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『Re:rights』  作者: 藤崎透
Re:vival
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A boring day

目を覚ましここが自分の拠点なのだと理解したのに数秒かかった。この世界に来て数日が経ったというのに未だ受け入れてはいないのだろうか、自分自身のことなのにその問題の答えを見いだせてはいない。

受け入れていないのか、受け入れたくないのか。そんなことを考えながら自室のドアノブを捻って廊下へと出た。

ゲームの世界だというのに空気は生ぬるく夏の陽気を感じさせる。どうしてこんな設定にしたのかは製作者にしか分からないだろうがもっと過ごしやすい気候選びはできなかったのだろうか、近くにいるのだから言うのは簡単だ、しかし当の本人は変えようとはしないだろう。いや、今現在だと変えることはできないと言ったほうが正確なのだろうか。

さて、話は変わり、ドアをあけて廊下を通り下のカフェでコーヒーを飲んでいた時だ。

年齢は聞いた事ないがおそらく俺よりも年下であろう女子から突拍子もなくとんでも無いことを言われたのだ

「今日、私と一緒に出かけませんか?」

「ごふぇ、ごふぉ」

口に含んだコーヒを盛大にぶちまけた。ついでに咳き込んで相手を余計心配させた。

「龍ヶ崎さん大丈夫ですか?」

相手から見れば予想外の反応だったのだろうか、いやそうでも無いだろう。顔を見るとニヤニヤして少し馬鹿にしているのが分かった。

「いや、大丈夫だ」

咳き込みながらも平静を保とうと急いで吹き出したコーヒーを拭いた。

俺の反応に満足したように「まあいいです」と内海はうすら笑いを浮かべながら蔑んだ前置きを言ってから話しを続ける。

「次の試合まではまだ時間があります、たまには外に出て気分をリフレッシュするというのも一興じゃないかと思って」

「なんでそれが俺となんだよ」

「だから、たまには外に出るのもいいんじゃないかと思ったんですよ。龍ヶ崎さん現実世界でもいつも部屋に引きこもっていて外に出ないそうですし、仮想空間くらい外に出たほうがいいですよ」

体の隅々に釘が刺さった気がした。内海はよほど面白いのか先程よりも口角を上げて笑みを浮かべた。

「分かった、ついて行けばいいんだろ」

「物分りがよくて良かったです、それじゃあ早速行きましょうか」

内海はホログラムを呼び出してなにかのボタンを押そうとした。それを見て俺は急いで言葉を挟んだ。

「ちょっと待て、行く前に一つ条件がある」

「条件ですか?」

そう言うと内海は少し後退りする。想像するに俺が変なことを言うんじゃないかと身構えているのだろうと思う。

「大丈夫だ、お前が想像しているのとは違う」

「それじゃあ、なんだって言うんですか?」

「俺の悪口を言うな」

内海にとって俺の条件は心底意外だったらしく驚いた表情で反論する。

「私がいつ龍ケ崎のことを愚弄するようなことを言いました?」

「おい、お前今までの話を全部反芻してみろ」

「そうですね、私は思ったことを口にするタイプなので気づかないうちに龍ケ崎さんに対して悪口等を言ったかもしれないですね」

自信満々に言われ逆に面食らったのは俺の方だった。そして気づいた、この女は根っからこの正確なのだ、これ以上反論したところで勝ち目は無いに等しいだろう。性格は違えどそんな人物を俺はこれまでに2人程知っていた。

「それ以外に何か言うことはありませんか?」

俺は呆れたように大きなため息をつくと残りのコーヒーを一気に飲み干した。

「それじゃあ、さっそく行きましょう。今日はいい天気ですからねここしかないでしょう」

内海が再び指先を動かしホログラム上にあるボタンを押すと俺の視界はたちまち光に包まれた。



光の余韻が少し残るなかで龍ケ崎はおもむろに肌に当たる熱射を感じた。

空を見てみると容赦なく日射が降り注ぐ外だった、しかも嫌になるほど雲一つなく空は晴れている。

そんなことを思っていると目も次第に慣れて周りの状況を確認することが出来た

まず気づいたのは大勢の声に混じって聞こえる悲鳴だ、それもいくつかの集団となって聞こえる。それに目を凝らしてみると多くの巨大建造物が立ち並んでいるのが見えた。

「ここは、遊園地か?」

「そうです、私一回は行ってみたかったんです」

内海は妙に興奮したようで感激したように俺の前へと回り込んで説明を始める。

「今の時代ここまでの規模、しかも初歩的な機械だけで動く無機物というのはなかなかお目にかかれませんからね、ここは仮想空間の中でもかなり力を入れた場所です」

その後、これだけの規模を作り上げるのにかかった日数、システムの管理などを降り注ぐ太陽の下で話が終わらないんじゃないかと思うほど随分と長話聞くことになった。

その姿はまるで自身の興味、気になった事を逐一親に聞いてもらいたいとせがんでいる小さい子供を連想させた。

しかし、それがしばらく続けば聞いている方には苦痛をともなう、しかも興味がないこととなれば尚更、長話は御免だ。

「おいおい、もういいだろう」

俺はまだ話している内海を無理やり遮る。

話を遮られた内海は不服そうだったが一回ため息混じりの吐息を出すと何か吹っ切れたように話を変えた。

「それじゃあ、さっそく園内に入りましょうか」

その言葉で前に歩みだした内海の後ろ姿を追いかけるように俺も足早に歩み始める。

それにしても規模がでかいことが外観だけ見ても分かる、どのくらいの大きさかは先ほど内海が興奮気味に話していたがよく聞いていなかったので分からない。

先立つ内海について行くとしばらくして俺は入場門前で立ち止まった。待っている人の数は5つほど少人数の人の列ができている程度だった。

内海はその列に目もくれずに横をすり抜けてゲートを飛び越える。そんなことをしたら普通は怒られる、いや、そのくらいで済むのならまだいい方だが俺は改めてこのゲームNPCはこちらから接触することが無いとまるで無関心なのだと再認識させられた。


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