『Re:rights』VS『S.w.a.T』
「おーい、龍ケ崎起きろ」
頭の中で鴉野の言葉がしばらく反芻して聞こえたかと思い目を開けると横には俺の体を揺らす鴉野本人の姿があった。
「ああ、えっとあれ?」
寝ぼけ眼で状況を確認しようと周りをキョロキョロ見渡すともう見慣れたものとなったレンガ造りの壁が周りを取り囲むカフェのバーカウンターだと分かった。
「龍ヶ崎先輩、そんな所で寝て疲れない?」
呆れたと言わんばかりに両手を大きく広げて龍ケ崎のことを見つめる凛と鴉野
しかし龍ケ崎の頭は二人の姿を尻目に先程までのことを思い出していた。
あの日の出来事はもう随分と前の話だ、つまり今の今まで俺は昔の思い出を夢見ていたのだ。龍ケ崎は少し苦い顔をした。
「おい、龍ヶ崎お前体調でも悪いのか?」
思い出していた間にもずっと話をしていた鴉野は返事をしない龍ケ崎を不審がって表情を覗き込むようにして疑問を突きつける。
「ああ悪い、寝起きでちょっとぼーっとしててな。それで何の話だ」
「それがな、次の対戦相手が決まったみたいなんだがな。それよりも見てくれよこのステージ」
龍ケ崎は鴉野が指差すテレビ画面を見た。どこかの高層ビルやタワーなどの都市的なもののが静止画と地図のようなものが映し出されていた。
「ビルが立ち並び尚且つ広大なステージ、これほど俺の得意とするステージはないと思うんだ」
鴉野のこのテンションは前回の対『Universal Soldier』の試合で早々にデスしたからだ
まあ、あれは味方を庇ったんだからそんなにムキになることでもない俺は思うんだが、鴉野にとってみればあの悔しさが忘れられないんだろう。
「お前の気持ちもわかるけどな、相手のパターンを踏まえて作戦を考えるからな」
「分かってるって」
上機嫌に話す鴉野を見て心底羨ましい奴だと思った。龍ケ崎は改めて頭を振って目を覚ますとテレビの画面に映し出されている敵を注視する。
敵のクラン名は『S.w.a.T』
聞いたことはないが、どうやら近接と遠距離ともにバランスが良い戦力が持ち味で、戦闘時のハプニングにもそのバランスで対応して逆転勝利をしたこともしばしば、それを裏付けるように対戦成績は優勝が7回 準優勝8回とかなり良い。さすがトーナメント3回戦ともなればこれほどまでの強敵との対決になる。
「どうやら最近になって実力を表してきたらしいですね」
その耳慣れた声が聞こえた方向を振り向くと、ちょうど内海が二階から降りてきた所で俺たちの話を聞いていたのか挨拶も無しに展開したホログラムに視線を落として、相手の『S.w.a.T』 の話しを続ける。
「リーダーの朝比奈という方は、この『S.w.a.T』を結成する前に『LL+』というクランのメンバーでもあったそうです。」
その呼び名には龍ヶ崎も聞き覚えがあった。
『LL+』といえば5年前の後に伝説と呼ばれる大会での予選で対決したはずだ。あの当時は新進気鋭のクランとして名前が知られ始めていたが、そうか解散したのか。
だからというか、『S.w.a.T』のメンバーを見てみるとリーダーの朝比奈だけ他のメンバーと比べて年を取っているように見えた。
「それでですねこのクランどうやら戦闘力のバランスがとてもよくて長所と短所がうまい具合に補われているんですね」
「つまりは短所を突いて攻撃を仕掛けるのが難しい相手だってことだな」
龍ケ崎は再びテレビ画面に映し出されている相手の対戦動画を見ながら作戦を考えた。
戦い方の傾向は四人での連携した行動、個々の能力は飛び抜けて良いとは言えないが確実に敵を倒していく様は短所を長所として個々の能力を見事に理解して動いていると言えた
これまでとは確実に違う強さを秘める相手に龍ケ崎は口角が自然と緩んでいた
「何かいい作戦でも思いついたのか」
鴉野は龍ケ崎の緩んだ表情を見て確信を持って問いかけた。
「いや、まぁな」
「流石だな龍ヶ崎」
龍ケ崎は鴉野の軽い声色に不服そうに鼻を鳴らして瞳を閉じた。
「結論から言えば相手を倒すのはこれまでよりも断然に難しいだろうな」
龍ケ崎は瞳をあけてメンバーの顔を一瞥してから勿体ぶったように話を切り出した。
「相手に短所をカバーし合う長所がある。つまりは隙がないってことだ。しかしそれは逆に言うと隙ができると相手は弱いってことだ」
龍ケ崎はそこで話を一旦切ると一口コーヒーを飲み喉の渇きを潤し一息ついてから話を繋ぐ
「だから俺たちは相手の隙を突くために隙を作る」
はっきりいった龍ケ崎の言葉に一同の反応は意外にも冷ややかなものだった。
その証拠にこれまであまり作戦に口を出さなかった内海が誰よりも話に口を出すほどだった。
「今回の相手に限って言えば、相手がカバーできないほどの隙を作るのはかなり難しいと思いますけど」
内海のその言葉は他の二人の意見ともあっていたのか凛と鴉野も言葉を続いて龍ケ崎の作戦に口を尖らせる。
「確かに隙を作るのは正攻法だと思うけど」
「今回の敵に限って言えばそれさえも補ってくる可能性があるだろうな」
メンバーの三人とも、しかも昔から知っている凛と鴉野の二人が作戦を真っ向から否定しているなんて久しぶりの事だった。
しかし龍ケ崎は少しも動揺をしたり苛立ったりはしなかった。いや、むしろ不敵な笑みを浮かべて発言者である二人の顔を面白そうに見つめた。
先程も相手のリーダーを見て月日を感慨深く思ってたが身近な所でもそれを感じるなんて
この5年で『Re: rights』もメンバーである二人は随分変わったんだなと思う。
それは悪い意味ではなく様々な経験を積んできたから龍ケ崎の作戦に反論をしめしたのだ。
この二人は5年前より確実に成長している。そんなことを思うのも先程見た夢のせいなのだろう。
確かに二人の言っていることは正しい、こんな作戦は口に出す以前の問題だと野次られても当然だ。
しかしそれは当たり前の話で二人は最も大事な事を忘れている。
龍ケ崎は手の上に顎を置いて目の前のメンバーにまるで敵を挑発するような言葉を言い放った。
「俺らができないなんて誰が言った、俺らは『Re: rights』なんだ。それでも出来ないっていうのか」
龍ケ崎のその言葉にかつて最強と謳われたクランのメンバーである凛と鴉野の二人は顕著に反応を示した。
「確かに、これまでの試合であんまり活躍できなかったからストレス溜まってたんだよね」
「ああ、俺もこの前の試合で悔しい思いをしたからな、今回の試合で存分に暴れまわってやるつもりだったんだ」
二人は語気を強めて宣言した、二人にとっても『Re: rights』という存在は今でも内に確固たる地位を持っている。
龍ケ崎は二人の反応に満足すると視線を少し困惑気味の内海へと変えた。
「内海、お前は今『Re: rights』のメンバーだ、それでもこの作戦はむちゃくちゃだと思うか?」
龍ケ崎は『Re: rights』というクランに絶対的な自信を持っている。
その視線に内海は問いかけられた質問よりも一体どこからこの自信が湧いてくるのか気になった。
「私はこのトーナメントでこのクランが優勝できると思います。だけど一つだけ疑問が、龍ヶ崎さんが何度も言う『Re: rights』の自信というのはどういうことなんでしょうか?」
質問を質問で返され龍ケ崎は一瞬考える素振りをしたが直ぐに質問の答えを口にした。
「前にも言わなかったか?メンバーのみんなは俺をリーダーとして信じてくれる、だから俺もみんなを信じて作戦を考える」
龍ケ崎は言葉と共に目の前の二人を見た。『Re: rights』のメンバーである龍ケ崎、凛、鴉野の三人はお互いにお互いを称え合っているかのように不敵に笑みを浮かべた。
その光景に一人取り残された内海はふと龍ケ崎と交わした会話を思い出した。
「俺は俺を信じる誰かに死なれるのはもう嫌なんだ、だから俺はお前の為に動きはしない自分の為に動く。ただそれだけさ」
龍ケ崎は強い、それはこれまでの試合を見てきて説明するまでもなく証明されている。
目の前の龍ケ崎に自身の命を託したあの時には曖昧にしか思わなかったが
今、目の前で三人を見てそれよりもっと大事なものがある事に気づいた。
なるほど、と内海は目の前の同じく『Re: rights』のメンバーである三人を改めて一瞥すると誇らしげに言った。
「『Re: rights』が強い理由がわかった気がします。」
個々の能力もさる事ながらこのクランのお互いを認め合う絆が強い
心のそこからお互いを信じているからこそ『Re: rights』には誰にも負けない勝つ自信を持っているのだ。
「それで、お前はどう思う?」
龍ケ崎は再び内海のことを見ると面白そうに先ほどの質問の答えを問いかける
その質問の答えは言葉にするまでもなく決まっていた
「もちろん、『Re: rights』なら勝てます」




