『Re:rights』VS『S.w.a.T』
対『S.w.a.T』戦の当日、太陽は頭上から直射的に降り注ぐ交差点で相手と対面した。
「どうも、久しぶり」
かつては『LL+』のメンバーで現『S.w.a.T』リーダー朝比奈は目の前に立つ龍ケ崎を下から上まで見てから細長い腕で手を差し伸べる。
「こちらこそ、よろしく」
龍ケ崎は差し出された手を心良く握り返した。
歳は離れてはいるがおぼろげな笑みを浮かべるその姿は年が近いように感じられた。
第3戦
『Re: rights』vs『S.w.a.T』 『試合開始』
光に慣れて視界が晴れると一番先に見えたのは巨大な建物だった。
その建物は大なマップのちょうど中央にありそれをぐるりと城塞のごとくビルが囲んでいる。その光景は言うなれば現代風の城塞都市のようだ。
「すごいな」
飛ばされた場所はどこかのビルの屋上だったがその壮大な光景に誰もが口を閉じるのを忘れてしまうほどだった。
それも束の間、視界の端に目をやると経過時間49秒の文字が見えると龍ケ崎はメンバーに向かって声をかけた。
「それじゃあ作戦開始だ」
相手と対峙するにはまず敵の場所を知ることだ。龍ケ崎はホログラムを呼び出して状況を整理する。
「鴉野、敵の情報を教えてくれ」
「敵は遠距離武器が2人の近接武器が2人、まさにバランスが取れているな。」
龍ケ崎はその情報を頭の中に入れると顎に手を置いて考える。
敵のおおよその場所は先程、凛から知らされている。その情報と鴉野の情報を頭の中のマップに照らし合わしていく。
相手の遠距離、つまりスナイパーの二人は両者とも見通しがいい屋上にいるのは近接武器の二人はその視界に入る場所にいて囮として、尚且つ一斉に来る敵に対応する為だろう。
守りと攻めのバランスが絶妙の布陣だ。考えれば考えるほど龍ケ崎の口元は緩んだ
マップを頭の中に浮かべ敵の位置と自身の位置を照らし合わせる。
そうして、何通りの攻撃パターンを頭の中で繰り返して最善の作戦とタイミングを計っていく
「おい、龍ヶ崎聞こえてるか?」
耳元に鴉野の声が聞こえて意識を目の前のことに取り戻した。
「ああ、悪い。それでなんだ」
その反応に鴉野は呆れたと言わんばかりに一回ため息を吐いてから龍ケ崎に向けて言葉を投げかける。
「それで、作戦は話してた通りでいいんだな?」
「ああ、予定通り頼んだぞ」
言い終えると会話は終了し龍ケ崎はホログラムを閉じて重い腰を上げた。
隣を見ると手にハンドガンを握ったまま辺りを警戒している内海の姿があった。
「悪いな、護衛なんてさせて」
龍ケ崎と内海がいるのは道路のトンネルの隙間だ。会話をしている間や考え事をしている間はどうしても隙ができる、だからこうして凛と鴉野が情報を集めている間、内海には辺りを警戒させていたのだが
内海には荷が重かったのか、龍ヶ崎が立ち上がるのを見ると全身の力を緩ませて壁に力なく寄りかかった。
「そんな神経使ってへばってたら作戦で動けなくなるぞ」
そう言いながら龍ヶ崎も同じように壁にもたれかかった。
少し頭を使いすぎたようで痛みを感じるはずは無いのに痛むようでつい頭を押さえる
「龍ヶ崎さんこそ」
すかさず内海は小声で龍ケ崎の行動を非難した。しかしその表情は緊張からの開放による安心感からなのか頬を緩ませているように見えた。
それからしばらく龍ケ崎と内海との間には言葉は無いまま時間が過ぎるのを感じていた。
生活音がない地下の通路は人一人いない朝方のような独特な不気味さがあり、妨げられた真夏の太陽のような光を出入り口から覗くとそのミスマッチさに意識が遠のいていきそうな感覚を覚える。
そんな空気に耐え切れなくなった龍ケ崎は静かに口を開き内海に問いかけた。
「5年前の大会、あの大会の噂を知ってるか?」
「え?」
突然の事に内海は一瞬面食らったが直ぐに言葉を返す。
「えっと、MMOゲームが世界に広く普及したことでバーチャル間で色々なことができるようになった。その一つにバーチャル空間での戦争というのがあります。
架空世界では今回のようなことを除いて基本的には人が実際に死ぬことはありません。そんな事もあって目的としてMMO技術が開発された当初からそのような考えはあったようですね。
それはいつしか各国の軍事面でのパラメーターになりつつあり、大会で優勝できるか出来ないかでその国の立場は大きく変わったと言われます。それが5年前、初のAFW公式大会を前に異常なまでに加熱した各国は自国のプレイヤーの育成に力を注ぎ大会には各国の精鋭が出場しました。しかしその裏では賄賂を渡したとか飲み物に毒薬を入れたとか人を殺しただの相当なことをやったと都市伝説的に影で噂されていますね」
ここまでの話を話し終えると内海は呼吸を整えて龍ケ崎の言葉を待った。
しかし、暫く待ってもなかなか口を開かない龍ケ崎を見て不機嫌そうに苦言を言おうとした時、龍ケ崎は呟いた。
「もし、それが噂じゃなかったら?」
不敵に冷笑とも不満気とも言えない表情をしながら言ったその言葉に内海は絶句した。
それもそのはず、目の前にいるのは実際にあの大会に立った『Re: rights』の龍ヶ崎なのだから。
またしても訪れた静けさ
そんな中でも内海は搾り出すように口を開いた。
「でもそんなことはどこの国も言及していません、だから都市伝説として噂されているんですよ」
「そりゃあそうだ、あの大会での出来事を全部しゃべるような事すれば自分の国のみならず世界をも巻き込むんだからな、そんなことは誰も口に出さないだろうよ」
「そ、それはそうですけど」
反論しても意味がない事に最初から内海は気づいていた、だけどそれでも否定の言葉を言わずにはいられなかった。
またしても訪れようかとした沈黙を破ったのは龍ケ崎でも内海でも無かった。
「敵が動くよ」
ヒソヒソと聞こえるその声は凛だった。龍ケ崎だけではなく『Re: rights』全員に伝わる。
「分かった、今からそっちに行く」
龍ケ崎はホログラムを閉じると目の前の内海の顔を見た。
今の今で動揺を隠しきれない内海を見て龍ケ崎はハンドガンが握られた内海の手を自身の手で覆い隠す
「こんな時に変な話をするんじゃ無かったな、動揺させて悪い。だから今は落ち着いて目の前のことだけに集中しろ」
龍ケ崎に言われた内海はハッとして頭を左右に振ってハンドガンの握る手を強く握った。
「すみませんこんな時に取り乱してしまいました」
内海は大きく深呼吸すると宣言した。
「それじゃあ作戦を始めましょう」
龍ケ崎は無言で頷くと先に立って通路から出ていった。




