Memory to revive
「今回の件といいまさか...彼の狙いは...私じゃなくて龍ケ崎さん...」
その声が遠くの方で聞こえる。
虚ろな目を開くと電子機器の明かりに照らされた内海の後ろ姿が遠くに見えた。
そうだ…楠野と戦って、だから中学の時のことなんてのを夢の中で思い出してしまったんだろう。
あれから俺と渉で楠野とを対峙したんだったか。我ながらこんなことを思い出すなんて全く情けない人間なんだなと思う。
「内海...」
「あっ、龍ヶ崎さん気づきましたか」
龍ケ崎はその時に体の感覚が戻っていることに気付いた、試しに手を閉じたり開いたりして見るときちんと動いている感覚がある。
そのまま地面に手をついて体を起き上がらせようとする、しかし龍ケ崎の腕は自身の体を支えることはできずにそのまま地面へと横倒しになってしまった。
「龍ヶ崎さんいきなり立ち上がるのは無理ですよ、少し休んでからじゃないと」
近くに寄ってきた内海は体を持ち上げさっきまで自分が座っていた椅子に座らせた。
「これじゃあ動かないのと一緒だな」
「急に動かすのが悪いんですよ」
内海もダンボールの箱で簡易的な椅子を作ると龍ケ崎の前に持ってきて座った。
「あと10分くらいはこうして安静にしててください、でないとまた倒れることになりますからね」
龍ケ崎は無抵抗を表すように両手を上げるとおとなしく言うことを聞く事に同意を示す。
それにしてもあれからどのくらいの時間が経ったのだろうか、感覚的にはそれほど時間が経っているようには思えないが
辺りを見渡す液晶画面やコードの機器しかなく時計のようなものは見当たらない。
「体が動くまでの暇つぶしがてらに聞くけど俺はどのくらい眠っていたんだ?」
「そうですね作業は予想より早く終わったので10時間ちょっとってとこくらいですかね
まだ体は本調子ではないが凡人なら半月かかる作業を半日もかからずにやってのけた内海の腕は確かのようだ。
「それでなんですが」
龍ケ崎が感心して内海の事を見ていると少し言いづらそうに顔を逸らして話を切り出したかと思えば小声で何かを呟き決心した顔で龍ケ崎に顔を向ける。
「今回のバグの件なんですが、残念ながら犯人を特定することができなかったんです」
「なんでだ、犯人は楠野じゃないのか」
「ええ、確かに実際バグを使ったのは前回の『LI―VE』の方で間違いありません。なので私もその線で調べて見たんですがどうやら違うようなんです」
「つまり、『LI―VE』は実行犯なだけでバグを見つけたのは違う人物だと言いたいのか?」
「はい、どうやらそのようです」
内海はそう言うと指をスワイプさせて自身のホログラムを起動させると辺りに画面を広げ龍ケ崎にも見えるようにする。
それには様々な文字列と映像や画像の数々、俺にはさっぱりわからないがどうやらこれが今言ったことの証拠のようだ
「今回の件、これらを見てもらえば解る通り相手はかなりの腕利きです。もしかすると私の体をログアウト不能にした犯人と何らかの関連があるかもしれないですね」
「もしかすると...」
そこで内海の声は大音量のアラームの音で遮られる。反射的に龍ケ崎は重い腕で流れてくる音を遮るように耳元を塞いだ。
「お、おい、一体なんなんだこれは」
内海は大音量のアラームが鳴り響く中、椅子から立ち上がると机の上に置かれていたパソコンのキーボードの一つを押す。
すると今の今まで大音量を放っていたアラームは息の根を切らしたようにぴたりと鳴り止まった。
「ああ、これは試合が対戦相手が決まったって合図ですね」
そういえばこの前、試合はランダムで決っているとかなんとかっていうのを聞いた覚えがあるが
「それにしたって、もう少し静かにできないのか」
内海は少し笑みを浮かべて龍ケ崎にも見えるように画面を動かす。
「龍ヶ崎さん対戦相手が決まりましたよ。今回は準々決勝ですけど、しかしこれはまた随分と有名なところと当たりましたね」
内海の言葉につられて視線をずらして画面を見る。その瞬間、龍ケ崎は体を動かないのを忘れて無理に立ち上がる。
そこに表示されていたのは今大会のトーナメント表を拡大したもので勝ち進んだ龍ケ崎達『Re: rights』を含めたクラン相手同士が対戦されるようになっている。
その中で『Re: rights』の横に表示されていた名前は『J.L.Q』
「おいおい、まじかよ」
その時に龍ケ崎は自身のホログラム上にメッセージが届いているのに気付き急いで開いて見てみると宛名は『J.L.Q』 九十九 と書かれていた。龍ケ崎はその名前を見た瞬間、すぐさに内容を確認した。
『今日、正午に所定の場所に来たれし 内容は追って話す』
文面の下には秋葉原付近の地図に赤いマッピングされた画像が貼り付けられていた。
「内海、いまの時刻は何時だ?」
「そうですね、午前11時45分ですね...ってどこに行くんですか!そんな体じゃあ...」
内海の忠告を最後まで聴き終える前に龍ケ崎は部屋のドアから飛び出していた。




