Beginning of nightmare
『J.L.Q』との勝負中に意識が飛び、倒れた俺は会場近くの病院へと運ばれた。
検査の結果は度重なる試合で異常なまでに精神力を使った為による疲弊と判断されその日一日は病院で過ごすこととなった。
そんな俺の事を心配して意識を取り戻して目を覚ましたときには凛と鴉野の姿があった。
「先輩、目が覚めましたか?」
「あ、ああ…」
そう言われて、意識が朦朧とする中で曖昧に言葉を口にする。そんな俺を見てか心配そうにベッドを覗き込む凛。その隣には同じようにして鴉野が立って俺のことを見つめているのが分かった。
「ここは…病院か?」
「ああ、お前『J.L.Q』との試合中にぶっ倒れたんだぜ?」
「そうか…」
そう聞いて俺は試合のことを思い出した。
あの時、九十九の攻撃を受けて倒れていく体から必死に腕を伸ばし向けたハンドガンが、あの引き金を引けばあの九十九を倒すことはできただろう。
あともう少しで、俺の体さえ倒れなければ
「龍ケ崎…龍ケ崎!」
「あ、な…なんだ?」
そんなことを考えていた為か鴉野が心配そうに俺の顔を見つめていた。
「お前、本当に大丈夫かよ。なんか顔色悪くないか?」
「いいや、全然大丈夫だ」
そう言って俺はベッドに手をかけると体を起こして上半身を起き上がらせようと力を入れた、だが腕に力を入れた途端、自分の腕とは思えない程に重く感じストンと力が抜けてしまい再び後頭部に枕を付ける形になった。
「先輩、あんまり無理しないで下さい。お医者さんからは今日一日は安静にって言われているんですから」
「分かったよ」
凛の言葉に俺は言うことを聞かない体をベッドに深く沈めて辺りを見つめた。
病室は個室で窓からはすでに暗くなりきった夜の街並みが見えて不意に時間を見てみると時刻は既に夜の9時を回っており逆算してみても約5時間程眠っていたことになった
その時間の進みに驚きながらも、俺はもう一度辺りを見渡して改めて疑問に思ったことを凛と鴉野の二人に問いただした。
「そういえば、渉と若葉は居ないみたいだけど帰ったのか?」
「それが龍ケ崎先輩を病院に運ぶ為に救急車に乗せる時には、もう二人の姿は無くて…」
「さっきから電話しているんだが、二人共出なくてな。俺たちもどこに居るのか分からないんだ」
二人の言葉に俺はベッドに寝ながら自分の携帯端末から二人に連絡を試みてみたが電源を入れていないか通話圏外域にいるために出ることはできないと弾き返されてしまった。
俺は携帯端末をしまいベッドに横たわりながら天井を見つめながら嫌な予感がしていた。
これから何かが起こる。そんな気がしてならなかった。
その時だった、俺の病室のスライドドアが静かに開いた。と開かれたドアから一人の見知らぬスーツ姿の男がひょっこりと現れると腰を曲げて整えた髪を見せつけるように軽いお辞儀をする。
「どうも、こちらは龍ケ崎一さんの病室で間違いないでしょうか?」
「あ、ええ。そうですけど...」
「よかった。私、蜂屋と言うものなのですが、龍ケ崎さんと少しばかりお話がございまして」
「話...ですか?」
突然の見知らぬ人物による来客に驚きながらも、俺は冷静にその人物のことを観察するように見つめた。全身黒いスーツを着こなし、白髪まじりの整えられた髪、落ち着いた物腰と口ぶりから年齢は40代後半だと思えた。
その蜂屋は俺を見つめる目を凛と鴉野に向けると言葉を濁した。
「ええ...なので、私と龍ヶ崎さん二人にしてもらえないでしょうか」
蜂谷の呼びかけに凛と鴉野は顔を見合った
「まぁ...そういう事なら」
「こんな時間だし、俺達は帰るとするよ。龍ケ崎、無茶はするなよな」
「ああ、分かってるって」
そう言うと二人は荷物を持ってドア付近にいた鉢屋に一礼して病室の外へと出て行くと、個室の病室に二人きりになった蜂谷はおもむろに話を始めた。
「何か見舞いの品でも持って来れればよかったんですけどね。なにせ時間が無かったもので手持ち無沙汰で申し訳ないです」
そう言いながら、ベッドの足元に置いてあった椅子を横まで持っていって腰を掛けるとベッドに寝る俺を見下ろすようにすると一回、咳払いをしてスーツの内側のポケットから細長い金属の入れ物を取り出すと流れるようにそれを開いて中から一枚の紙を取り出し、それを俺に渡す
「改めて、私の名前は蜂屋久といいます」
渡された名刺を受け取った俺はそこに書かれていた文字を見て驚いた。
『外務省 国際戦略部 部長 蜂谷久』
「外務省って、なんでそんな人が俺なんかのところに?」
驚く俺に鉢屋は名刺入れを元のスーツの裏にしまうと静まり返った病室に落ち着いた声が響く
「龍ケ崎さん、いや君はこんな話を聞いたことはあるかな?」
そう言うと鉢屋は自身の携帯端末を取り出すといくつかのニュース記事のようなものを俺にも見えるようにホログラムで広げて表示させた。
その中を見てみると20年以上前のVR技術による現実世界と仮想空間とを結びつける技術実験が初めて成功したというものから『AFW』が発売されセカンドティーンが生み出された事、そしてつい最近の『AFW』世界大会のことまでありとあらゆるものだった。
「これら全てに共通したものは何かわかるね?」
鉢屋はホログラム越しに俺の顔を覗き込み訪ねた。がそれは俺だけにしか分かるものではない
「全て、仮想空間技術に関する記事ですよね」
誰がみてもそう言うだろう言葉に鉢屋は大きく頷くと、ホログラムの画面を右から左へとスライドさせて先ほどの記事の中にあった20年以上前の記事を拡大させたものを表示させた。
「これは、今から22年前の2019年に南川研究室という所でAR技術とインターネットを駆使しメガネ越しに日常にあるものを識別、情報化しメガネをかけた者に伝える、ウェアラブルコンピューター、『プロトタイプLib00』を作ることに成功したという記事だ」
「ええ、そうみたいですね」
俺はホログラム上に表示された文字を見つめながら言った。
そんな俺を横目に鉢屋は再び指をスライドさせて新たな記事を表示させる。




