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『Re:rights』  作者: 藤崎透
Re:vival
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A boring day

内海は後ろを振り向いて立ち止まっている俺を不思議そうに見つめた。何かおかしなことをしただろうかという表情をしている。

たしかにこの世界を作り上げた内海にしてみれば当たり前なのだろう。何か言われる前に俺は内海と同様にゲートを飛び越えた。

ゲートを過ぎると真っ先に目がいったのは巨大な観覧車だった。外から見てもそのデカさに首が痛くなりそうだったのに真下へと来るとさらに大きく見えた

「すげえ」

柄にもなく龍ケ崎は心に思ったことをそっくりそのまま声に出していた。

今や様々物がVR技術やAR技術を占めるようになった現実世界でこれほどの大きさを誇る遊具というのは見たことがない、またしても何か話し始めた内海をよそに俺は他の建物に目移りさせていた。

クネクネコースが曲がっているジェットコースターに煌びやかに回転しているメリーゴーラウンド

「龍ケ崎さん行きますよ!」

目を奪われているうちに内海の大声にも気づかず腕を掴まれた事で呼びかけられている事に気づいた。

腕を掴まれたまま内海に導かれて連れて行かれると、目的地は大きな館だった。

外装はさながら誰も住んでいないような廃虚そのもの、人を拒絶する威圧感がその建物にはあった。

「おいちょっと待て、これってもしかして」

「そうです想像通り、お化け屋敷ですよ」

何が面白いのか内海は満面の笑顔を崩さない、それを見て俺も笑い返した。しかし俺の方は苦笑いを浮かべるしかなかった。

「ふざけるな、誰が好き好んでこんなところに入るか」

龍ケ崎は踵を返してその場から離れようとした、言葉通り誰がこんなところに好きで入るんだ

しかし、その行動は腕に掴まれた手によって阻まれる。

「もしかして龍ケ崎お化け屋敷苦手なんですか?」

まるで今状況を面白い大道芸でも見るかのように笑顔の内海が問いかけた。

「苦手なんかじゃない、ただ入った事がないだけで」

「入ったこともないのに何怖がってるんですか!ほら早く入りますよ」

俺は抵抗しようと必死に地面を蹴りあげたが、それは結果として内海の意外な力を知ることになった。

お化け屋敷を出ると俺は膝に手を置いて呼吸を整えた。


「何でだ、NPCはこちらから接触しなければ反応しないんじゃなかったか」

入口をくぐった時にそう思っていたのだがその考えは直ぐに打ち消された。薄暗い中を一時間近くさまよった。

「お化け屋敷なんですからそこらのNPCと違っていて当たり前じゃないですか」

たしかにお化け屋敷でお化けが驚かさないなんて間抜けな話聞いたこともない、それにしても内海は自分が作った作品を眺めるように一言も驚きの声は出さなかった。

ネタが分かっているから当然といえば当然なのだが何だか腹立たしい思いが募る。

「それじゃあ次はあれに乗りましょうか」

視線を地面から内海の指差す建物へと変える。そこにあったのは最初に入り口付近でみたジェットコースターだった。それをみた瞬間俺は一歩後ずさりした

「それはもう少し後の方が...ほら次は観覧車とかが良いかなって」

俺の言葉は内海にとってみればただの戯言だったらしく再び俺の腕を掴んだ。

「何を言っているんですか、観覧車は一番最後だと相場が決まってます」

俺は内海に連れられるというよりかは無理やりジェットコースターに押し込められた。

抵抗むなしく俺の体に安全バーが下ろされ警報音がなるとともに出発した。


「気持ち悪い」

ジェットコースターを降りて最初の一言だった。見えるもの全てが目まぐるしく回転していて膝に手を置いてからというもの一歩も動けない。

「いやいや楽しかったじゃないですか。それに龍ケ崎は試合とかでこういうのなれていると思いました」

対して内海は何事もなく仁王立ちで俺の事を見下す、どんな三半規管をしているんだろうか、と訝しい反面羨ましくも思った。

「あれは、試合であってこれは違うだろ」

そんなことを言っていると、お構いなしに内海は指をさした。

「次はあれに乗りましょう」

そう言って提示したのはコーヒカップだった。回っている姿を見ただけで吐きそうになったが俺の反論を聞くよりも先に内海は俺の腕を力強く握っていた。

もうこうなれば抵抗することが無謀なことだと学んだので俺は素直に連れて行かれる事にした。

コーヒーカップに二人で乗せられて何回転しただろうか、内海は思い思いにコーヒーカップを回し、終わる頃には俺は足元もおぼつかなくなっていた。

気持ち悪いを通り越して脱力感が全身を襲った。

「そうですね次はあれとかどうです」

そんな俺を気にもしないで内海は高所から急降下する乗り物を指さした。

「もう、勘弁してくれ」

隣で楽しそうに微笑む内海に今にもかすれそうな声で懇願した、もうこれ以上は身が持たない。

「しょうがないですね」

提案を断られたのに全く不貞腐れた様子を見せないのは最初からこうなることを予想していたからだろう。

「それじゃあ、あれに乗って少し休憩しますか」

内海が指さしたのはこの遊園地を上で最初に語った巨大な観覧車だった。

回っているのはこれまでとは変わりはないが、しかし動きはこれまでとは随分と違いゆっくりだ

しかもあれなら座っているだけで速度も変わることもない。

「まぁ、あれなら大丈夫だろう」

今度は無理やり連れられることもなく自分の足で観覧車の下まで足を運んだ。

やはりこの遊園地の代名詞的なものなのだろう、乗車口には人の列が長く並んでおり後ろを見ると2時間待ちのカードを持った従業員が最後尾に立っていた。

しかし俺たちは列に関係なく人だかりを抜けると上から来るゴンドラに飛び乗った。

俺と内海は車内に対面する形で座った。観覧車はその巨大さゆえにあまり早くは感じられなかった。

そんな折、唐突に内海は西日を浴びながら口を開いた。

「どうして私がこの施設を作ったかわかりますか?」

「うん?いやお前の趣味とかじゃないのか?」

「そうなんですけど…両親が忙しい人でこういう場所に連れられた記憶がなかったんです。だからこうして自分の世界の中に作ったんです」

「そうか」

龍ケ崎はその言葉を聞きながら顎に手を置き外を眺める。ジオラマ模型のように小さな街が地平線上に広がっており、その先にはもうそろそろで姿を消そうとしていた。

その光景を見ているといつの日かのことを思い出す。龍ケ崎は目の前の内海を見遣る。

「そろそろ話してもいいんじゃないのか」

龍ケ崎はそう言った後、随分と抽象的な質問を投げかけたと思い続けて言葉を付け加えた。

「お前が俺を呼び出すなんて他に理由があるんだろ?」

その補足に内海は龍ケ崎からの視線を逸らすように窓の外に向けて答えた。その表情は先程までの煌々とした物とは対照的で、どこか落ち込んでいるようにも見えた。


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