立食パーティー
「社長、本日のスケジュールですが、10時、13時、15時に面談が入っておりまして、夕方18時より得意先主催のパーティーへご参加いただく形になっております。」
「・・・面談多くない?」
「やはり業界の中でも日の出の勢いと言われる、弊社ですから。みんなが社長にお会いしたがっているということです。」
「無駄なお世辞はいい。ちなみにパーティーは立食形式か?」
「はい。立食スタイルですね。」
「・・・行きたくない。」
「今、何とおっしゃられたんですか?」
「行きたくないと言ったんだ。」
「パーティーに、ということですか?」
「それが立食パーティー形式なら行かない。絶対に行かないもん!」
「社長・・・、子供じゃないんですから。お願いしますよ。」
「立食パーティーは落ち着かない。」
「まあ立食ですからね。出席者達も自由に動けるからこそ価値があるわけで、それぞれに落ち着かれても主催者サイドが困ってしまいますよ。」
「それにいろんな人と名刺交換をしなければいけない。」
「ある意味、パーティーというのはそれが目的じゃないですか! わがままを言わないでください。」
「わがままと言ったか!」
「はい。言いました。」
「ここまでがんばって仕事をやってきたんだぞ。そんな私が立食パーティーが嫌だということがわがままなのか?」
「はい。それはずばり、社長の個人的なわがままです。仕事ならみんなそれぞれががんばっています。社長だけががんばっているわけではありません。」
「言い切りおったな・・・。」
「サクサクと仕事を進めたいので、ここら辺でこの話は終わりにしてもよろしいでしょうか?」
「いや。よくない。ちなみに畠山君、君は立食パーティーが好きかね?」
「好きではないです。というかパーティー自体があまり。」
「だろう? やっぱりそうだろう?」
「そんな鬼の首でも取ったかのように喜ばれると、ちょっとひいてしまうんですが。」
「パーティーが好きな奴は大体、裏で何かをたくらんでるやつが多い。」
「・・・偏見ですよ、それは。」
「違う。大体、来訪者全員を幸せにするパーティーなんてあるか? この世に。」
「どっかにはあるんじゃないですかね? で、本日の面談ですが、」
「だからちょっと待てって。もうちょっとパーティーについて語らせてくれ。」
「はい、却下! 一人目の面談ですが・・・。」
「嫌だってば。立食パーティー!」
「そこまで嫌がるには何かトラウマでもあるんですか?」
「ない!」
「じゃあ何でなんですか?」
「・・・ローストビーフの取り合いをしなければいけないだろ?」
「はぁ?」
「立食パーティーの華と言ったらそれはもうローストビーフだ。昔から決まってる。」
「私個人としてはあまり好きではないので、その意識はなかったのですが。」
「出席者全員が横目でローストビーフを狙っているあの雰囲気! まるでジャングルの中でゲリラに狙われているような・・・。」
「考えすぎですよ、社長。」
「いや。やつらは私の純潔すらも狙っているはずだ。」
「違うよ! それ、被害妄想だから! 考えすぎだって。」
「社長、それでは一件目の面談前に、この書類に押印をお願いします。」
「これは何の書類だ?」
「今さっき、説明したじゃないですか・・・。今後、提携する仕入先との秘密保持契約です。」
「ついつい秘密を洩らしたくなったらどうしたらいいんだ? 私は結構、テンションだけで行動することがあるぞ。」
「何があっても絶対に漏らさないでください。そういう契約なんですから。」
「夜中に森で穴を掘って叫んでもダメか?」
「社長のお住まいの近くに森なんてないでしょうに。」
「たとえだよ、たとえ。相変わらず固いな~。体のいろんなところのパーツが金属で出来てるって噂だよ、畠山君の」
「どこがですか?」
「午前中から、それを聞きたい?」
「もし下ネタであればやめてください。忙しいので。」
「でも本当に我慢できなくなったらどうしよう? 愛人に話してもだめ?」
「あの秘書課の子は、秘密を1時間以上黙っておけない子なのでやめてください。」
「知ってたのか? 私達の関係を。」
「当然ですよ。社内で知らない人はいませんよ。率先してベラベラと社長とのデートについてしゃべってるんですから。」
「全社員が知ってるって・・・。」
「話を戻して・・・、もし暴露したくて死にそうになったらどうしたらいい?」
「そのくらいで死ぬならむしろ死んでください。・・・ああ、お風呂のバスタブの中に潜って叫ぶといいですよ。誰にも聞こえないですし。」
「実践的なアドバイスだな、けっこうやってるか?」
「割とやってますね。平日は週4くらいですか。」
「ほぼ毎日じゃないか! 原因はストレスか?」
「その通りです。」
「何が原因なんだ?」
「・・・本当にわからないんですか?」
「うん。全く、全然、皆無。」
「では気にしないでください。私のストレスは今後も減らなそうなので。」