『AFW』 preliminary tournament
仮想空間では体力的には疲れないはずなのだが、どうしてか俺は息が荒くなってしまう
時刻を見てみると先ほど凛に言った時刻は残り35秒、距離にしてみると約500メートルと言ったところ。
俺は起き上がると走り出し先ほどとは違う方向の屋上の縁から飛び降りた。階数にしてみれば10階程の建物から飛び降りて地面に接触するのは3秒も無いが、その高さから地面に落ちれば落下ダメージは計り知れない。
だからビルから飛び降りる間に、再び『Jump Hock』を手にして通りを挟んだ建物へと標準を合わせると放ち距離を稼ぐと同時に地面に近づいた時に降りると縄を握っていた手を離して体のバランスを取りながら再び走り出して目的の地点へと向かい始めた。
俺の行動に不意を突かれた相手は動くのが遅くなったが、しかしすぐさま俺の後ろを狙うようにして追いかけてきた。その姿を見ながら俺は残りの時刻を確認した。
「残り10秒…」
小さく呟くと同時に俺は凛に言葉を投げかけた。
「残りあと9秒だけど、そっちは大丈夫か」
「何とかする」
そういう凛は厳しい表情を見せるが、今はそんなのを庇う時間もなかった。
というのも後ろを振り向くと俺の背後に迫り来る2人の敵が銃口を向けようとしていたからだ、その光景にすぐさま路地を曲がって標準を逸らすと再び凛に向かって叫んだ。
「カウント!5…4…3…2…1」
そこまで言うと俺は路地から大きな通りに飛び出した。瞬間広がる白い光に包み込まれる。そんな中で俺は振り向きハンドガンの銃口を出てきた路地へと向けて呟いた。
「ゼロ…」
カウントがゼロになった瞬間、飛び出してきた敵はその光に飲み込まれると同時に俺は銃の引き金を引き複数発の銃弾を放ち相手の体力を減らすと同時に遠くからも銃声が鳴り響く、それは遠距離から狙う鴉野のスナイパーの銃弾だった。
けれど、ここまで勝ち上がってきたクランがそんなに簡単にやられるわけはない事は分かっていた。その言葉通り、鴉野の銃弾を避けると、引き続き俺に向かってくる。
「かかった」
口元を緩ませった俺の本当の意味、それは敵をその場に引きつけた意味がそこにはあったからだ。
その場というのは、異なるステージとステージとの境目なのだが、その場所というのは場所が場所なだけに少し注意が必要なのだ。
というのも、このステージの境目には実際の国や県の境のように東から西の中央付近へと川が流れているのだ。
整備されているとはいえ、川の中へと落ちてしまえば反撃する余地もない、それに俺たちがこの時刻に他のクランを引きつけたのにはきちんとる理由がある。
『AFW』内での時間で午前5時というのは丁度陽が昇る時刻でこの当時のゲームの使用上、陽が昇るとステージのエフェクトが夜から朝へと変わる為、日陰にいなければ一瞬だけまるで閃光弾を食らったような状態になる。
さらに言えば、登ってきた陽が川に反射すれば目もくらむ事は間違いない。
「くわッ」
ビルの合間から出てきた相手はその光に飲み込まれる視界を遮るように腕で目を隠し、歩みを止めようとしたが、そんなにすぐ足を止めることは出来ない。
次の瞬間には相手は自ら飛び込むようにして水しぶきを上げ、状況が理解できといったような表情を浮かべたが、俺は川の上からその光景を見ながら冷静に銃口を向けた。
「1、2、3…」
川に落ちた敵は反撃をする事も出来ずに俺たちにやられていきそのまま二つのクランを全滅させると目の前には勝利を告げる文字が表示された。
「凛も鴉野も大丈夫か?」
その問い掛けに俺と反対側に立った凛は大きな溜息をついてその場に倒れ込んだ。
「無茶苦茶な作戦だと思ったけどなんとかなったね」
「でもどうにかなっただろう?」
「本当、龍ケ崎は結果論なんだからな」
呆れかえる鴉野に俺は少し頬を膨らませた。
「俺はお前たちの実力を信じて作戦を考えてるんだ、決して結果論なんかじゃないぜ」
その言葉にメンバーの二人は笑みを浮かべると同じように俺のことを見つめた。
「知ってるさ、そのくらい」
「龍ケ崎先輩の事を信じていますから」
言いながら、俺は光に包まれる体に委ねてその姿に頬を緩ませた。
「 関東予選 Aグループ勝者 『Re:rights』 」
関東代表大会予選Aグループを制して筐体を出ていくとそこには対戦したクランたちが出迎え拍手やら喝采やらを俺たちに送った。その人ごみの中をかき分けて二人が近づいてくると俺に近づいてきた
「龍ヶ崎くん、おめでとう」
「やったな」
渉と若葉のその姿に試合が終わったことを実感してつい笑が漏れてそれにつられるようにして二人も笑を浮かべたが暫くすると俺は思い出したように二人に聞いた。
「Bグループは誰が勝ったんだ?」
「ああ、それは…」
渉が言いかけたとき、目の前に広がっていた人々の歓声が一転して静まると、それに合わせたように人ごみの中央から道が開いていく
その光景を作り出した張本人は何を隠そうその圧倒的な雰囲気を出す九十九とその後ろにつづいて歩く『J.Q.L』のメンバーだった。
「やぁ、Aグループは君たちが勝ち上がったみたいだね」
冷たい笑を浮かべた九十九の口ぶりに俺は察しがついた。
「じゃあBグループは…」
「私たちが勝利したよ」
余裕の笑を見せる九十九、それはまるで自分たちの力を見せつけているようだった。
そんな姿に周りに居た人間達は次第にざわめき始めた。
それを感じてか九十九は大きく咳払いをすると俺たちを改めて見つめて口を開いた。
「これから優勝クラン会見があるから君たちもそろそろ行かないとな。それにここは人が多すぎる」
「はぁ…」
九十九は振り向いて再び人混みが避けて出来た道を歩き出すと会場をそのまま真っ直ぐに歩いて行き、やがて消えていく
その姿を追いかけるように見つめていた俺に同じように見ていた渉が小さく呟いた
「6時間だって…」
「何がだ?」
「Bグループで決着がつくまでの時間、『AFW』内で6時間だから実際には2時間30分位だった」
「そんなに早く…か」
俺たちが試合が終わったのはゲーム内での時間で約14時間、現実世界だと5時間と言った所。しかし相手のグループが決して弱かった訳ではない、関東の都県を代表するクランがいた中での勝利
「まぁ…でも倒した人数は9人だから僕たちに比べたら少ないんだけどね」
渉は後付けをするようにそう呟くと人ごみをかき分けて出てきた凛と鴉野に手を振って呼び寄せると俺たちに試合で倒された事を謝ると共に会場の中央に設置された大きな時計を指差した。
「あと10分で優勝クランの会見が始まるらしいから急いでその会場に行かなくちゃ」
「そうだな」
俺は一応に渉が指先の時刻を見つめると、先程より人が少なくなった人ごみの中をかき分けて見えなくなった九十九の後を追いかけるように静かに歩き出した。




