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NEVER  作者: 管野緑茶
18/20

天高く届いて



それから二日後――

白羅は阿志田から「樺嶋が警察に出頭した」と聞いた。

二日前、弥生が屋上に落とした雷は、樺嶋には直接当たることはなく、目と鼻の先に落ちた。目の前に怒りの鉄槌とも言える稲妻を落とされた樺嶋は、その迫力に圧倒され、しばらくは声を発することも出来なかった。その後、白羅と弥生は樺嶋を置いてその場を去ったが、樺嶋は幽霊となってまで現われた弥生の怒りを目の当たりにし、観念したらしい。

 弥生にとっては一番よい結果だろう、と白羅は思った。

走って知らせに来たのだろう、息を切らした阿志田に、白羅は飲んでいたコーヒーの缶を握り潰しながら、「そうか」とだけ返した。

白羅がわざと淡白に返すと、肩で息をしつつ、阿志田は小さく呟いた。

「ありがとうな、国島」

「……あぁ?」

急な感謝の言葉に、白羅は首を傾げた。

阿志田は、笑っているような悲しいような顔で言った。

「また、国島が動いてくれたんだろ?」

「……違ェよ」

「またまた」

くすくすと阿志田は肩を揺らして笑った。

「何で隠しちゃうかなぁ」

「隠してねェよ」

まだ上手く感情の整理が出来ていないであろう阿志田がその笑顔を崩してしまう前に、白羅はくるりと背を向けた。

そして、ぼそりと独り言のように言った。

「今回は、アイツが自分でケリつけただけだ」

「……は……?」

間の抜けた声が、背後から聞こえてきた。

聞こえてきたが、無視しておいてやった。振り向くなんてことはしなかった。

無視していると、暫くしてかすかに鼻をすする音が聞こえた。

「……そっか、そうなんだ……」

震える声が、白羅の耳にはしっかり届いた。

「あいつなら、そんぐらい……しちゃうだろうなあ……」

背後で、彼は静かに泣いていた。

意味を理解したのかしていないのかは分からないが、確かに泣いていた。

しかし、少しだけ目線をやって見てみると、阿志田は目尻に涙を浮かべたまま、笑っていた。

「本当に、あいつらしい」

とても、嬉しそうに笑っていた。


阿志田と別れたあと、渡り廊下をたらたら歩いていた白羅は、突然誰かに呼び止められた。

聞いたことのある声に振り向くと、そこには左腕に包帯を巻いた沖野忠が息を切らして立っていた。

「沖野?」

「久し振りだな、国島」

額にうっすらと汗をかいた沖野は、にっかりと眩しい笑顔を浮かべた。その瞳には、以前会ったときにはなかった光が差していた。

通り魔事件のことを乗り越えたのだと分かった白羅は、特に笑い返すこともなく、沖野の腕を見て言った。

「腕、少しは良くなったか」

「んー。まあまあかな。もう少ししたらバット持てっかも」

後ろ頭を掻きながら、沖野はケラリと笑った。

数日前まで部屋に引き込もって負の感情ばかりを吐き出していた人間とは思えないほど、彼は清々しかった。

ふっきれた沖野は、笑顔を顔に残したまま、少し言いづらそうに呟いた。

「ありがとう、な」

「………」

二度目の感謝の言葉に、白羅は何も言わなかった。

ただ、黙った。

「通り魔、お前が捕まえてくれたんだろ? マジで捕まえるとは思わなかった」

「………」

「濱谷さんも、ありがとうって言ってたぜ。お前、ほんとにすげぇよ」

「………」

「一人であんな事件解決するなんて、ヒーローじゃん!」

「一人じゃねぇよ」

「え?」

唐突に返された言葉に、沖野は素頓狂な声を出した。

白羅は沖野を見つめて言った。

「……俺だけじゃねぇ。俺一人じゃ、解決出来なかった。アイツがいたから、終わらせることができた」

「アイツ……?」

沖野が首を傾げる。

「アイツって、誰?」

尋ねられて当然の質問に、白羅は口元を薄く吊り上げた。

そして、当たり前のように言った。

「雪村弥生」

「え、あ……?」

最も有り得ない名前を聞いて、沖野は疑問と理解が入り交じった声を漏らした。

「雪村って……」

「風紀委員の雪村。礼を言うなら、アイツにも言ってやれ」

それだけ言うと、白羅は呆然とする沖野に背を向けて足を進めた。

「お、おい! 国島!」

数歩進んだところで、呼び止められる。前と同じように。

しかし、白羅は足を止めなかった。止めてやるつもりはなかった。

すると、後ろから野球部らしいでかい声が飛んできた。

「国島! 雪村に伝えてくれ!」

そう離れてもいないのに、沖野はくそでかい声で叫んだ。

「 ありがとうって!! 」

天にも届きそうな声で、叫んだ。

廊下中に響き渡る声に、白羅は「うっせぇな」と小さく舌を打った。

「もう伝わってるっつーの」

そう独り言を言い、白羅は沖野の前から去った。




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