Black or white?
「お前が凛ちゃんに追いかけられている間に調べたことはこれで全部だ」
机を挟んで座る龍ケ崎と鴉野は議論を一息いた。凛の姿がないのは、朝から一人で練習をしていたからだ。
「そうか、それで鴉野、お前はそのことを並べてみてどう思ったんだ?」
「そうだな、俺は思うに黒だな」
「そうか、お前もそう思うか」
「なんの話してるんですか?」
さきほどからコソコソ身を屈みながら話す鴉野と龍ヶ崎が会話している所に気配を捨てて間に割って入ってきたのは今しがた話題にしていた内海だった。
「いや別に何も話してない」
当の本人が話の中に割って入ってきて反射的に龍ケ崎は反論した。
「でもなんか黒がどうとか言ってませんでしたか?」
「あー...」
考える間にも内海の疑いの眼差しは濃くなっていき龍ケ崎は助けを求めるように鴉野へと視線を向ける。
その懇願する視線を悟ったように、鴉野はニヤリとしてから口を開いた
「別に今日の下着は黒なのかなって話をしていただけさ」
「「はぁ!?」」
二つの驚きの声は内海と龍ケ崎のものだった。
「そ、そんな事話てたんですか!」
しかし内海の視線は図らずも言った本人ではなく龍ケ崎を見ていた。
「いや、はぁ、お前何言って」
鴉野に向けられたその言葉は薄笑いを浮かべる奥に潜む真実を映し途中で言葉を途切れさせた。龍ケ崎は何かを悟ると小さく頷き横で訝しげに自身を見る人物に向かって高らかに言葉を放つ
「ああ、そうだ。そしてお前の白のワンピースから察するに今日は黒だ!どうだ、合ってるだろ!」
「な、何言ってるんですか!」
「その反応俺の言ったとおりなんだな、はは、どうだ鴉野、俺の言った通りだろ」
「ああ、全くだやっぱりお前はすごいな、さすが『Re: rights』のリーダーだな」
「も、もう、知らないです」
内海はそう言うと頬を膨らませたまま二階の自室へと続く階段を登っていった。それを確認すると龍ケ崎は目の前の鴉野の胸ぐらを掴んだ。
「お前、何であんな話になったんだもっといい言い訳があっただろうが」
「おいおい、助けられて礼どころか恫喝か、ああ怖い怖い」
「おかげでこっちは変なレッテルを貼られたんだぞ、ふざけんな」
「まあでもおかげで本命の作戦が頓挫しなくて済んだんだし」
龍ケ崎は一回ため息をすると鴉野の胸ぐらをつかんでいた手を離してコーヒーを一口飲んでから呟いた。
「まあ、お前だってこういう役どころを好まないのは分かっている。だけどな、こうなった以上やらないわけにもいかないだろ」
龍ケ崎のその言葉はどこか冷たいものを含んでいた。
「ふーん」
対照的に鴉野は腕を組んで天井の証明を見つめながら面白そうに語りかけた。
「俺にはお前のほうが無理しているように思えるけどな」
「そんなこと」
「別に俺はお前の作戦を否定しようなんざ一ミリも思わない。むしろいつものようにさすがだと思うよ。だけどなお前は無理しすぎなんだ、5年前のことだってお前が全て悪いわけじゃないと俺は思う。『Re: rights』はクランだ、お前一人じゃ無い。リーダーである前にメンバーである、それを忘れるなよ」
龍ケ崎はしばらく何も言えなかった。
目の前の鴉野はその間も天井を見つめ続けて何かを考えているようだった。
しばらく沈黙が続いた後、龍ケ崎はコーヒーの残りを確かめると静かに口を開いた
「乾さん...」
「なんだよいきなり本名なんかで呼びやがって」
「いや、今になって唐突に思い出したんだよ。でもやっぱり鴉野のほうがいいな本名だとどうにも体が受け付けない」
「そうだな、俺もお前に本名で呼ばれると身震いがするぜ」
そこで再び沈黙が訪れそうになって鴉野は場をつなごうと口を開こうとしたがそれは龍ケ崎の言葉で遮られた。
「でもあいつは俺が殺さなきゃいけないんだ」
本当に小さな声で耳を澄ましていなければ聞こえなかっただろうその言葉をいう龍ケ崎はどこか悲しそうだった。
「ああ、わかってるさ」
そこで会話は終わり龍ケ崎はもう一杯のコーヒーをカウンターの向こう側にいるマスターに頼み、背もたれ深く腰掛けていると天井から重く響く足音が聞こえてきたと同時に先程までの白いワンピースとは打って変わってピンクのパーカーに着替えてきた内海が階段を駆け下りてきた。
「たった今、対戦相手が決まりました」




