What’s this?
「これは、いわゆるバグの一種ですね」
「バグだって?」
『LI―VE』との対戦が終わるとすぐさま拠点へと移動すると、前回の試合で龍ケ崎の体に起きた異変について調べることとなったのだが、龍ケ崎は予想外の言葉に驚きを隠しきれなかった。
「ええ、そうです。最初に言ったとおりこのゲームはまだ世の中に流通していない未完成品です。そこで彼らはその脆弱性を突いたバグを使ってチート行為をしたんでしょう」
「そうなのか」
思い返してみれば、昔から楠野のやり口は利用できるものは利用するというものだった。
今回に限ってみれば俺という因縁深い相手故に禁断の行為に手を出したのだろう
「そんな事して勝っても、意味ないだろ」
時にプレイヤーは勝ちたいが為に前が見えなくなることがある。だけれどそこまでして勝ったところでその勝利は負けたのと同じだ。
「取り敢えず早急にバグを修正しないといけませんね」
「ああ、お願いする」
「それじゃあ、とりあえず私の部屋に移動しましょう」
そう言うと鴉野と凛の二人で龍ケ崎の腕を肩に回して二階の内海の部屋の前へと移動する。
「ここまでで大丈夫です、あとは私に任せてください」
「いや、でも中まで運ぶんじゃないのか?」
「私の部屋には機器があちらこちらにあるので大人数で入ると危険ですから」
内海が自身の部屋に人を入れなかいのは前からだがこんな時にも頑なに入れないのは何があるのだろうか。そんな思惑も思う暇もなく、一刻も早く現状から抜け出すことが最優先事項だ。
「うーんまぁ、そこまで言うなら後は任せるよ」
凛と鴉野は肩に回していた腕を下ろすと階下に降りていった。
それを見ると内海はドアノブに指をかざし開錠すると龍ケ崎の腕の下に手を回して体を引っ張っていく
「すこし動かしますよ」
「ああ悪いな」
引きずられながら見る内海の部屋の中は先程自身で言っていたように辺りにはコードや精密危機が累々とあちらこちらに置かれていた。
そんな中に埋もれて小さなベッドが置いてあったが日々こんな機器に囲まれたところで寝起きして良く寝むれるのだろうかと疑問になるほどだった。
「それにしても、お前の部屋は広いな」
俺の部屋に比べると機器があるにも関わらず内海の部屋はかなり広いように見える。
「この部屋はいわばゲームの中枢となる場所ですからね。大量の情報をやり取りするには高性能で大量の電子機器が必要になりますからね。必然的にこのくらいの規模が必要になってくるんですよ」
そこまで言い終わると内海は龍ケ崎を積み上がるダンボールに寄りかからせると近くにある大型の画面の前に座り何か作業をし始めた。
いろいろな映像やら文字やらが映し出されて俺には何をやっているのかさっぱりわからないが、とにかく目の前の少女がこのゲームを作り出したのは疑いようのない事実のようだ。
「それで、俺の体が動くようになるにはどのくらいかかるんだ?」
この部屋に何時間もいるのは頭がおかしくなりそうだ、それに試合が終わったばかりだから疲れているのに体が動かないとなると満足に眠りにつくこともできない
内海は依然手元を動か作業をしながら龍ケ崎の質問に答える。
「龍ケ崎さんの体を動かすようにすること自体はとても簡単なんです。しかし今回に限って言えば相手はバグを使ってのチート行為をしています、つまり龍ケ崎の体を動かすようにするには大本であるゲームシステムの脆弱性を無くさなければならないんですよ」
「あー、えっと要するに時間が掛かるって事か?」
「そうですね、この規模のシステムの脆弱性を一から見直すとなると普通の人一人なら一週間、いや半月程度はかかるでしょうね」
「おいおい、冗談だろ」
そんなにここにいたら頭だけじゃなくて体もおかしくなりそうだ。
「安心してください、私はこのゲームの制作者ですよ?多く見積もっても作業は半日で終わりますから」
内海は龍ケ崎の方へ振り向くと口元を緩ませる。
「それは安心したよ」
内海は龍ケ崎の言葉に満足すると視線を再び画面に向けて手を動かし作業を再開しはじめた。
「これから龍ヶ崎さんの肉体をスリープ状態にさせます。大丈夫、スリープと言っても寝ているのと変わらないですから心配しないでください」
「ああ、信じてるよ」
「それじゃあ、早速やりますよ」
「頼んだ」
龍ケ崎は内海の後ろ姿を見ると静かに目を閉じた。それはまさに麻酔にかけられるように無意識のうちに眠りにつくようだった。




