For a fight
こうして俺たち『Re:rights』は無事に東京予選を制した俺たちは一ヶ月後には関東7つの都県の代表、それぞれ2クランずつとの戦い関東代表大会が控えていた。
そんな中でも俺たちは高校生である以上、高校に通いながら練習に明け暮れる日々に身を費やしていた。
「注意すべきは千葉代表の『Dead And Clan』神奈川代表の『JINA』そして東京代表の『J.L.Q』ってところかな」
「まぁ、強豪が揃う関東地域の代表クランなんだから矢薙がいったクラン以外も実力者揃いのクランだからな」
そう言って渉と鴉野の二人は手持ちの端末を操作し試合についての情報を競技場の休憩スペースのベンチに座りながら深く読み込んでいるようだった。
俺はそんな二人を遠くに見ながら自販機で飲み物を2つ買うと一つを若葉に渡して隣に座った。そんないつもとは違う環境で俺たちが練習していたのには理由がある。
東京代表大会を勝ち抜いた者には練習スペースとして屋内テニスコートとして使われていた場所を改築した場所に新たに練習場と題して作られた『AFW』公式練習場なる物の24時間使用許可が与えられたので俺たちはいつもの喫茶店ではなくその施設を利用して練習をしていた。
「だけど、凛がいないとなると実践形式での練習が出来ないから難しいな」
東京代表大会で優勝し、関東大会へと駒を進めた大事な時期にどうして凛がいないのか。それは単純な話だ。
隣に座る若葉は俺の言葉に口を挟むように身を乗り出して俺のことを見つめる。
「しょうがないじゃん、凛ちゃんは受験生なんだし無理に練習にこさせる訳にはいかないよ」
「まぁ、そうだよな…」
凛はこの時、中学三年生しかも関東大会の開催日は2042年の2月の後半からとまさに受験生にとっては一番大事な時ということで参加するのは難しいだろう。
「だけど土日にはちゃんと練習するって言ってるし」
「そうだけどなクラン戦は4人対4人だからな。もうひとりいないとまず試合を始めることもできないってお前だって知ってるだろう?」
ゲームシステム上、最初に鴉野と対戦したときのようにクラン戦での人数差がある状態での戦いはそれまで可能だった。しかし、数年前から人数差を不正利用してポイントを稼ぎランキングの上位に入るなど不正とまではいかないがレギュレーション違反の行為が多発。運営側も手を出さずにはいられなくなり、クラン戦つまり4vs4の対戦は原則として人数差が無いようにしなければ試合すらできなくなってしまったのだ。
関東大会が近いのに凛がいない以上は模擬的な実践形式の練習が制限されてしまった状況をどうすれば打破できるのか頭を悩ませていた。そのときだった。
「だったら私が凛ちゃんの代わりに出ようか?」
耳元でつぶやかれた言葉に俺は驚き言葉の主である若菜を見つめる。
「お前、また変なこと言って…」
「この前みたいに考えなしに言ってるわけじゃないよ、凛ちゃんが来れない時だけでも試合の数合わせとしてでも参加したいの。もちろん皆の迷惑にならないように龍ヶ崎くんの言うことは聞いて行動するし『Re:rights』に勝ってほしいの」
俺は瞼を閉じて小さく考える。
今の現状では他の相手と対戦することは出来ない、そうなればこれからの関東大会にも影響が出るかも知れないのは、避けるべき事柄であることはここまで這い上がってきたクランとして当然の義務のようなものだ
「はぁ…わかったよ。俺たち『Re:rights』の為に参加してくれ」
「うん、わかった。ありがとう龍ヶ崎君」
若葉はエクボを深くして笑を浮かべると同時に立ち上がった。
その行動に俺はもう一度大きく息を吸い込むと立ち上がり渉と鴉野の元へと歩み寄って行き俺が説明を付け加えるまでもなく、渉と鴉野の二人は限定的ではあるが若葉が加わることに賛同してくれた。
そして、時間がない状況なので俺たちはすぐさま立ち並ぶ『AFW』の筐体の中へと踏み出すと試合を開始し始める。
しかし、いきなり本番というのも無理があるのでまずはオフライン状況でのNPC相手にクラン戦を始め、準備が終わり目の前がだんだんと見えてくると新しく若葉を見て鴉野は面白そうにしながらも不安を口にした。
「だけど、篠川は実戦経験はあるのかよ?」
「ううん…昔に龍ヶ崎くんと渉くんにちょっと教えてもらったくらいで実際に戦ったことはないよ」
「まぁ、最初から若葉には戦わせようとは思ってないさ」
そう言って俺は手元のハンドガンのセーフティーを外すと若葉のことを見つめる。
「若葉にはここで待機しながらマップを見てて貰う。そして何か反応があった時には俺たちに連絡してくれ」
「うん、分かった」
大きく頷く若葉を俺は見て俺は小さく笑を浮かべると振り返って相手の陣地を見るように正面に向き直った。
「それじゃあ、行くか」
練習相手と言っても、相手のNPCのレベルは人間のクランで言えば上の下といったところだ、下手に動けば負ける可能性だってそう低くはない。
慎重かつ大胆に俺と渉はステージの建物の物陰に隠れながら歩いていく
「渉、敵はいそうか?」
「いや、物音一つしないから、ここには誰もいないかも知れないね…」
廃墟となった学校らしき建物の中を二人して歩いていく
一歩を踏み出すたびに今にも抜け落ちそうな木の床はミシミシと不気味な音を立ていくつかの割れた窓からは生温かい風が校舎内を吹き抜け校舎内に生えている草木は幻想的な木漏れ日を作り出す。
そんな校舎内は俺たち二人以外には誰もいないようであった。
しかし、俺にはどうしても気がかりに感じることが有りそれは同時に渉にも共通した認識だった。
「静かすぎる」
建物的に誰もいない状況というのはゲームの世界とてどこか不気味な雰囲気を放っている。
だけど、俺が感じていた不気味さはそのようなものではない。
「嫌な予感がする」
そういう俺に後ろを歩く渉が口を開こうとした時だった。




