今度の準々決勝の試合は勝たせてもらう」
「私は容赦はしないよ?」
「それはこっちのセリフだ」
そう言うと龍ケ崎は明日の対戦相手に手を振ることもなく仮想現実の街の中へと歩いて行った。




