『Re:rights』VS『S.w.a.T』
敵はマップのほぼ中央、古代闘技場のような建物の中央に二人立っていた。
どうやら待ち伏せを狙っているらしい
「作戦は以上だ、何かわからなかった所はあったか?」
「いえ、大丈夫です」
龍ケ崎は内海の目を見据えると辺りを警戒しながら立ち上がる。
その手にはいつものように力強くハンドガンが握られていた。
「それじゃあ行くぞ」
言うと同時に龍ケ崎と内海は建物の中央へ続く入り口へと入っていった。
風の吹く音さえしない静まりかえった建物は独特の不気味さがある。
「来るのが遅かったですね」
龍ケ崎と内海が中央付近に立ち止まると『S.w.a.T』のリーダー朝比奈は皮肉気味に目の前の龍ケ崎たちに話しかけた。
その口ぶりからして朝比奈は自信満々のようだ。それに答えるように龍ヶ崎も皮肉を込めて返事をする。
「いやいや、これでも急いでたんだぜ?」
二人は不敵な笑みを浮かべ一瞬でも隙を見せまいとお互いをまじまじと見つめた。
「なるほど何か企んでいる事があるのかな」
「そんな事、無くもないけどな」
どちらもピクリとも動かずに数十秒が過ぎた時、突然一発の銃声がどこからともなくした。
「なッ」
『S.w.a.T』のリーダー朝比奈は突然の発砲音に辺りを見渡した時だ
目の前で対峙していた龍ケ崎がこちらに近づいてきていた。
その目はただ目の前にいる敵を倒す為だけに生きているような冷たく冷酷なものだった。
それを見た朝比奈は反射的に迫り来る恐怖に握っていたアサルトライフルの銃口を龍ケ崎へと向けた。
「30…」
龍ケ崎の小さく呟く声が聞こえたのはその時だった。
それは本当に微かで集中していなければ聞き逃してしまっただろう。朝比奈はその言葉の意味を知ろうとする反射的に前に握った銃の引き金を引く
その銃弾は向かってくる龍ケ崎の急所を的確に狙っていたが的である龍ケ崎はそれらの銃弾を見事に避けた。
しかし、それは甘い行動だ。囮作戦をしてくるのを知っていて突っ込んでくるのは自殺行為も良いところ
それはそう、朝比奈の横にいた『S.w.a.T』のメンバーであるキールが体制を崩した龍ケ崎に銃口を向けた事で分かるだろう。
「内海!」
体を捻り体のバランスを崩した龍ケ崎は後ろにいる内海を呼びかけた。
名前を呼ばれた内海は大きな声で叫んだ。
「マジック 『スモーク』」
内海の手から放たれた光は一直線に進み龍ヶ崎の体をスレスレに避けると敵である二人の目の前で炸裂した。
これまでにも使ったことがあるこの技は殺傷性がなくただ視界を妨げるものだ
しかしその間に龍ケ崎は体勢を立て直すとまたしても小さな声で呟いた。
「25...」
煙に飲み込まれた朝比奈とキールの二人は目の前が見えなくなっても動揺の表情を見せることは無かった。
ただ冷静にこの状況を打開するすべを口にした
「マジック 『ウィンド』」
その言葉を言うと二人を飲み込んでいた煙は強烈な風と共に晴れていった。
ウィンドはその言葉通り放った光を中心に強力な風を吹かせるというものだ。前回、前々回とこれまでにも何度も使用していた技だけに敵はスモークを使ってきた時の対処法を心得ていたのだ。
「こんな小賢しい目くらましは僕たちには聞かないよ」
朝比奈は風で乱れた自身の服を整えながら先程よりも距離を詰めて立ちすくす龍ケ崎を見た。
その表情は相変わらず不敵な笑みを浮かべているがその裏では焦りなどの感情を隠しているのかもしれない。
それを見て朝比奈はさらに言葉を付け加えた。
「伝説の『Re: rights』も名をはせたのは5年も前だ、そんなクランが僕たちに勝てるのと思うかい?」
朝比奈の明らかな挑発に龍ケ崎は不敵な笑みをやめた。しかし、その行動は怒りの為ではなく寧ろその逆だ
龍ケ崎は静かに口を開いた
「あと10秒だ」
「さっきから気になっていたんだがそのタイムには何の意味が?」
朝比奈のまたしても茶化すような口ぶりに龍ケ崎は表情一つ変えずに淡々と言葉を返す。
「あと5秒でお前らのクランは負ける」
その言葉に思わず口から笑い声が漏れそうになったのを抑えた。
「なんだい、そんなに自信があるのなら見せてもらいたいね」
朝比奈はそう言うと一つのビルの屋上をちらりと見た。
そこには仲間のスナイパーが一人いるのだ。位置的には龍ケ崎の真後ろとなり死角からの狙撃ということになる。
朝比奈は小さく頷いてその人物に無言の合図を送り、発砲音がしたのはそれとほぼ同時だった。
「えっ...」
あまりの驚愕に言葉にならない言葉を発したのは龍ケ崎でもなく内海でもなく『S.w.a.T』のリーダー朝比奈だった。
それもそのはず、頭の急所を正確に捉えた銃弾が隣のキールを捉え光となって消えたのだ
「どうして、何が...」
そう呟くと驚きのあまり一歩も動けずにいる。
龍ケ崎はそれを見ると笑みを浮かべて作戦の全貌を目の前の敵に語りだした。
「俺らは隙を作るために時間稼ぎをする必要があった」
未だ動揺を抑えきれない朝比奈は龍ケ崎の言葉の意味がわからなかった。
「どうしてだ、なんでキールが倒されるんだ。僕たちには死角はないはずだ、どうやって倒したって言うんだ」
その言葉を待っていたと言わんばかりに龍ケ崎は朝比奈に問いかけた。
「本当に死角が無かったとそう言い切れるか?」
「当たり前だ、僕たちは死角を補いあって隙をなくしているんだからな」
「そうだな、お前らは本当に隙が無いと思う。だけど一つだけ死角を見落としているんだよ」
「そんなはずは」
言い返そうとした朝比奈が言葉を言い切る前に龍ケ崎はハンドガンを握っているのとは逆の手で人差し指を立てて見せた。
その奇妙な光景に朝比奈は自身で考えることはせずにすぐさま反応をみせた
「何をしている」
「だから言っただろうお前らは一つだけ見落としている隙があるって」
龍ケ崎の挑発的な言葉の意味を未だに理解できない朝比奈は今にも堪忍袋が切れそうな勢いで語気を強めた。
「そんなはず無いだろう、見晴らしの良い場所からスナイパー二人が狙っているんだ。実際お前たちがここにきた時だって500メートル近づいて来た時でわかったんだ」
自信満々に言う朝比奈を目の前に
「それはどうだか」
龍ケ崎は人差し指を立てたまま言葉を続ける。
「上はガラ空きだぜ?」
その言葉の意味を一瞬理解できなかった朝比奈はしばらく立ちすくむだけだったが、ふと何かに気づくと龍ヶ崎が指差す上空へと視線を向けた。
「まさかそんな、馬鹿な事」
朝比奈はそのあまりの滑稽さについ口元が緩んでしまった。それは、視界の先にはひとりの人物が上空高くから降ってきていたからだった。




